マイチェンだけど激変!新型レクサス「IS」は見た目、走り、ディテールが大幅進化

■見た目の変化はフルモデルチェンジ級

「これはフルモデルチェンジなのか? それともマイナーチェンジなのか?」。“新型”となったレクサスのISに触れた際、まず気になったのはこの点だ。

パッと見ただけで違いが分かる通り、新型ISのルックスは従来モデルとは全くの別物。全長が30mm伸び、全幅は30mm広がり、さらにタイヤが大径化されたこともあって、新型はワイド&ローの伸びやかなスタイリングとなった。低くなったボンネットの前端は、セダンのそれというよりもはやスポーツカーのような雰囲気だし、ハイライトともいうべきブリスター状のリアフェンダーはボリュームたっぷりに張り出していて、長時間眺めていられそうなくらい美しい。こうしたルックスを見ただけで、従来モデルとは雰囲気がまるで異なることに気づく。

ちなみに、新型に採用されたフェンダーやトランクリッドの造形は、従来の手法では再現が難しかったという。そこで開発陣は、一度のプレス時に2段階の加工を行う世界初のプレス技術を編み出し、従来の限界を超える造形を実現したのだという。

そんな新しいISのエクステリアで従来モデルから継承されている部分は、ピラー類とフロント&サイドのウインドウ、そしてルーフの前半部分とドアノブのみ。つまり、ボディ外板の大半が新しくデザインされていて、見た目に限ってはフルモデルチェンジ級の変身を遂げている。

しかしレクサスは、今回のモデルチェンジをあくまで“マイナーチェンジ”だという。その理由は、プラットフォームやアッパーボディ、そしてパワートレーンといったクルマの基礎となる部分を、大幅な改良を加えてはいるものの、従来モデルから引き継いでいるためだろう。

しかし、従来モデルのそれを継承しているとはいえ、新型ISのプラットフォームはスポット溶接の打点の追加や、エンジンルーム周辺やリアピラー部の剛性アップなど、しっかりと進化している。これに関し、チーフエンジニアとして開発をまとめた小林直樹さんはこう語る。

「新しいプラットフォームの採用に比べると、話題性の面では地味ではありますが、従来型プラットフォームを進化させることでも実は大きなメリットを得られます。新しいプラットフォームを導入する場合、どうしてもシミュレーション上で開発を進めるケースが多くなるのですが、すでに世に出ている従来型プラットフォームであれば、実際にテストコースなどで走行を繰り返すことができ、リアルワールドでクルマを熟成させられるのです。机上の計算とリアルワールドでの開発とを比べると、やはりそれなりの違いが出てきます。元々、ISのプラットフォームは潜在能力の高いものでした。それを熟成させた新型ISの走りは、着実にレベルアップしていると思いますよ」

■ホイールの固定方法まで見直した新型IS

もちろん、今回のマイナーチェンジにおける変更点は、インテリアにも及んでいる。まず、コックピットの雰囲気が一変した。従来は四角だった左右のエアコン吹き出し口が丸くなったことも大きいが、中央にあるディスプレイが140mmも乗員側へと近づいたのも大きな変化だ。これは、非タッチパネル式だったディスプレイが、新型ではタッチパネル化されたことに伴う変更だが、タッチ操作が可能となったことで使い勝手が大幅に高まっていることも朗報といえるだろう。

また、これまで足踏み式だったパーキングブレーキが、新型では電動式へとアップグレードされた。それに伴い、追従型クルーズコントロールが停止保持まで行ってくれるようになり、渋滞時におけるドライバーの疲労と精神的ストレスをより軽減してくれるようになったのはグッドニュースだ。

また細かい部分だが、タイヤを車体に固定する方法を、従来のスタッドボルト&ハブナット締結から、ハブボルト締結に変えたことも見逃せないポイント。日本車は前者が一般的で、後者はヨーロッパ車などでよく見掛ける方法だ。しかし、この変更に関するメリットは、どこにあるのだろう?

