デザインも走りも大幅進化のアウディ「A4」で名機“クワトロ”の真価を再実感

■4WDの概念を大きく変えたクワトロ

イタリア語で“4”を意味するクワトロは、4本のタイヤにエンジンの駆動力を伝えることからその名がつけられた。しかし、なぜドイツ車のメカニズムなのにイタリア語の機構名なのだろう? それは、ドイツのどんな街へ行っても美味しいイタリア料理屋があるくらい、ドイツ人がイタリア好きなことが影響しているものと思われる。

クワトロが登場した40年前まで、4WDといえば、ジープやトヨタ「ランドクルーザー」といった足場の悪い道を走るための手段でしかなかった。そんな中で登場したクワトロが画期的だったのは、悪路を走るためではなく、舗装路を安定して速く走るために4WDを活用したこと。4WDの概念を大きく変えたことが、クワトロ最大の功績といえる。

ちなみにアウディの4WD車比率は、SUV専売メーカーを除くと世界のメジャーメーカーの中で2番手(1位は日本のスバルで生産車両の9割以上が4WD)。クワトロを搭載したアウディ車は、2020年9月末時点で1094万7790台が生産され、現在ではアウディが生産する車両の約44%がクワトロ搭載車となっている。

そんなクワトロの優れた実力を世に知らしめた1台ともいえるA4が、先頃、マイナーチェンジ。日本でもデリバリーが始まった。

A4はメルセデス・ベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」と並ぶ、いわゆる“Dセグメント”に属すセダンで、日本車でいえばレクサス「IS」などがライバルに相当する。いずれもプレミアムブランドのモデルだが、アウディのA4がCクラスや3シリーズ、そしてレクサスのISと大きく異なるのは、その駆動方式だ。Dセグメントのセダンは後輪駆動を採用するのが一般的だが、A4は前輪駆動を基本とし、上位モデルには自慢のクワトロを採用するなど、我が道を行く。

歴史を振り返ると、アウディは直列5気筒エンジンやエンジンを縦置きにマウントした前輪駆動、軽量かつ高剛性のアルミスペースフレームなど、独自理想に基づく個性的な技術を多数採用してきた。滑りやすい路面状況でクルマの挙動が安定する4WDの採用も、そのひとつといえる。今でこそ、メルセデス・ベンツやBMWもセダンやスポーツカーに4WDを積極採用するようになったが、プレミアムブランドにおけるその先駆者は、何を隠そうアウディなのだ。

■デザインの変化と心臓部の電動化

話を最新版のA4に戻すと、エンジンは2リッターの4気筒ターボで、前輪駆動の「35 TFSI」系が150馬力、クワトロを採用する「45 TFSI クワトロ」系が249馬力を発生する。いずれも、4ドアセダンとステーションワゴンの「アバント」を選べ、またアバントの派生モデルとして、車高をアップさせて悪路走破性を高めたクロスオーバーモデル「A4 オールロード クワトロ」も用意する。こちらは45 TFSI クワトロと同じ、249馬力の2リッター4気筒ターボエンジンを搭載。そのほか、354馬力の3リッターV型6気筒ターボを搭載する高性能モデル「S4」も存在する。

そんな新しいA4には、3つの驚きが隠されていた。

ひとつ目は、エクステリアの変化。マイナーチェンジにも関わらず、ひと目見た瞬間“新しい”と感じられるものに仕上がっている。その大きな理由は、ボディ外板パネルのほぼすべてが刷新されたこと。マイナーチェンジゆえ基本的なプロポーションこそ変わらないが、フロント回りはアウディの最新テーマに基づいたものに刷新され、車体側面のパネルもすべて新しくなった。

現行のA4がデビューした2016年頃のアウディ車は、ボディ側面を前後に貫く、一直線のシャープなラインをデザインアクセントとしていた。しかし、2018年秋に日本へ上陸したフラッグシップサルーン「A8」辺りから、イメージを大きくチェンジ。フェンダーの張り出しを立体的に強調したデザインを採用しているが、それが今回、新しいA4にも導入されている。

それに伴い新しいA4は、全幅が従来モデル比で5mm拡大された。また、フロントバンパーは左右の開口部がアグレッシブな形状となり、前から見た時の従来モデルとの違いを明確にすると同時に、躍動感を強調している。対するリアスタイルは、エンジンの排気口がバンパーに組み込まれた新デザインが目を惹く。

