■美しさを求めてクーペスタイルを採用
GLEクーペはSUVであるにもかかわらず、なぜクーペスタイルを採用したのか? それは美しさを求めての結果にほかならない。
このカテゴリーの先駆者は、2008年に登場したBMWの「X6」。SUVなのにリアウインドウを大きく寝かせ、クーペスタイルを採用するという発想は斬新だった。それから12年以上が経過した今、クーペSUVは着実に市民権を得た。X6は今や3世代目となったのに加え、BMWはX6よりひと回り小さい「X4」を製品化。ライバルであるメルセデス・ベンツも、X6の対抗馬としてGLEクーペを展開しているし、X4と同クラスに「GLCクーペ」をラインナップしている。
日本車勢はこれらドイツ勢ほど極端ではないものの、大人気を誇るトヨタ「ハリアー」がラゲッジスペース容量を割り切ってデザイン重視のクーペスタイルを採用しているし、マツダには先日登場した「MX-30」のほかに、中国マーケット専用だが「CX-4」という「CX-5」のクーペ版だって存在する。
このように、もはやクーペSUVはカージャンルとしてしっかり確立され、ニッチではあるものの、多くのメーカーが多彩な車種をラインナップするだけのニーズがマーケットにはきちんと存在している。
では、クーペSUVを求めるのはどんな人か? 想像の域を出ないが、きっとSUVのエクステリアデザインに軽快さやスタイリッシュさを求め、広大なラゲッジスペースは必要としない人だろう。
もちろんクーペSUVは、リアシートの背もたれ上端までラゲッジスペースが確保されているから、同サイズの一般的なセダンと変わらない使い勝手も実現している。その上、見た目から想像するよりもキャビンがはるかに“使える”。リアシートの空間は、一般的なSUVと比べると頭上スペースが少し狭いが、ロングドライブもラクにこなせるだけの居住性は保たれている。背の低い一般的なクーペとは異なり、これならファミリーユースでも不満は出ないだろう。
つまりクーペSUVは、カッコいいのに実用的なクルマ、ということになる。しかも、ちょっとスタイリッシュという程度では埋没してしまうSUVブームの中にあって、個性や周りのクルマとの違いをアピールできるのだから、こだわり派が放っておくはずがないのである。
■“らしくない”直列6気筒ディーゼルエンジン
ここに紹介するGLEクーペは、2020年にデビューした最新モデルだ。ベースとなったのは現行のGLEで、プラットフォームを始めとする各種メカは、メルセデスの最新世代のものが投入されている。
それにしても、なんという大きさだろう。全長は5mに迫り、全幅は2mを超える実車を前にすると、その威風堂々とした姿に圧倒される。他社のラージサイズSUVに迫る大きさだ。
とはいえそれが、逆に後席を始めとするキャビンのゆとりにつながっている。後席は車高が高いこともあって乗り降りが少々しづらく、サイドウインドウが小さいため車内にいると開放感に乏しいが、足下や頭上といった絶対的なスペースは十分以上。特に横方向はとてもゆったりしている。これなら家族や仲間を乗せても文句をいわれることはないだろう。
そんなインテリアの仕立ては、ひたすら上質で先進的だ。本革シートを標準装備する上に、インパネの表皮には本革に近い感触の人工レザーが張られる。また、12.3インチの液晶モニターがふたつ並んだコックピットは、見るからに新しさを感じさせるし、パネルの表面処理や緻密なスイッチの作りといった細部の作り込みにも、こだわりを感じさせる。メルセデスの高級セダンと変わらない出来栄えなのだ。
日本仕様に用意されるエンジンは、3リッターの直列6気筒ディーゼルターボで330馬力を発生。このほか、スポーティな走りを極めたメルセデスAMG仕様2モデルが設定される。
3リッターの直列6気筒ディーゼルターボは、メルセデスのフラッグシップセダンである「Sクラス」にも搭載されるもので、見事としかいいようがない素晴らしいフィーリングの持ち主だ。ディーゼルエンジンといえば、振動やザラザラと粗いフィーリング、そして、高回転域を得意としない特性などがイメージされるが、このエンジンにはそれらが全く当てはまらない。
ディーゼルエンジンとは思えないほど振動や粗さの類いを一切感じさせず、さらには、高回転域まで滑らか、かつ伸びやかに回る。単に「直列6気筒だから」というだけでなく、メルセデスが持つテクノロジーをとことん積み上げることで実現した、まさにディーゼルらしからぬディーゼル。いわれなければ給油時にガソリンを入れてしまいそうになるほど、ネガティブ要素が一切ない。
■バイクのように遠心力を低減する秘密兵器
実際にドライブしてみると、ディーゼルエンジンらしい極太のトルクにより、急な上り坂でもコーナーからの立ち上がり加速が強烈だ。あまりにスムーズなので気づかなかったが、後方から別のクルマで追走していたスタッフによると「全く追いつけなかった」とのこと。アクセルペダルをやんわりと踏み、ゆっくり坂道を上っていたつもりだったが、極太トルクゆえの力強さを気づかぬうちに楽しんでいたようだ。また、高回転域までスムーズに回るため、ディーゼルエンジンでありながら官能性を語れる点もこの心臓部の魅力といえよう。
今回の試乗車は、大小のコーナーが連続するワインディングロードでも気持ちよく走れたし、旋回時の車体の安定性も素晴らしいものがあった。その理由は、しっかり作られた車体はもちろん、オプションの“E-アクティブ・ボディ・コントロール”(77万円)による効果も大きい。これは、電子制御式サスペンションの一種で、油圧と空気圧を使って車体の動きを積極的にコントロールする仕組み。20個を超えるセンサーやステレオカメラによって路面や走行状態を毎秒1000回もモニタリングし、状況に応じたサスペンションセッティングを、随時、ドライバーに提供してくれる。
車体を安定させるだけでなく、エネルギーを回収することで乗り心地にも寄与するというE-アクティブ・ボディ・コントロールは、コーナリング時には2輪車のように車体を内側へと傾けて遠心力を低減する独特の動きにより、峠道でも抜群の安定感を発揮してくれる。その結果、重く重心位置が高いGLEクーペでも、とにかく車体はグラつかず、タイヤが路面にしっかりと張りつき、高い安定感を保ったまま曲がっていく。その時の動きや制御は実にお見事だ。
今回の試乗車は1000万円オーバーの高額車だったが、これだけ完成度の高い乗り味を見せつけられると、その価格設定も十分納得できる。GLEクーペの走りには、この領域のクルマでなければ垣間見ることのできない世界が具現されているのだ。
極上のものを得ようとすれば、それなりの対価は必要…。エンジンも走りも素晴らしいGLEクーペに、そんなあたり前のことを改めて痛感させられた。
<SPECIFICATIONS>
☆GLE400d 4マチック クーペ スポーツ
ボディサイズ:4955×2020×1715mm
車重:2430kg(E-アクティブ・ボディ・コントロール パッケージ)
駆動方式:4WD
エンジン:2924cc 直列6気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:9速AT
最高出力:330馬力/3600〜4200回転
最大トルク:71.4kgf-m/1200〜3200回転
価格:1186万円
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文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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