この疑問を小林さんにぶつけてみたところ、待ってましたとばかりにポケットからボルトやナットを取り出し、それぞれの方法のメリットとデメリットを説明してくれた。小林さんいわく、ハブボルトで固定することのメリットは「バネ下重量の軽減(1台当たり約1㎏軽量化できる)」、「ボルトの締結力アップ」、「(ナットより穴を小さくできることによる)ホイールのデザイン性アップ」の3つが挙げられるという。いずれもクルマにとってはいいことばかりだし、今後、採用車種が増えていけばコストダウンにもつながるとのことだ。

このうち最もメリットが大きいのは、ボルトの締結力アップだ。従来の方法に比べて約2割も強固になり、タイヤとハブ(車体側の取り付け部)の密着度が高まることで「ハンドルを切り始めた時の操舵フィールが大幅に良化した」(小林さん)という。

実は小林さんは、この方法を20年も前から提案し続けていたという。しかし、生産現場での対応などハードルが高く、なかなか実現できずにいた。それが今回、念願が叶い、新型ISへと導入できたのだ。ポケットにボルトやナットの実物に入れて持ち歩いていたのは、その情熱の表れであると同時に、20年越しに導入が叶った歓びでもあったわけだ。ちなみにレクサスでは、今後、他の車種にもこの締結方式を展開していくという。

■新型の推しは絶滅危惧種である「IS350」

このように、見た目だけでなく機能的にも大きく進化を遂げた新型ISの乗り味は、運転する喜びに満ちあふれるものだった。キビキビとしたハンドリングは、やはり重心の低いセダンならではの美点だし、昨今、SUVの感覚に慣らされている筆者にとっては、改めて「セダンっていいなぁ」と思える魅力を備えていた。

そんな新型ISに設定されるパワートレーンは、「IS300」に搭載される2リッターの直列4気筒ターボ、「IS300h」に積まれる2.5リッター自然吸気エンジン+モーターのハイブリッド、そして、「IS350」に採用される3.5リッター自然吸気V6エンジンの3種類。2リッター直4ターボは価格と走りのバランスに優れ、2.5リッターハイブリッドはモーターによる滑らかな走りと省燃費という魅力を兼備する。

しかし今、新型ISであえて選びたいのは、自然吸気の大排気量マルチシリンダーエンジンである3.5リッターV6だ。官能的な音や、エンジンの息づかいとも取れる鼓動を感じさせる躍動感、そして、高回転域におけるパワーの盛り上がり。これらすべてが実に色っぽく、ドライバーを魅了してくる。このフィーリングを味わってしまうと「これしか選びたくない!」という気分になるほどだ。

ちなみに、従来モデルにおけるパワートレーン別の販売比率は、2.5リッターハイブリッドが約6割、2リッター直4ターボが約3割で、3.5リッターV6は残りの1割程度に過ぎない。しかし、レクサスISは走りのいいスポーツセダンなのだから、仮に筆者が購入するなら3.5リッターV6の一択だ。

そして、この3.5リッターV6をオススメするのには、もうひとつ理由がある。それはクルマを取り巻く環境の変化だ。このところ、二酸化炭素の削減と関連して急激にクルマの電動化が叫ばれ始め、東京では2030年以降、動力源にモーターを組み合わせたクルマではなければ販売できなくなる見通しだ。そうなると、この3.5リッターV6のようなピュアエンジン車特有の官能的なフィーリングは味わえなくなってしまう。新車でこの興奮を味わうのに残された時間は、どんなに長くても15年ほど。もしかしたらそのタイミング(モーターのつかない純粋なガソリン車を新車で買えなくなる時)は、もっと早くやって訪れるかもしれない。

レクサスISのようなスポーツセダンには、やはり官能的なエンジンがよく似合う。だからこそ、クルマ好きなら今のうちに3.5リッターV6の艶っぽいフィーリングを堪能しておくべきだ。今、楽しんでおかなければ、将来、味わえなくなるのは確実。そんな絶滅危惧種だからこそ、新型ISの推しはIS350なのである。

<SPECIFICATIONS>
☆IS300 Fスポーツ
ボディサイズ:L4710×W1840×H1435mm
車重:1640kg
駆動方式:RWD
エンジン:1998cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:245馬力/5200〜5800回転
最大トルク:35.7kgf-m/1650〜4400回転
価格:535万円

<SPECIFICATIONS>
☆IS300h Fスポーツ(2WD)
ボディサイズ:L4710×W1840×H1435mm
車重:1690kg
駆動方式:RWD
エンジン:2493cc 直列4気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:178馬力/6000回転
エンジン最大トルク:22.5kgf-m/4200〜4800回転
モーター最高出力:143馬力
エンジン最大トルク:30.6kgf-m
価格:580万円

<SPECIFICATIONS>
☆IS350 Fスポーツ
ボディサイズ:L4710×W1845×H1435mm
車重:1660kg
駆動方式:RWD
エンジン:3456cc V型6気筒 DOHC
トランスミッション:8速AT
最高出力:318馬力/6600回転
最大トルク:38.7kgf-m/4800回転
価格:650万円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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