新しいA4でふたつ目の驚きが、S4を除く全車にマイルドハイブリッドを採用したこと。

今、ヨーロッパ車は急激な勢いでハイブリッド化が進んでいるが、その中心となっているのは、トヨタ車のように高出力モーターを組み合わせた“ストロングハイブリッド”ではなく、強化したスターターモーター兼発電機をエンジンのサポートに用いる、モーター出力の小さな仕掛けだ。ストロングハイブリッドのように大幅な燃費アップこそ望めないものの、エンジンが苦手とする発進などをサポートしたり、高速道路で負荷の少ないクルージング中にエンジンを止めたりといった地道な方法により、少しずつ燃費を稼いでいく。

新しいA4のハイブリッドシステムは、10Ahの12Vリチウムイオンバッテリーを組み合わせたもので、日本の軽自動車が採用するそれに近い。100km走行当たりの燃料セーブ量は最大0.3Lとわずかだが、コストの増加が最小限に抑えられているのは朗報だ。ちなみに、そうしたメカの構成もあって、走行フィールにおける“ハイブリッド感”はほぼ皆無といえる。

■熟成ボディと最新のクワトロで乗り味が劇的進化

そして、新しいA4における3つ目の驚きは走りの進化。これが最も大きな驚きだった。

しばしば「いいクルマは50m走れば分かる」といわれる。これは大げさなようでいて、あながち間違いでもない。中には走り出してすぐに「これはいいクルマだ!」と実感できるクルマもあるほどだ。新しいA4も、そうした部類に属すモデルだった。さすがに50mとはいかないが、500mも走ると「この“いいクルマ感”はなんだろう?」という疑問が頭の中を駆け回った。

中でも、走りの良さを最も濃密に伝えてくるのは車体の挙動だ。ちょっとハンドルを切って曲がり始める時、ブレーキを踏んで車体が沈み込む時、そして、段差を乗り越えた際の衝撃を吸収する時…。いずれも、サスペンションが滑らか、かつ、しっかりと動き、ムダな動きが生じることなく、車体の姿勢が落ち着いている。正直なところ「あれ、A4ってこんなにいいクルマだったっけ?」と思わずにはいられなかった。ちょっと動かしただけで、完成度の高さを感じられたのだ。

その理由はどこにあるのか? インポーターであるアウディ ジャパンの広報担当者は「本国の資料を見ても、車体の進化に関してはひと言も書かれていないのです。しかし、工作精度が上がって車体がより強固になり、結果的に乗り味が磨かれたのだと思います」と語る。

確かに今回のビッグマイナーチェンジでは、車体外板の刷新とともに、生産工程などの変化もあったはず。それにより、車体が進化したのかもしれない。ひと言でいえば“熟成”なのだろう。そこに、リフレッシュされたサスペンションが加わり、挙動の洗練度が高まったと考えれば合点がいく。

加えて、今回試乗したA4セダンの「45 TFSI クワトロ Sライン」は、スポーティに走らせた時の刺激も強い。ドライバーの思い通りによく曲がるし、エンジンも鋭く反応する上にパワーの盛り上がりを感じさせるなど、エモーショナルに仕立てられている。曲がりくねった峠道をスポーツカーのように楽しく走れることに感心させられたほどだ。4WDらしく優れたスタビリティを保ちながら、4WDであることを感じさせない素直でクセのない操縦性も両立…。これが40周年を迎えたクワトロの現在地なのである。

ちなみに、新しいA4に乗って「そうだよね!」と納得させられたのは、インパネ中央に配置された大型のディスプレイ。10.1インチの特大サイズで、画面の大型化が著しい昨今のトレンドに従っている。

しかも、単に大きくなっただけではない。新たにタッチパネル操作を採用するなど、タッチパネルに慣れ親しんでいる日本人にとって、扱いやすいインターフェイスとなったのだ(従来のそれはセンターコンソールにあるコマンダーで操作していた)。

ユーザーフレンドリーという視点から見た今回のマイナーチェンジにおけるハイライトは、このモニターといえるかもしれない。

<SPECIFICATIONS>
☆45 TFSI クワトロ Sライン
ボディサイズ:L4770×W1845×H1410mm
車重:1610kg
駆動方式:4WD
エンジン:1984cc 直列4気筒 DOHC ターボ+モーター
最高出力:249馬力/5000〜6000回転
最大トルク:37.7kgf-m/1600~4500回転
価格:627万円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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