71年ぶりの進化でキャラ変!新しいランドローバー「ディフェンダー」は舗装路もイケる

■“走る化石”が71年ぶりに大変身

もしも今、“世界3大オフローダー”をリストアップするなら、ドイツのメルセデス・ベンツ「Gクラス」、日本のトヨタ「ランドクルーザー」、そして今回紹介するイギリスのランドローバー「ディフェンダー」を挙げたいと思う。

これを見て「あれ? アメリカのジープ『ラングラー』がないよ」という人がいるかもしれない。確かにラングラーは抜群の悪路走破性を備える魅力的なオフローダーだが、販売される国々が上記3台よりも少ないことから、“世界的に”というくくりの中では、Gクラス、ランドクルーザー、ディフェンダーとなる。

興味深いのは、上記の3台とラングラーは、いずれも軍用車両をルーツに持つという点。GクラスはNATO軍向けに開発された車両の民生用としてスタートしているし、初代ランドクルーザーは陸上自衛隊の前身となる警察予備隊向けを狙って開発されたものだ。また、ディフェンダーはイギリスを始め、オーストラリアやスイス、オランダなどの軍が採用しているし、ラングラーの祖先はもちろん、第二次世界大戦中にアメリカ軍の万能小型車として開発され大活躍した「ウィリスMB」だ。いずれも機能第一に開発され、現場で鍛え上げられた道具としての優れた実用性を根底に持つ。その結果が、高い信頼性と悪路走破力に反映されているのである。

そんな世界3大オフローダーのうちの1台であるディフェンダーが、先頃フルモデルチェンジ。日本での販売もスタートした。

先代は2016年まで生産されていたが、その基本設計は、1948年に量産を始めたモデルのそれを継承。ネーミングこそ1990年にディフェンダーと呼ばれるようになったが、その中身はまさに“走る化石”だったのだ。登場から70年以上経って初のフルモデルチェンジを迎えるとは、クルマとしてはまさに異例中の異例といえる。

■イマドキのSUVにも見劣りしない舗装路での振る舞い

71年ぶりに生まれ変わった新型は、その分、メカニズムの進化が目覚ましい。まず、大きな変更点として挙げておきたいのが、車体構造がラダーフレームからアルミ製のモノコックへと改められたこと。その一方、ボディタイプは先代と同様、「90」と呼ばれる3ドアのショートボディと、「110」と名づけられた5ドアのロングボディをラインナップし、後者には3列シート仕様も用意されている。

パワーユニットは、ガソリンエンジンが2リッター4気筒ターボの「P300」と、3リッター6気筒ターボの「P400」を用意。一方、ディーゼルエンジンは、マイルドハイブリッドを組み合わせた3リッター直列6気筒ターボの「D200」、「D250」、「D300」を設定している。これらに加え、先頃ガソリンエンジン車のプラグインハイブッド仕様「P400e」も追加された。ただし、日本市場向けに展開されているのは、現時点では「P300」と「D300」のみ。今後、少しずつラインナップを拡大していくものと思われる。

ディフェンダーの魂ともいえる悪路走破性は、従来にも増して高いレベルにあるのはいうまでもない。駆動方式はフルタイム4WDだが、本格オフローダーらしくローレンジを備え、センターデフとリアデフはそれぞれロックすることが可能だ。

加えて、路面状況に応じて走行モードを6パターンから自動で切り替えるほか、ドライバーの好みに応じたカスタマイズもできる“テレインレスポンス”や、エアサスペンション装着車に採用される最大185mmもの車高調整機能など、都会派のSUVとは一線を画すオリジナル機能もふんだんに搭載されている。

その結果、エアサスペンション装着車のオフロードモード時には、最低地上高291mm、アプローチアングル37.5度、デパーチャーアングル40度、登坂能力45度以上、そして、渡河水深性能(走行できる水の深さ)900mm…という、驚きのスペックが並ぶ。こうして悪路走破性に関する数値を並べただけでも、並みのSUVや四駆との違いが鮮明になってくる。

一方、舗装路面における乗り味は、すっかりイマドキになっているのが興味深い。先代モデルは“走る化石”だったこともあり、操縦性や快適性などは現代のクルマと同じ土俵に立てるレベルにはなかった。ある意味、道具であることに徹底したクルマ、もしくは、マニアのためのクルマだったのだ。

しかし、現代のテクノロジーを投入された新型は、ドライバビリティから静粛性、乗り心地といった快適面まで、オンロードにおける振る舞いがイマドキのSUVと比べても全く見劣りしないレベルに達している。

つまり新型ディフェンダーは、日常のパートナーとしても選べるクルマへと変貌を遂げたのだ。

■変化と継承がミックスしたモダンなルックス

そして、新しいディフェンダーを語る上でもうひとつ外せないのが、そのスタイリングだ。

日本で先代ディフェンダーを手に入れた多くの人は、悪路走破性うんぬんではなく、無骨なスタイリングを個性と捉えて選んでいたに違いない。つまり見た目こそが、先代モデルのアイコンだったのだ。その点、新しいディフェンダーは、クラシックであることにこだわったメルセデスGクラスのモデルチェンジとは異なり、一気にモダンな方向へと舵を切ってきた。

モダンなデザインによる圧倒的な存在感が多くの人の目を惹きつける新型だが、ひと目でディフェンダーだと分かる個性も健在だ。四角いことを重視した全体のフォルムや、ルーフ後方の側面に明かり取りの窓を設けるといった先代モデルの“らしさ”を新型でも採用。こうした遊び心あふれる“継承”の手法が実に巧みで、新型ディフェンダーも先代と同様、見た目で欲しくなるクルマとなっている。

それはインテリアも同様。全体のデザインやスイッチ類の配置は、奇をてらうことのないシンプルなものだが、先代モデルで感じられた無骨さや質実剛健といった印象は一切ない。

逆に、コックピットの中央やメーターパネル内に配された液晶ディスプレイに走行モードの状況や多彩な情報を映し出すなど、ちょっとした先進性を感じさせる室内へと大変身している。

そんなディフェンダーと数日間をともにして感じたのは、新型は“みんなを幸せにするクルマ”だということ。手に入れたオーナーの所有欲を満たしてくれるのはもちろんだが、街を行く人の多くがこのクルマを眺め、中には、駐車所に停めたディフェンダーを舐めるようにチェックする人もいた。そして、それらの人々が皆、笑顔だったのが印象的だった。

先代モデルとは異なり、新型ディフェンダーが醸し出すどこか優しい雰囲気が、回りの人を癒してくれるのだろうか。愛嬌が増した新型は、多くの人々に愛されるキャラクターの持ち主にもなったようである。

愛嬌ある見た目だけで欲しくなり、実際に乗ってみたら現代的な乗り味の良さに感動する。新型ディフェンダーはリアルオフローダーの概念を変えてくれる1台だ。

<SPECIFICATIONS>
☆110
ボディサイズ:L4945×W1995×H1970mm
車重:2280kg
駆動方式:4WD
エンジン:1995cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:300馬力/5500回転
最大トルク:40.8kgf-m/1500〜4000回転
価格:619万円


[関連記事]
ひと目ぼれ間違いなし!新型「レンジローバー イヴォーク」もデザインが買いのクルマです

【レンジローバーヴェラール試乗】“イマドキSUV”にちょうどいい2Lガソリンターボの本当の実力

専用設計×SUVスタイルでEVの夢広がる!ジャガー「I-PACE」は走りと広さに驚きます


文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

トップページヘ

この記事のタイトルとURLをコピーする