■6年連続で欧州ナンバーワンの“Bセグ”王者
2020年2月、ついに欧州市場で販売台数トップの座に立ち、その後、5月、6月にも欧州のトップセラーとなったルノーのクリオ。ライバルのゴルフは、フルモデルチェンジした新型の発売がヨーロッパ全域に広がらなかった等の事情があったにせよ、クリオが絶対王者の牙城を崩したことは大きなニュースに。結局、欧州の2020年上半期の販売台数は、クリオがゴルフを上回る結果となった。
それほどの人気を誇りながら、ルノーのクリオと聞いてピンと来る日本人は少ないかもしれない。なぜなら、日本市場では違うネーミングで呼ばれているからだ。クリオの日本名は「ルーテシア」。その新型が、2020年11月、ついに日本でも発売された。
クルマの“格”を示すセグメントでいうと、ルーテシアは“Bセグメント”に属すコンパクトカーだ。このクラスは、トヨタ「ヤリス」やホンダ「フィット」、そしてフォルクスワーゲン「ポロ」といった強豪が存在する激戦区だが、そんな中にあって、ルーテシア=クリオは6年連続で欧州ナンバーワンの販売台数をマークしているといえば、その人気の高さを想像できるに違いない。ちなみにルノーの本拠があるフランスに限っていえば、最も売れている乗用車として、Cセグメントのゴルフを超える人気を誇る。
■エクステリアは継承、内装とメカは大幅刷新
初めて新型ルーテシアを前にしての第一印象は「美しいデザインだけど、本当にフルモデルチェンジしたの?」というもの。筆者は先代ルーテシアのオーナーだから、同車についてちょっとは詳しいと自負している。「しかし」というより、「だからこそ」なのかもしれないが、新型と初めて対面した際、「あまり変わっていないな」と感じたのだ。
とはいえそれは、ルノーの戦略でもあった。彼らはヨーロッパ市場における人気の秘密がデザインにあると考え、キープコンセプトを貫いたのだ。パッと見た際の真新しさよりも、ルーテシアらしさを優先したのである。とはいえ、ルノーの名誉のために補足しておくと、外観上、先代ルーテシアと同じパーツはひとつもないとのことである。
一見、変化に乏しい新型ルーテシアだが、中身のメカニズムはガラリと変わった。例えば、クルマの骨格ともいえるプラットフォームは、ルノーが中心となって開発し、今後、日産自動車や三菱自動車工業のクルマにも使われるとされる“CMF-B”と呼ばれるタイプを初採用。そのほか、排気量1.3リッターの直噴ターボエンジンは新設計されたものだし、デュアルクラッチ式のトランスミッションは従来モデルから1速増えて7速となり、クラッチも乾式から湿式へと変更されている。車体の基本構造からパワートレーンまで、主要メカはほぼ刷新されていて、まさに「変わっていないのはデザインだけ」ともいえるフルモデルチェンジなのだ。
インポーターであるルノー・ジャポンの広報担当者は「サイズこそBセグメントだけど、それ以外の性能はCセグメント」と語るが、実際に新型ルーテシアに触れてみると、実に的を射た発言だと実感させられる。新型が“ひとクラス上”の完成度を誇るポイントは、具体的には以下の5つである。
まずは実用性。実は先代ルーテシアは、同クラスのライバルより車体が少し大きく、その恩恵で前後シートやラゲッジスペースにゆとりがあったことも人気の理由のひとつだった(ライバル各車もその影響を受け、フルモデルチェンジの際にサイズを拡大している)。新型ルーテシアは先代モデル比で全長を20mm縮めたものの、依然として前後シートは広々としている。
加えて、ラゲッジスペースの容量はプラス61Lの391Lを確保。参考までに、間もなく日本に上陸するとされる次期型ゴルフの荷室容量は380Lというから、新しいルーテシアの荷室はひとクラス上のモデルよりも広いことになる。
ふたつ目は、インテリアの質感だ。キープコンセプトとなったルックスとは対照的に、インテリアのデザインは大きく刷新された。中でも驚くのは、質感の高さ。ダッシュボードにとどまらず、ウインカーレバーやワイパーレバーの先端にまでクロームのアクセントを配したちょっとリッチな雰囲気は、Bセグメントの車種とは思えないほど。それどころか、トヨタ「カムリ」など上級セダンが属す“Dセグメント”にも迫りそうな上質感だ。
さらに恐れいるのは、ダッシュボードを始めとする各部の表面に、ソフトパッドと呼ばれる柔らかい素材を多用していること。ソフトパッドは、使用範囲が広ければ広いほど、触感と視覚の両面から上質さを訴求できる素材だが、新型ルーテシアではインパネはもちろんのこと、ドアパネルやシフトレバーの周囲まできっちりソフトパッド仕上げとしている。
とてもBセグメントとは思えないコストの掛け方だ。コンパクトカーでここまでやるのは、常識外れどころか信じられないことだし、「心地良さでライバルを凌駕してやろう」という開発陣の執念のようなものが感じられる。きっと購入者たちは、高い満足度を得られることだろう。
