【日本車編】2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車のホントの実力:岡崎五朗の眼

■走りでも輸入車に見劣りしない秀逸な日本車勢

スバル レヴォーグ

新型「レヴォーグ」の最大の魅力は、機械としての圧倒的な出来の良さだ。まず、ボディが驚くほどガッチリしている。もともと高い剛性を備える“SGP(スバルグローバルプラットフォーム)”をベースに、溶接の自由度が増す“フルインナーフレーム構造”を採用したほか、構造用接着剤を多用。走り始めた瞬間から「ボディ剛性が高いとはこういうことか!」と誰もが納得できる走り味を伝えてくる。

そんな優れた基本性能をベースに、ハンドリングはステアリング操作に対する遅れのなさと、扱いやすさを高度に同居させた特性を実現。最も進化した自動運転レベル2である“アイサイトX”の極めて自然なステアリングアシストも、優れたシャーシ性能に依るところが大きい。荒れた路面で時折感じるタイヤの固さがもう少しマイルドになればパーフェクトだ。

パワートレーンの仕上げも上々だが、今の時代性を考えると16km/Lという燃費性能は物足りない。すでに技術発表済みである“ボクサーハイブリッド”仕様の登場が待たれる。

<Goro’s EYES>
〇 シャーシ性能を中心とする圧倒的なハードウェア性能
× 16km/Lにとどまる燃費性能

* * *

トヨタ ヤリス/ヤリスクロス/GRヤリス

「ヤリス」ハイブリッド仕様の燃費は36km/L(欧州CAFE基準の二酸化炭素排出量は64g/km)。使い勝手やコストにおいて依然として問題を抱えるEV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッドカー)に依存せずともこれだけの数値を出せるとなれば、まさにゲームチェンジャーになり得る。ユーザーニーズを無視したEV一辺倒の偏った環境政策を掲げる国々や人々に与える影響は計り知れないほど大きい。

トヨタ ヤリス

そんなヤリスの美点を人気のクロスオーバーSUVとして提案するのが「ヤリスクロス」。車重がヤリスより100kg以上重く、空気抵抗も大きいため燃費データは若干落ちるが、それでも30km/Lを超えてきたのは立派だ。

トヨタ ヤリスクロス

一方「GRヤリス」は、WRC(世界ラリー選手権)で勝つことを目的に開発されたスポーツモデル。“GRファクトリー”と呼ばれる専用工場で、量産車のレベルを超えた高精度で組み上げられる。

外見はベースであるヤリスによく似ているが、空力性能を徹底的に追求した2ドアボディはGRヤリス専用。272馬力の1.6リッター3気筒ターボと4WDとを組み合わせたハイパワーグレード「RZ」の痛快な走りもさることながら、120馬力の1.5リッター3気筒自然吸気エンジンを搭載するFF仕様「RS」の素直な走りもなかなか魅力的だ。

ただしRSは、トランスミッションがCVTだけなのは惜しい。より多くの若い人たちにドライビングの楽しさを知ってもらうためにもMT仕様の設定を望みたい。

トヨタ GRヤリス

<Goro’s EYES>
〇 驚異的な燃費(ヤリス)/タイムリーな商品企画(ヤリスクロス)/走り&生産方法の革新(GRヤリス)
× GRヤリスのRSグレードにMTがない

* * *

日産 キックス

「キックス」は、日産自動車が強力に推し進める電動パワートレーン“e-POWER”を搭載するクロスオーバーSUV。他社のハイブリッドがエンジンとモーターの両方で走るのに対し、e-POWERはエンジンで発電した電力のみを使いモーターで走る。燃費は21.6km/Lにとどまるが、100%電動駆動のメリットを活かした優れた静粛性や、アクセルペダルを踏み込んだ時のレスポンスの良さなど、走りの気持ちよさには高い得点が与えられる。

