新たな武器が加速に効く!ボルボ「XC60」のRデサインは電動化の美点が濃密です

■ワゴンからSUVへと主力車種をシフト

ボルボといえば、かつてはステーションワゴンのイメージが強いブランドだったが、今、そのラインナップの中核をなすのは、車名の頭に“XC”と付いたSUV。全長5mに迫る旗艦モデル「XC90」、全長約4.4mのエントリーモデル「XC40」、そして今回フォーカスするXC60の3台によって構成される。

ちなみに、ボルボの現行ラインナップでコンパクトモデルが用意されるのはSUVのみ。セダンやワゴンは存在せず、人気車種だったハッチバックの「V40」も生産がすでに終了している。こうした動きを見ても、また世界的な販売状況を見ても、ボルボの主力車種は完全にSUVへシフトしているのが分かる。

そんなボルボは、以前から世界最高レベルの安全性で高評価を得てきたブランドだが、加えて昨今は、クリーン化というテーマにも積極的に取り組んでいる。その方策のひとつが“電動化”。すでに日本向けモデルは、全車種がパワーユニットにモーターを組み合わせたハイブリッド仕様となっている。

その狙いは単純明快。燃費の向上と、欧州で社会的なテーマとなっている、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出量削減だ。EV(電気自動車)専門メーカーを除き、販売ラインナップのすべてを電動化したのは他の自動車メーカーに先駆けた動き。それを推し進めたボルボの本気度と実行力はさすがである。

■電動スーパーチャージャー採用の新たな心臓

今回採り上げるのは、世界規模でみるとボルボの最量販車種であり、実質的に中核車種となっている全長約4.7mのミドルサイズSUV、XC60だ。その最新モデルは、8月末のマイナーチェンジでパワートレーンを刷新。ディーゼルターボの「D4」を廃止するとともに、「T」の頭文字が付いていたガソリンターボに大幅な設計変更を加えつつモーターを組み合わせることで、「B」の頭文字を持つハイブリッド仕様へと一新している。

エンジンに組み込まれるのは、エンジンのクランクとベルトで結ばれたモーター兼発電機の“ISGM(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター・モジュール)”。出力の小さなモーター(最大出力13.6馬力、最大トルク4.08kgf-m)でアシストする、いわばマイルドハイブリッド車だ。そのため走行フィールは、トヨタ「プリウス」などの“ストロングハイブリッド車”のようにモーターで走る感覚が希薄で、エンジンを止めて走れる範囲にも限りがある。それでも実用燃費では、従来のパワーユニットに対して10%ほどの燃費向上を期待できるという。

そんな新しいパワートレーンで興味深いのは、環境性能の向上を謳いながらも、エコ一辺倒のユニットではないところ。例えば、最新型のXC60で最もベーシックなパワートレーンは、2リッター4気筒ガソリンターボエンジンにモーターを組み合わせた「B5」だが、その最高出力はエンジン単体で250馬力、最大トルクは35.7kgf-mと非常に強力だ。いずれもトヨタのリアルスポーツカーである「スープラ」のベーシックグレードよりハイスペックであり、一般的には文句なしにハイパワーユニットといえる。当然、走りのパフォーマンスもダイナミックだ。

しかし、最新のXC60で最も注目したいのは、「B6」と呼ばれる新登場の高出力タイプ。エンジン自体は、2リッター4気筒ガソリンターボでB5と同じだが、300馬力、42.8kgf-mを発生するなど、かなりパワフルな仕立て。もちろん、ISGMを組み合わせたマイルドハイブリッド仕様となる。

このB6でユニークな点が、電動スーパーチャージャーを組み合わせているところ。スーパーチャージャーとは、エンジン内へ強制的に空気を送り込んで出力を高めるアイテムだが、従来のそれは、ベルトなどを介してエンジンの動力を用い、空気をシリンダー内に送り込んでいた。だが、B6で実用化された電動式は、その名の通りモーターで作動するのがハイライト。ボルボはこういった部分でも電動化を進めていたというわけだ。

B6は、発進時や極低回転域ではモーターがエンジンをアシストするとともに、3000回転までの低回転域では電動スーパーチャージャーが、さらに、その上の高回転域ではターボチャーチャーが爆発力を高めるという“3つのアシスト”が働く。なんとも珍しいパワートレーンといえるだろう。

■走りの仕立ても“フツーのボルボ”とは違う

そんなB6を搭載するのは、XC60のスポーティグレード「B6 AWD Rデザイン」だ。フロントグリルやサイドのウインドウモール、ルーフレールなどがブラックにペイントされるほか、21インチのタイヤ&ホイールを収めるべく、XC60シリーズで唯一、フェンダーにエクステンションが備わるなど、見るからにスポーティな雰囲気だ。

インテリアも、アルミのデコレーションパネルを随所にあしらい、スポーティかつクールなムード。ナッパレザーと合成レザーによって上質な仕上げとしながら、ホールド性に優れる形状としたフロントシートなど、ボルボとしては異色の仕立てとなっている。

当然のことながら、走りの方向性も“フツーのボルボ”とは異なる。サスペンションは、標準仕様に対して約30%強化されたスプリングを持つハード仕様で、パワーステアリングもRデザイン専用のセッティングを採用。これらを見ただけでも、スポーティな走りが予感される。

その気になる乗り味は、想定内の領域と驚きの部分とがミックスされたものだった。

まず想定内だった部分は、以前、試乗したB5搭載モデルと同様、電動車といっても走行時のモーター感が皆無なこと。これは意見が分かれるところだが、「まだまだエンジンの感覚を楽しみたい」「慣れ親しんだフィーリングを失いたくない」という人にとっては、歓迎すべきフィーリングといえるだろう。モーター走行を主体とするストロングハイブリッド車と一線を画すどころか、いわれなければモーターがアシストしているとは感じられないナチュラルな乗り味で、ドライブしていて妙に落ち着く。

一方、驚かされたのは、モーターと電動スーパーチャージャーによる低回転域での反応の鋭さだ。例えば峠道において、コーナリングを終えて加速に移ろうとアクセルペダルを踏み込むと、パワートレーンが素早く反応。低回転域からグッとトルクを発生してくれるため、力強く加速していく。乗りやすい、というよりも、中間加速が速い印象で、涼しい顔をしつつも峠道を軽快に駆け抜けていく。

一方、低回転域を重視したエンジンは、一般的に高回転域が苦しくなりがちだが、B6はレッドゾーンが始まる6500回転まで気持ちよく、キッチリ回ってくれる。高回転域でパワーが炸裂するようなドラマチックなフィーリングこそないが、全域で力強い。これは、モーターと電動スーパーチャージャー、そしてターボチャージャーという3つの武器によって実現した魅力といえるだろう。

近年のボルボ車は、地球環境保護のために先進技術を続々と投入しているが、決してつまらないエコカーに成り下がってはいない。どのモデルに乗ってもドライバビリティの向上が著しく、むしろ、ドライバーが積極的にドライビングを堪能できるクルマに仕上がっている。その傾向は、今回のXC60 B6 AWD Rデザインにおいてはより顕著で、運転していて「つまらないクルマなんていらないでしょ?」と語りかけられているような気がした。

<SPECIFICATIONS>
☆B6 AWD Rデザイン
ボディサイズ:L4690×W1915×H1660mm
車重:1960kg
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ターボ+電動スーパーチャージャー+モーター
エンジン最高出力:300馬力/5400回転
エンジン最大トルク:42.8kgf-m/2100~4800回転
モーター最高出力:13.6馬力/3000回転
モーター最大トルク:4.08kgf-m/2250回転
価格:799万円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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