2リッターの直4ターボ(240馬力)と、3リッターV6スーパーチャージャー(340馬力)もあるが、今回、メインで試乗したのは2リッターの直4ディーゼル(180馬力)。
まず注目したのが、エンジンを始動した時の静かさだ。
最新のディーゼルエンジンは、昔のそれのようにガラガラした音がだいぶ小さくなったが、それでも聞こえるといえば聞こえる。
その点、XFのディーゼルユニットは、アイドリング時のガラガラ音が全く聞こえてこないのだ。エンジン音が反響しやすい地下駐車場で、しかも、窓を開け耳を澄ましても聞こえてこないのには、心底驚いた。間違えてガソリン車に乗ってしまったのかと思ったほどだ。
走行中の静粛性にも高得点を与えられる。一方、積極的に回していけば、ディーゼルエンジンとは思えない軽快なハミング音を聴かせてくれるのも、このユニットの魅力だ。
最高出力は180馬力にとどまるものの、常用域での力強さに影響を与える最大トルクは、2リッターターボを凌ぎ、3リッタースーパーチャージャーに迫る43.8kg-m。
アクセルペダルに置いた右足の動きにリンクした、思いどおりの加速を常に得られる。ディーゼルエンジンを選んでも、高速道路を含め、動力性能に不満を感じることはないだろう。
そんな余裕の動力性能をもちつつも「飛ばせ! 飛ばせ!!」とドライバーを急きたててこないのが、いかにもジャガーらしいところだ。
踏めば快音を聞かせながら鋭いダッシュを始めてくれるものの、普段の走行では「お先にどうぞ」という優しい気持ちにさせてくれるから、制限速度が低い日本の道路でもストレスがたまらない。
フットワークもジャガーらしかった。正確なステアリング、優れたライントレース性、ボディの大きさを忘れさせる軽快なノーズの動きなど、優れた部分はいくらでもあるが、何よりXFの走りを特徴付けているのがしなやかな足の動きだ。
スムーズな路面ではしっとりと、荒れた路面ではショックを巧みにいなしながら走る感覚は“猫足”と表される往年のジャガーの走行フィールを思い出させるものだった。
唯一、気になったのが、液晶式メーターパネルだ。機能面において液晶式のメリットを十分に活かしきれていないし、メーターのグラフィックデザインにも新鮮味がない。このあたりはソフトウェアレベルで改良できるから、今後の進化に期待したいところだ。
新型XFは、見て美しく、走らせて気持ちがいいクルマだ。かつ、その魅力が、プレミアムカーマーケットを牛耳っているドイツ車と明らかに異なる方向性であるのが、また魅力的である。通が選ぶ選択肢として、大いに注目すべき1台だ。
<SPECIFICATIONS>
☆20d ピュア
ボディサイズ:L4965×W1880×H1455mm
車重:1760kg
駆動方式:FR
エンジン:1999cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:180馬力/4000回転
最大トルク:43.8kg-m/1750〜2500回転
価格:635万円
(文/岡崎五朗、写真/工藤雅夫)