■“使える”2列目/3列目シートと荷室を備えた3列シートSUV
マツダのSUVで最もメジャーな存在といえば「CX-5」だろう。“スカイアクティブ”と呼ばれるマツダの次世代技術をフルに盛り込んだ初のモデルとして2012年にデビューしたCX-5は、日本におけるディーゼルエンジン人気を復活させた立役者でもある。
そんなCX-5は、今や世界で年間約40万台を販売するマツダにとって一番の稼ぎ頭。その人気は、2017年のフルモデルチェンジで2代目へと進化した現行モデルでも健在で、日本でも最も多く見かける“マツダ製SUV”となっている。
今回採り上げるCX-8は、そんなCX-5の兄貴分ともいうべきモデルだ。シンプルにいえば、CX-5の車体を延長し、サードシートを追加して3列シート化し、インテリアの仕立ても上質にしている。そのため全長は4900mmと、国産SUVの中ではかなり大きめだ。
今回、久しぶりに試乗となったCX-8は、CX-5オーナーである筆者にとっても魅力的なクルマだった。中でも、最も「うらやましいな」と感じたのは、2列目シートに座った際のゆとりだ。
CX-5のリアシートは、大人2名が座るのに十分な広さが確保されているものの、ゆったりしているとはいいがたい。対してCX-8は、フロントシートと2列目シートとの間隔自体が広がっている上に、CX-5にはないスライド機構を使って2列目シートを一番後ろまで下げると、まるで大型ミニバンの2列目シートのようにゆったりと座れる。その広さは大人が足を組んでラクに座れるほどで、ファミリーカーとしてCX-5を使っている筆者にとってはものすごくうらやましい。
また今回の試乗車のように、2列目シートが左右に独立し、2名掛けとなるセパレートシートが設定されているのも惹かれる部分(一般的な3名掛けのベンチシートも選べる)。セパレートシートとベンチシートの好みは人それぞれだが、左右シートの間に空間が生まれるセパレートシートは、空間を広々と感じられる美点を持つ。もちろん、乗車定員はベンチシートに対して1名分減ってしまうが、日常移動が4人まで、かつ、最大でも7名以上乗せる必要がなければ、セパレートシート仕様がおススメだ。
そして今回あらためて実感したことが、3列目シートの実用性の高さだ。2列目シートを全調整量の半分ほど前へスライドさせた状態で3列目シートに座ってみると、“思いのほか広い”ことに驚いた。国産SUVの3列目シートとしては最も広く、ロングドライブだって十分にこなせる余裕がある。その上、3列シートSUVの多くが、3列目シートの床に対する着座位置の低さから不自然な乗車姿勢を強いられるのに対し、CX-8は不満なく座れるのも魅力。「SUVの3列目シートはこの程度でいいだろう」といった妥協を一切感じさせない。
そんな3列目シートは、背もたれを倒すことで出現するラゲッジスペースの広さも魅力だ。CX-5を始めとする多くのSUVは、パッケージングの違いから同クラスのステーションワゴンと比べて荷室が狭く、キャンプやウインタースポーツなどでアクティブにクルマを使うユーザーにとっては少々頼りない。筆者自身の経験でも、CX-5のラゲッジスペースが「もう少し広ければ」と思ったことが何度もある。
しかし、3列目シートの背もたれを倒したCX-8の荷室フロアの奥行きは、2列目シートのスライド位置を最後端に設定した状態で1100mmと余裕がある。
これは、リアシートの背もたれを倒さない状態のCX-5(同960mm)より実に140mmも長い。さらに、2列目シートを最前端までスライドさせると同1350mmとなる上に、2列目シートの背もたれを倒すと、最大2320mmという荷室長を得られる。
加えて、小物などの収納に便利な荷室フロア下のサブトランクも大容量。レジャードライブなどでクルマを使い倒す人にとっては、なんとも頼もしい限りだ。
■マイチェンのキモは機能と走行性能の向上
そんなCX-8が、2020年12月にマイナーチェンジを受けた。上級グレードの「Lパッケージ」、「エクスクルーシブモード」、「100周年記念車」には、新デザインのフロントグリルが採用されたほか、エクスクルーシブモードには新デザインのアルミホイールやフロントバンパー下部のガーニッシュ、新形状のテールパイプなどが採用されるなど、スタイリングも軽く変更されている。
また、今回のマイナーチェンジでは、中間グレードの「プロアクティブ」をベースとした特別仕様車「ブラックトーンエディション」が追加された。このモデルは、フロントグリルやドアミラーのハウジング、そしてアルミホイールをブラック仕上げに。
一方、赤いステッチを挿し色とした合成レザー製シート表皮の採用や、メッキ仕上げの加飾パーツを増やすなど、インテリアの質感もアップさせている。
