この書籍は誰よりもランドクルーザーに魅せられ、極めたふたちの共著となっている。欧州のランドクルーザー研究家であり、世界最大のランドクルーザーのミーティング「ブッシュタクシー・ミーティング」の主催者でもあるアレクサンダー・ヴォルファース(Alexander Wohlfarth)。
そしてオーストラリアの奇岩・奇景の撮影をライフワークとする写真家・フォトジャーナリストであり、30年の長きにわたり国内外でランドクルーザーの考証家としても活躍する難波毅(なんば たけし)。
歴代の名車がすべて見られる!
12章からなるランドクルーザーの物語は、はじまりの「BJ」からランドクルーザー20系・40系・FJ55型・60系・70系・80系・90系・100系・120系・150系・200系と、それぞれのシリーズの誕生から終了までをなぞっていく。
歴史的背景から、スタイリング、内燃機関、開発秘話、ビジネスと人のストーリー……。それぞれのモデルについて語られる内容は多岐にわたる。歴史を紐解くように読んでいくのも、また気まぐれに好きなページを繰るのも楽しい。
「ランドクルーザー」の始まりは…
例えば第1章では、すべてのランドクルーザーの父祖となるモデル「BJ」が取り上げられている。
1950年代初頭、朝鮮戦争にアメリカが注力するなか、日本は独自の防衛のための装備を持つ必要に迫られていた。各自動車会社には、警察予備隊に向けた軽量オフロード車のプロトタイプ作りが命じられた。
その際にトヨタが開発したのが「トヨタジープBJ」だ。つまり、ランドクルーザーの血脈は軍用車の開発をきっかけとして生まれたものなのである(結局入札には勝たず「BJ型トヨタジープ」はトヨタのモデルラインアップに加わった)。
ちなみにクルマの好きな向きはお分かりだろうが、型式(モデルコード)など、トヨタの用語体系上で「J」はランドクルーザーを表す記号だ。これはトヨタジープBJ「B型エンジンが載るJeep」からくる「J」なのだそうだ。
しかし「ジープ」の名が商標権に抵触するという抗議を受け、「ランドクルーザー」という名前は1954年に誕生する。当時の技術部長で、後に常務取締役となった梅原半二氏の作ったこの名の意味は「陸の巡洋艦」だ。
鮮やかに蘇る伝説のモデル
さらに他のシリーズを見てみよう。
現在ランドクルーザーには「ランドクルーザー」「ランドクルーザー・ステーションワゴン」「ランドクルーザー・プラド」と3つのモデルラインがある。
その最初の枝分かれが最初のステーションワゴン「FJ55型」。快適で、かつランドクルーザーらしい頼もしさも備える、本物のステーションワゴンを志向して作られた。
そのスタイリングは「明らかに60年代の落とし子である」と表現されている。
伝説の「70系」。
1984年に登場して以来、現在も生産が続く(ヘビーデューティー系のみ)、世界から厚い信頼を受けるシリーズだ。
歴代モデルの豊富さは群を抜いている。この70系で「ライトデューティー系のランドクルーザー」という存在も生まれることとなった。
そして2007年に登場した「200系」。
トヨタ最高級SUV、King of 4WD All Over The worldとしてデビューした。この章では、さらなるランドクルーザーの未来を思う文章も綴られている。
それぞれの章は、かなり硬派な内容から、「よくそんな細かい情報が!」と驚くようなエピソードまで、読み進めるうちにワクワク感が増し、気づけばランドクルーザーの世界に没頭していた……。
(余談だが、筆者は第1章の「初代のBJ型のテストドライバーが、愛宕山の階段をBJで駆け上がってみせようとしたが、現場に着くと階段の真ん中に手すりがあって断念した」……という何だかお茶目な小話が好きだ。どうです、エピソードがすんごく細かいでしょ?)
世界中で活躍する、陸の王者「ランドクルーザー」。知識が得られるのはもちろんだが、愛車のカスタマイズのモデルとして参考にしたい過去の名作。濃いコーヒーでもたっぷり淹れて、ひとり没頭するのがいい。
(文/くぼきひろこ)
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