■フォーミュラE王者のノウハウが息づく
DSオートモビルは、分離独立した翌年の2015年から、電動化技術を鍛えるべくFE(フォーミュラE)への参戦を開始し、モーターやインバーター、ギヤボックスといったEVパワートレーンの独自開発を行ってきた。
FEはレースで消費できるバッテリー容量が決められているため、勝負はモーターやインバーターの効率、そして、エネルギーマネジメントがカギを握る。そんな中、DSオートモビルは、シーズン5(2018-2019年)とシーズン6(2019-2020年)にドライバーとマニュファクチャラーの両タイトルを獲得。これはひとえに、DSオートモビルのEV技術の高さを示す何よりの証拠といえるだろう。
そんなFEで培ったノウハウが、DS 3 クロスバック E-TENSEにも生かされている。それも、サヴォアフェールを意識したカタチでだ。
実際、ドライブしてみると、アクセルペダルをひと踏みしただけで感動が全身を貫く。内燃機関モデルに比べてレスポンスに優れる上に、発進時から力強さを発揮するのはモーター駆動車ならではの強み。最高出力136馬力、最大トルク26.5kgf-mのモーターは、内燃機関モデルより300kg重い1580kgのE-TENSEをいとも軽々と走らせる。しかもその時の振る舞いは、実にスムーズだ。
内燃機関モデルと同様、E-TENSEには「スポーツ」、「ノーマル」、「エコ」という3つのドライブモードが用意される。センターコンソールにあるスイッチでモードを切り替えるとモーターの出力とトルクが変わり(スポーツ/ノーマル/エコの順に数値が低くなる)、アクセルペダルの踏み込みに対する反応も変化する。最も元気に走れるのはもちろんスポーツモードだが、日常的なシーンではノーマルでも十分だ。
■サイズやクラスを超越した上質な乗り味
一方、モーターの発電機能によって制動力を発生させる回生ブレーキには「D」と「B」の2モードが用意され、シフトレバーの操作によって切り替える。デフォルトのDモードは、内燃機関モデルのエンジンブレーキに相当する減速Gを発生させるが、これは「内燃機関を搭載するクルマから乗り換えても違和感を抱かないように」との配慮から導かれたものだ。対するBモードは回生ブレーキが強くなり、同じEVの日産「リーフ」や「ホンダe」のように、アクセルだけのワンペダルで加減速のほとんどをコントロールできる。しかし、完全停止までは対応していないため、停止する際にはブレーキペダルを踏んでやる必要がある。
「E-TENSEはEVだから、走りはスムーズだろう」というところまでは想定内だったが、それ以上に驚いたのは静粛性の高さだ。そして、そうした感動に追い打ちをかけたのが、重厚な乗り味である。「本当に“Bセグメント”に属すコンパクトSUVなのか?」と思い、外に出てボディサイズを改めて確認したくなったほど、DS 3 クロスバック E-TENSEは全長4120mm、全幅1790mm、全高1550mmというボディサイズやコンパクトSUVというクラスを超越した上質な乗り味を提供してくれる。車体の動きがとてもゆったりしていて、足回りはしなやか。そのライドフィールは“Dセグメント”の高級セダンに近い落ち着きぶりだ。徹底した遮音への気配りや車体骨格への手当てが奏功しているのだろう。
DS 3 クロスバック E-TENSEの真価は、環境に優しいとか乗り味が滑らかといったレベルでは到底語り尽くせない。EVパワートレーンとサヴォアフェールの精神とが融合することで全方位的に個性が強まった、フレンチラグジュアリーの真髄を体現する1台といえるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆グランシック
ボディサイズ:L4120×W1790×H1550mm
車重:1580kg
駆動方式:FWD
最高出力:136馬力/5500回転
最大トルク:26.5kgf-m/300〜3674回転
価格:534万円
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文/世良耕太
世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。