地味だけど大変化!改良版マツダ「CX-5」の“人馬一体”感を強めた意外なもの

■従来型オーナーも興味津々の最新モデル

「マツダのこだわりはスゴいな」。2020年12月に商品改良を受けた最新のCX-5に試乗して感じたのは、この言葉に尽きる。ここでいうこだわりとは「クルマをどんどん進化させていく」という開発者の強い心意気といい換えてもいいだろう。

CX-5はマツダを代表するミドルサイズSUVで、世界的に見てマツダで最も多く生産されているモデルだ。2019年の総生産台数は約41万台。グローバル販売台数の約4分の1を占める、いわばマツダの大黒柱である。

2012年デビューの初代に続き、現行モデルが発表されたのは2016年12月のこと。エンジンは、2リッターと2.5リッターのガソリン自然吸気、2.5リッターのガソリンターボ、そして、2.2リッターのディーゼルターボと、昨今の日本車には珍しく4タイプも用意される。中でも、ディーゼルターボや大排気量ターボを選べるのが特徴であり、CX-5の魅力のひとつにもなっている。

そんな現行CX-5で興味深いことのひとつが、度重なる商品改良だ。デビューから4年の間に行われた、メカニズムの進化や新採用を伴う刷新は実に5回。これはクルマとしては異例ともいえるハイペースだ。その背景にあるのは「新しい技術をどんどん採用していく」というマツダの考え。現行CX-5オーナーである筆者も、最新モデルがどのような進化を遂げているのか興味津々だ。

■黒のアクセントで引き締まったスタイルの特別仕様車

最新モデルと対面し「マツダらしいな」と感じたのは、目に見える変更点が少ないこと。デビューから4年が経ったタイミングゆえ、一般的には内外装をリフレッシュしてもいい頃だが、今回の商品改良でもまた外観の意匠変更は行われなかった(従来型オーナーとしては愛車が古く見えないのでありがたい)。

見た目に分かる大きな違いは1点のみ。それは、車内のダッシュボード上に置かれるセンターディスプレイが大きくなったことだ。従来モデルは8インチだったが、新型のそれは8.8インチ、もしくは10.25インチへと拡大されている。

おまけに、ナビゲーションを始めとするインフォテインメントシステムがごっそり入れ替えられ、「マツダ3」などと同じ新世代のものへと進化。タッチパネル操作ができなくなったことは賛否割れそうだが、画面内の表示や操作方法が一新されている。ちなみに見た目には分からないものの、最新モデルでは車載通信端末が全グレードに組み込まれており、コネクテッドカー化されたこともトピックといえるだろう。

とはいえ、見た目に分かる違いはその程度。筆者のようなCX-5オーナーであっても、外観で最新型と従来型とを見極めるのは難しい、というか不可能だ。

このように、従来型との見た目の変化に乏しい最新型だが、ひと目見て「これは最新モデルだ!」と分かるグレードも“追加”されている。それが、特別仕様車「ブラックトーンエディション」だ。

ベースとなったのは中間グレードの「プロアクティブ」で、グロスブラックのドアミラーやブラックメタリックのホイールなどでスタイリングを差別化(ボディカラーは全色から選べる)。

対するインテリアは、人工スエード“グランリュクス”と合成皮革とのコンビ素材を使ったシートや、合皮で表面を覆ったドアアームレストなどで上質感を高めるとともに、各部に赤いステッチをあしらうことでスポーティな雰囲気もプラスしている。

ブラックのアクセントによって引き締まったスタイリングに魅力を感じる人はもちろん、本革シートを装着するグレード「Lパッケージ」まではいらないけれど、上質な仕立てのCX-5が欲しいという人にも、ぜひチェックしてもらいたいモデルである。

■エンジンの伸びを感じさせる爽快な加速感

さて、今回の商品改良の要は、ディーゼルエンジンのドライバビリティに関わる部分である。ディーゼル車はCX-5の国内販売において6割以上を占める人気ぶりだが、マツダによると「ディーゼルエンジンらしいパワフルな走りの進化」を施したという。果たしてその進化を感じ取ることはできるのか? まず比較のため従来モデルに試乗し、そこから新型に乗り換えて進化の度合いを探ってみた。

最高出力が10馬力アップの200馬力となった新エンジンだが、その伸び代はわずか5%に過ぎない。一般的に、5%の出力向上はテストドライバーやレーサーなど、感覚が研ぎ澄まされた人でなければ感じ取るのが難しいレベルとされている。だから「違いなんて分かるわけないよな…」と思っていたら、そうではなかった!

