■あの頃のイメージを今に受け続くV60
昨今はSUVの「XC40」、「XC60」が売れ筋となってはいるが、ボルボといえばステーションワゴンというイメージを抱く人はまだまだ多いことだろう。日本では1990年代に「850エステート」が大ヒット。休日になると愛犬を連れて都会から別荘へ向かうワゴン…そんなイメージを作り上げたのが、850エステートとその後継モデルである初代「V70」だ。これら直線基調の“四角いボルボ”は、人生を楽しむ人のアイコンとして多くのユーザーから愛された。
あれから20年以上が絶った今、ボルボのラインナップで当時の850エステートやV70のポジションを担うのがV60だ。現行モデルは2018年夏に誕生した2代目で、ボディサイズは全長4760mm、全幅1850mmと、850エステートと比べるとひと回り大きくなっている。とはいえ、日本の道路や駐車場などでも取り回しがさほど苦にならないだけのサイズは死守している。
これは、日本のインポーターが「マンションなどに多い機械式立体駐車場に入庫できる大きさにして欲しい」と、スウェーデン本国の開発陣に強く申し入れたことで実現したものだ。ボルボが日本市場をいかに重視しているかがうかがえるエピソードである。
適度にシャープ、かつモダンなルックスはV60の持ち味のひとつだが、ワゴンとしての実用性に優れる点もこのモデルの美点だ。例えば529Lというラゲッジスペース容量は、メルセデス・ベンツ「Cクラス ステーションワゴン」やBMW「3シリーズ ツーリング」、アウディ「A4アバント」といったライバルを上回る。
それだけに、キャンプやウインタースポーツといったアクティブな趣味や、ドライブ旅行などで荷物をたくさん積み込むようなシーンにおいて、V60は大いに活躍してくれる。
■スポーティな仕立てのRデザインを初めて設定
そんなV60に、先頃、大きなニュースがあった。ひとつはグレード展開の拡大だ。まずエントリーグレードとして、「B4モメンタム」を新設定。従来の「T5モメンタム」に対し、電動テールゲートや非接触式キーの追加など装備レベルを引き上げつつ、アンダー500万円(499万円)というプライスタグを実現した。
加えて、「B5 Rデザイン」と呼ばれるスポーティグレードが追加された。Rデザインは、他のボルボ車にはすでに導入されているスポーティグレードだが、V60への導入は今回が初めて。
ボルボによると、Rの意味するところは“洗練さ(Refinement)”ということだが、スポーティな形状のフロントバンパーや、フロントグリル、サイドウインドウモール、ルーフレールをグロッシーブラック仕上げとしたスタイルは、見るからに速そうな雰囲気。
インテリアもホールド性に優れるスポーツシートを組み合わせるなど、内外装ともにスポーティな仕立てとなっている。
またサスペンションも、Rデザイン専用のスポーツサスペンションがおごられており、乗り味も独特の仕上がり。ちなみにカタログ記載値こそ同じだが、他グレードと比べるとわずかに車高が低くなっている。
今回試乗したV60は、そのB5 Rデザインだが、実はこのモデルにはスポーティなルックスと並ぶ見逃せないポイントがある。それが刷新されたパワーユニットだ。
ボルボは新興の電気自動車メーカーを除く既存の自動車メーカーとしては初めて、“全車電動化”を打ち出したブランドであり、パワーユニットのすべてにモーターを組み込んだハイブリッド化を推進している。すでに日本市場で発売されるモデルはすべて電動化が完了しており、V60のB5 Rデザインにも電動化されたパワーユニットが搭載されている。
ちなみに、ボルボの新パワーユニット搭載車には、ガソリンターボ車の“T”やディーゼルターボ車の“D”に代わり、“B”という頭文字が付く。B5を始めとするBシリーズは、ガソリンターボエンジンに小型モーターを組み合わせたマイルドハイブリッド仕様で、エンジンのクランクとベルトで結ばれたモーター兼発電機の“ISGM(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター・モジュール)”が、低回転域からの加速をアシストしたり、スムーズなエンジン始動をサポートしたり、運動エネルギーを回生してバッテリーモジュールに充電したりする。その結果、従来のパワーユニットに対し、10%ほどの燃費向上を期待できるという。
■気持ちのいいガソリンエンジンそのままの乗り味
そんなB5が搭載されたV60 B5 Rデザインの走行フィールは「気持ちいい」のひと言に尽きる。トヨタのハイブリッドカーに代表される、強力なモーターを組み合わせた“ストロングハイブリッド”に対し、B5などのマイルドハイブリッドはモーターによる走行感がないのが特徴。予備知識なくV60 B5 Rデザインをドライブすれば、モーターの存在に気づかないことだろう。いい換えれば“ガソリンエンジンそのままの乗り味”なのだ。
ただし、より正確を期すなら“気持ちのいいガソリンエンジンそのままの乗り味”という表現がふさわしい。モーターアシストを受けたB5は、力強く滑らかに発進する一方、アクセルペダルを深く踏み込むと高回転域まで素直に回り、T5以上の爽快感を味わえる。モーターが付いたから楽しくなくなった、なんてことはなく、逆にパワーフィールが良化しているのである。
まるで好印象のガソリンエンジンを想起させるパワーフィールこそB5最大の魅力だが、それを具現できたのは、ISGM搭載によるマイルドハイブリッド化に合わせて気筒休止機構を採用したり、シリンダーブロックやピストンの設計を変更したり、さらには、新しいターボチャージャーを導入したりといった、大幅な改良の成果が挙げられる。
大きすぎない適度なボディサイズでありながら、広いラゲッジスペースを備え、おまけに洗練されたパワーユニットを搭載するV60 B5 Rデザイン。かつて850エステートを所有していた人や、その存在に憧れていた人はもちろんのこと、流行りのSUVを避けながらもスタイリッシュかつ実用的な愛車を探している人にとっては、まさにぴったりの選択肢だ。
おまけに、スポーツサスペンションを搭載したV60 B5 Rデザインは、ステーションワゴンでありながら峠道を走っても楽しい。アクセル操作に対するパワーの出方が素直なのに加え、ドライバーが思った通りに向きを変えてくれる操縦特性だから、どこまでも走り続けたくなる。
しかも、コーナリング時の安定感は抜群で、その上、キビキビとした軽快感も好印象。V60 B5 Rデザインは、走りに一家言持つクルマ好きにも自信を持ってお勧めできる秀逸なステーションワゴンだ。
<SPECIFICATIONS>
☆B5 Rデザイン
ボディサイズ:L4760×W1850×H1435mm
車重:1760kg
駆動方式:FF
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ターボ+モーター
エンジン最高出力:250馬力/5400〜5700回転
エンジン最大トルク:35.7kgf-m/1800~4800回転
モーター最高出力:13.6馬力/3000回転
モーター最大トルク:4.08kgf-m/2250回転
価格:624万円
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文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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