3つ目は、安全性の高さと先進安全装備の充実ぶりだ。ヨーロッパの第三者機関が行う衝突テストにおいて、新型ルーテシアは最高ランクである“ファイブスター=5つ星”を獲得。最新モデルであっても、ファイブスターに満たないライバルが存在する中、ルノーは徹底的に衝突安全性にこだわってきたことがうかがえる。
その上、先代モデルには“皆無”だった先進安全装備も、レーダーとカメラを使った衝突被害軽減ブレーキを始め、コンパクトカーの最高レベルにまで拡充。さらに運転支援システムでは、渋滞時の停止保持まで含めた高速道路走行時の速度調整を自動で行う全車速域ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)や、車線の中央部を維持しながら走るようハンドル操作をアシストする“レーンセンタリングアシスト”などを装備し、ロングドライブ時のドライバーの疲労感を軽減してくれる。
そのほか、クルマの周囲360度を真上から見下ろした映像をリアルタイムで表示し、狭い場所での運転や車庫入れ、安全確認などをサポートしてくれる“360°カメラ”も用意するなど、日々の取り回しにも配慮している。
こうした分野は、Bセグメントでは日本車が先行していた感があったが、新型ルーテシアのそれは、まさに日本車と同等の充実ぶりといっていい。輸入車としては完全にクラスを超えていると断言できる。
■滑らかなエンジンと安定感抜群のフットワーク
続いて4つ目のポイントはエンジンだ。新型ルーテシアが属すBセグメントでは、今、直列3気筒エンジンが主流となっている。フォルクスワーゲンのポロやプジョー「208」、そしてMINIの各モデルなど、欧州の人気モデルにとどまらず、トヨタのヤリスや日産「ノート」といった日本車も、3気筒を採用している。
しかし新型ルーテシアの主力は、従来モデルと同様、4気筒エンジン。その恩恵もあって、エンジンの滑らかさが格段に違う。3気筒に対するアドバンテージは、エンジンを始動させた瞬間から感じられる。アイドリング時の振動が圧倒的に少なく、ドライバーはもちろん助手席やリアシートの乗員も快適だ。また、アクセルペダルを踏み込んだ際の回転上昇に伴うフィーリングも滑らか。完全にひとクラス上の上質感を備えている。
もちろん4気筒エンジンは、3気筒に比べて製造コストが余計にかかるし、燃費などの効率面でも劣るため、経済性に限って見ればメリットはない。しかし、3気筒に比べれば乗っていて圧倒的に上質だし、街中を含めた200kmほどの試乗で15km/Lほどという燃費も、大きなハンデにはならないと思う。
ちなみに新型ルーテシアのエンジンは、ルノーグループが提携を結ぶダイムラー傘下のメルセデス・ベンツと共同開発したもの。とはいえ、メルセデスはパワー重視なのに対し、ルノーはトルク重視型と味つけが異なるのが面白い。新型ルーテシアの場合、自然吸気の2.4リッターエンジンに相当するほど最大トルクが太く、それを1600回転と低い回転数から発生するため、とても運転しやすいのが特徴だ。
そして、最後5つ目のポイントは走りである。新型ルーテシアは走行中の安定感が素晴らしく、まるで大きなクルマに乗っているかのような走行フィールを味わえる。これは、サスペンションの味つけが優れているのはもちろんのこと、車体自体がしっかり作られていることの恩恵ともいえる。
直線路では、細かなハンドル修正など必要とせず、真っすぐ突き進んでいくなど直進安定性が抜群に高く、さらには、路面の凹凸を乗り越えた時などは衝撃をしっかりといなし、不快な入力を乗員まで伝えてこないのが素晴らしい。
一方、コーナーに差し掛かってハンドルを切ると、クルマが素早く反応し、気持ち良く曲がってくれることに驚かされる。走りのおける安定感と旋回性能のバランスの高さは、とにかく目を見張るものがある。
このように、実用性が高く走りもハイレベルと、クルマの完成度では同クラスの輸入車を凌駕している新型ルーテシア。それでいて価格は、ライバルと等々かそれ以下を実現しており、コスパの面でも優れている。
今回、新型ルーテシアに触れてみて、このモデルがヨーロッパでヒットしていることに大いに納得させられたし、ここ日本で乗っている人を見ると「分かってるなぁ」と思わずにはいられない。「小さいけれど、ボディサイズ以外はひとクラス上」というルノー・ジャポンの説明は、決してオーバーではなく、実に的を射た表現である。
<SPECIFICATIONS>
☆インテンス テックパック
ボディサイズ:L4075×W1725×H1470mm
車重:1200kg
駆動方式:FWD
エンジン:1333cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:131馬力/5000回転
最大トルク:24.5kgf-m/1600回転
価格:276万9000円
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文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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