ちなみに、今回試乗したブラックトーンエディションはインテリアが上質な上に、装備も充実していて、本革シートにこだわらない限り、上級グレードであるLパッケージへ背伸びする必要を感じないほどだった。それでいて価格は、ベースモデルのプロアクティブに対して約15万円のアップに留め、Lパッケージに比べると30〜40万円ほど安いのだから、かなり魅力的だといえる。現在、販売現場では、このブラックトーンエディションが人気だというが、それも納得できる出来栄えだ。
しかし、今回のマイナーチェンジにおける最大のポイントは、そうしたデザイン面のリフレッシュではなく、機能と走行性能の向上というのがなんともマツダらしい。
機能面では、まずコックピット中央のディスプレイが従来の8インチから8.8インチ、もしくは10.25インチへ大型化されたのが目を惹く。試乗車(ブラックトーンエディション)には10.25インチのそれが付いていたが、さすがにこのサイズになると大きくて見やすいことを実感できる。
また今回のマイナーチェンジでは、実はナビゲーションを始めとするインフォテイメントシステムも刷新されていて、「マツダ3」や「CX-30」などに先行採用された次世代システムへと進化している。目に見える部分の違いは、ディスプレイの画面サイズや、各種表示を始めとするインターフェイスの変更に過ぎないが、CPUなどのハードウェアが最新仕様となったことで、基本性能が大幅アップ。処理スピードが上がっているため、動きのサクサク感が増している。加えて、通信機能が内蔵され、コネクテッドサービスに対応したのも見逃せないニュースだ。
このほか、センターコンソールへのワイヤレス充電器の設定や、足の動きを合図にスイッチに触れることなくリアゲートを開閉できるハンズフリー機能の追加など、細かい部分の進化も充実している。
■商品企画の勝利で全方位的魅力を身に着けた
一方、パワートレーンの進化はかなりマニアックだ。CX-8には、ガソリンエンジンの自然吸気仕様とターボ仕様、そして、クリーンディーゼルターボという3タイプのエンジンが設定されるが、今回のマイナーチェンジの注目株はディーゼルターボである。新型のディーゼルターボは、最高出力が190馬力から200馬力へとアップしているが、そうした数値面の向上よりも見逃せないのが、ディーゼルエンジンにとって高回転域となる4000回転付近のトルクアップだ。
従来モデルは、勢いよく発進加速するとググッと一気に加速力が立ち上がるものの、その後、その伸びがスーッと収束してしまう印象が強かった。そのためアクセルペダルを踏み続けているのに、加速感が鈍るように感じられたのだ。しかし新型ではそれが解消され、ガソリンエンジン車のような加速の伸びを感じられ、より運転しやすくなっている。これは、従来型オーナーが乗るとすぐに実感できる違いである。
加えて新型は、ディーゼルターボ車のアクセルペダルの操作感が、わずかに重くなっている。その狙いは、滑らかな加速フィールを実現するためだ。その内容は、同様の改良が施された最新型CX-5の試乗レポートに詳しいが、アクセルペダルの操作感を重くすることで、人間は足や脚だけでなく全身の筋肉を使ってアクセルペダルを操作するようになり、結果として“人馬一体”感の強いスムーズかつ精度の高いアクセル操作が行えるのだという。
正直にいえば、例えば一定速度で走行中、アクセルペダルを全開にした際の加速感などは、従来モデルの方が力強く勢いがあるように感じられるが、どうやらそれは筆者の錯覚らしい。担当のエンジニアによると、アクセルペダルを踏む際、全身の筋肉に力が入って身構えることで、加速の勢いを感じにくくなっているのだそうだ。
このように、ディーゼルターボのドライブフィールが向上したCX-8は、さらなる魅力を身につけたといえる。レジャーグッズなど荷物をたくさん積みたい人や、SUVでも3列目シートの居住性を気にする人にとっては、国産SUVの中で最善の選択肢だと断言できる。
CX-8は、マツダが当初想定していた以上のセールスと記録しているというが、あらためて接してみると魅力的に感じることが多く、選んだユーザーたちの気持ちもよく分かる。ライバルにない美点をこのクルマに与えた、商品企画の勝利といえるだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆XD ブラックトーンエディション(4WD/6人乗り)
ボディサイズ:L4900×W1840×H1730mm
車両重量:1900kg
駆動方式:4WD
エンジン:2188cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:200馬力/4000回転
最大トルク:45.9kgf-m/2000回転
価格:423万6100円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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