しかも、キックスが搭載するe-POWERは、「ノート」などが搭載する第1世代に対して改良が加えられていて、上述した走行フィールにさらに磨きが掛かっている。具体的には、走行中にエンジンが掛かる頻度が減り、さらにエンジンが掛かった際に聞こえてくるエンジンノイズが小さくなった。結果として、シリーズ式ハイブリッドでありながら、よりEVに近い走行フィールを楽しめる。

とはいえキックスは、今から4年前に海外で発売がスタートしたモデル。日本導入を機にe-POWERの搭載や静粛性の対策、シャーシ性能の改善といった機能向上を果たしたが、イマドキのSUVとしては内外装に新しさを感じないのが不満だ。

<Goro’s EYES>
〇 進化したe-POWER
× ベースは4年前に海外で登場したモデル

* * *

ホンダ フィット

ミリ単位の室内寸法やコンマ数キロ単位の燃費など、数字に徹底的にこだわった先代「フィット」。しかしそれは果たしてユーザーが望むものだったのだろうか? 新型フィットの開発はそんな反省から出発した。

結果、開発キーワードになったのが「心地よさ」。わずかなスペックの差ではなく、乗る人がどう感じ、どう楽しむか、そこにスポットライトを当てたのが新型というわけだ。そんなコンセプトは外観でも表現されている。シンプルでナチュラルなデザインは、ビジーだった先代とは対照的。乗り込むとホッとできるインテリアにも同じことがいえる。特筆すべきは視界の良さ。特に極細フロントピラーが生み出すパノラミックな視界は圧巻だ。広々しているだけでなく、死角の減少は安全性向上にも直結する。

29.4km/Lという燃費はヤリスには及ばないものの及第点。通常時の走りも悪くはないが、アクセルペダルを素早く踏み込んだ際の加速レスポンスや急加速時のエンジン騒音、そして荒れた路面での乗り心地には課題を残す。

<Goro’s EYES>
〇 脱スペック主義から生まれた気持ちよさ
× 荒れた路面での乗り心地

* * *

マツダ MX-30

ひと足先に登場した「CX-30」と多くのメカニズムを共有しつつ、異なる世界観を巧みに演出しているのが「MX-30」の魅力。逆にいえば、MX-30の世界観を気に入るかどうかが評価の分かれ目になる。

まず注目すべきなのがデザイン。従来のマツダテイストとは明らかに方向性が違う。研ぎ澄まされた美しさが従来の方向性だとすれば、MX-30のデザインは肩から力の抜けた癒やし成分を多く含む。それでいて没個性かといえば決してそんなことはなく、むしろ個性は強まっている。直線基調のショルダーライン、愛嬌はあるがスウィートすぎない顔つき、表情豊かな後ろ姿…そしてハイライトとなるのがクーペのように強く傾斜したリアピラーだ。

この独特なスタイルと後席の乗降性を両立するために採用されたのが観音開きの“フリースタイルドア”。フリースタイルドアありきではなく、最初にデザイン案があり、それを実現するべくフリースタイルドアを採用したと考えるのが正解だ。またインテリアはデザイン、質感、センスともに最高の出来栄え。日本車としては最もカッコいいインテリアだと思う。

MX-30は、“マツダ電動化戦略の先兵”という役割も与えられているが、現状は2リッターのマイルドハイブリッド仕様のみというのは残念な部分。しかし2021年早々にはバッテリーEV、続いて2022年には発電用のロータリーエンジンを搭載したレンジエクステンダー式EVなども加わる予定だ。

<Goro’s EYES>
〇 素晴らしいデザインセンス
× 現状はパワートレーンの選択肢が限られる

>> 日本カー・オブ・ザ・イヤー公式サイト


[関連記事]
混戦必至!2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー候補車の気になる実力①:岡崎五朗の眼

【検証2019-2020年の注目車①】3年ぶりに復活の「RAV4」がNo.1に選ばれた理由とは?

【検証2019-2020年の注目車③】デザイン賞があれば…次点の「マツダ3」は何がスゴい?:岡崎五朗の眼


文/岡崎五朗

岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

トップページヘ

この記事のタイトルとURLをコピーする