明確な違いを感じたのは、出力の向上というよりも加速フィールの変化。従来モデルは発進直後にグググッと力強く加速するものの、その後の加速感が鈍くなる印象だった。これは多くのディーゼル車に共通するフィーリングで、特にCX-5のディーゼルは2000回転という極めて低い回転域で45.9kgf-mという極太のトルクを生み出すこともあり、低回転域での力強さとは対照的に、エンジン回転が高まるに連れて加速Gが弱まるのを感じやすかったのだ。

しかし、新型に乗り換えるとまさかの展開! 加速感が鈍くなる感覚が和らいでいたのだ。ググッと力強くダッシュした後もしっかりと加速が伸びていく。エンジンの“伸び感”が感じられる爽快なフィーリングで、2.5リッターのガソリンターボに近い加速感を味わえる。

ポイントは、4000回転付近のトルクアップだ。これにより、従来は3000回転からパワーの出方が穏やかになっていたのに対し、新型では4000回転までパワーがリニアに伸びるようになり、加速フィールが変化したのだ。この効果というか進化はしっかり体感できるもので、従来型オーナーとしては正直いってうらやましい限りだ。

■“人馬一体”感を強めたアクセルペダルの仕掛け

新しいCX-5には、もうひとつ大きな進化がある。マツダがいうところの“加減速コントロール性の強化”である。

それを確かめるべく、惰性で走っている状態や一定速での巡行中にアクセルペダルを踏み込む“追い越し加速”を何度が繰り返してみた。すると、確かに加減速は滑らかになったが、アクセルペダルを深く踏み込んだ時のパンチ力は従来型エンジンの方が強力。新型エンジンはアクセルペダルを踏んだ時の刺激が薄まったように感じられ、従来型オーナーであっても正直あまりうらやましくなかった。

しかし試乗後、そうした自身の印象を伝えたマツダのエンジニアから、意外な答えが返ってきた。「それは錯覚なんですよ」と。

実は加減速コントロール性の強化に関しては、エンジンなどの制御系を変えたのではなく、アクセルペダルを機械的に変更しただけ。アクセル操作の反力を生むバネを硬くすることで、アクセルペダルを踏む際に必要な力が大きくなるようにしたという。たったそれだけで何が変わるのか? にわかには信じがたい話だが「ドライバーがアクセルペダルを踏む(操作する)精度が高まり、アクセルコントロールが滑らかに行われるようになる」というのである。

この謎を解くカギは、人間の筋肉の動きにある。操作力の軽いアクセルペダルだと、脚や足の筋肉だけで動かすことになる。また、軽い力で操作できると、ペダルをつい踏み込み過ぎてしまうこともあり、低速域から力強いディーゼルターボ車などではドライバーが想定した以上の加速力が生じ、あわててアクセルを抜いたりブレーキを掛けたりと、操作がギクシャクすることがある。

一方、アクセルペダルの操作力を重くすると、ドライバーはカラダ全体の筋肉を使って操作するようになり、ドライバーが自身の姿勢を保とうとする働きも強まる。その結果、アクセルペダルを踏む足の動きが安定し、アクセル操作の精度が向上。アクセルペダルを踏む右足の動きと、加減速するクルマの動きとがより密接にリンクするようになり、マツダがいうところの“人馬一体”感が強まるのだ。

つまり、アクセルペダルを大きく踏み込んだ際にパンチ力が弱まったように感じたのは、エンジンの加速力がマイルドになったのではなく、アクセルペダルを踏む時にカラダがしっかり姿勢を保持するよう“身構える”ことで、加速の勢いを感じにくくなった、ということらしい。その結果、エンジニアのいう“錯覚”が生じたのである。

パワートレーンの進化は、どうしても制御の煮詰めなどに目が向きがちだ。しかし、クルマを操作するのはやはり人間。今回の改良を体感すると、ドライバーが適切に操作できる環境を確保することの重要性を改めて痛感させられた。そこをさらに磨いていこうとするマツダの真摯な姿勢には頭が下がる思いだ。

「あくまで人が中心」。これはマツダのエンジニアたちがしばしば口にする言葉である。マツダがドライビングポジションの理想を追い求める理由は、まさにそこにある。その深化には今後も期待したいところだ。

<SPECIFICATIONS>
☆XD ブラックトーンエディション(4WD)
ボディサイズ:L4545×W1840×H1690mm
車両重量:1690kg
駆動方式:4WD
エンジン:2188cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:200馬力/4000回転
最大トルク:45.9kgf-m/2000回転
価格:359万1500円

<SPECIFICATIONS>
☆XD スマートエディション(2WD)
ボディサイズ:L4545×W1840×H1690mm
車両重量:1610kg
駆動方式:FWD
エンジン:2188cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:200馬力/4000回転
最大トルク:45.9kgf-m/2000回転
価格:325万6000円


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文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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