■ロス・ブラウンに学んだジャガーのカッコいい乗り方
その昔、F1イギリスGPの取材でシルバーストンサーキットを訪れた際、メディア用パーキングに往年のジャガー「Eタイプ」が止まっているのを見掛けた。当時ですら「古いクルマを随分きれいに乗っているなぁ」と感心したくらいで、思わず近づいてしげしげと眺めていた。夕暮れ時のことである。
ウインドウ越しに車内をのぞき込んでいたら、後ろから「やあ!」と声を掛けてきた人物が。ロス・ブラウンというレーシングカーのエンジニアだ。当時はフェラーリのテクニカルディレクターを務めており、赤いチームウエアを身に着けていた。
「このクルマ、あなたのですか?」と尋ねると、「そうだよ。ウチから乗ってきたんだ。このクルマが好きでね」とブラウン。フェラーリに所属していたためチーム関係者用の駐車場には止めず、気を遣ってメディア用パーキングに停めていたようだった。「オフの時はこのクルマで釣りに出掛けているんだ。釣り竿を積んでね」と話しながら、彼はEタイプの助手席にブリーフケースを放り込んだ。
このやりとり以来、筆者にとっての“ジャガーのカッコいい乗り方の理想形”が出来上がった。イギリス伝統の高級スポーツカーだからといて肩ヒジを張らず、さり気なく乗りこなすのがいい。釣りの足に使うなんて、なんとも粋ではないか!
ジャガーと対面する時はいつもそうであるように、先日、最新型の「Fタイプ コンバーチブル」と対峙した時も、ブラウンとの温かいエピソードを思い出していた。しかし、最新のFタイプは釣りの相棒というよりも、ドレスアップして乗り込み、ラグジュアリーなホテルのエントランスに乗りつける方が似合うように思えた。
ジャガーの2シータークーペであるFタイプは、2013年に日本へ上陸。翌2014年にオープン仕様のコンバーチブルが追加されている。ロングノーズ/ショートデッキというプロポーションはスポーツカーの典型的なスタイルであり、ブラウンが乗っていたEタイプと通じるものがある。
その上で、2020年にマイナーチェンジを受けた最新型Fタイプは、一新されたフロントマスクで印象が様変わりした。変更前は、スラントしたフロントフェンダー上面に沿って前後方向に長いヘッドライトを備えていたが、新型は薄い横長のヘッドライトを低い位置にレイアウト。鹿のように穏やかだった表情が、サメのようにシャープな顔つきとなっている。
また、ワイド感を強調するフロントグリルはブラックのメッシュ仕上げとなり、ボンネットフードには左右一対のエアダクトが設けられた。レーシングカーに定番の造形要素を与えることで、スポーティなムードを強調するのがデザイナー陣の狙いだろう。その狙いは見事に当たっていて、印象は一層アグレッシブになっている。
ちなみに、側面まで回り込んだボンネットフードは前方にヒンジが付いたクラシックなスタイルで、ジャガーの2シータースポーツカーの伝統を受け継いだもの(本家のEタイプはもっと大胆な開き方をする)となっている。
一方、リア回りでは、湾曲したグラフィックが特徴のコンビネーションランプがリファインされ、シャープな印象に仕上がっている。
■刺激的な排気音を直接的に味わえるのはコンバーチブルの特権
そんな新型Fタイプには、2リッターの直列4気筒ターボ(300馬力)と、3リッターV型6気筒スーパーチャージャー(380馬力)、そして、5リッターV8スーパーチャージャー(575馬力)という3種類のエンジンが設定される。組み合わせるトランスミッションはいずれも8速ATだ。
今回の試乗車は、2リッターターボを搭載するコンバーチブル。本革をふんだんに使ったインテリアはパリッとした仕立てで、自然と背筋を伸ばしたくなる雰囲気が漂う。センターコンソールと助手席を隔てるパーテーションデザインは、マイナーチェンジ前のそれを受け継いでいて、ドライバーのパーソナル感を演出する。
また、従来モデルはドライバーの視線の先にアナログの丸型スピードメーターとエンジン回転計を備えていたが、今回のマイナーチェンジを機に12.3インチのデジタルディスプレイを標準装備。一気にモダンな印象となっている。
センターコンソールに配置されるエンジンのスタート/ストップボタンを押すと、システムの起動に合わせてセンターコンソール上部がせり上がり、空調ルーバーが現れるのはFタイプならではのギミック。特撮人形劇の『サンダーバード』で救助用の機体が基地から出発するシーンに興奮を覚えた世代には、たまらない演出だろう。
試乗車が搭載する2リッターターボは、5リッターV8スーパーチャージャーを積むトップグレードに比べれば半分程度の最高出力しかないが、それでも300馬力を誇る。ドイツ・ZF製の8速ATによるタイトな変速制御もあって走りは十分にスポーティで、アグレッシブになったルックスにふさわしい鋭い加速フィールを堪能できる。
一方、ドライバーにとってうれしいのは、エンジンの種類を問わず“アクティブスポーツエキゾーストシステム”が搭載されること。このシステムをオンにすると刺激的なサウンドが耳に飛び込んでくるのだ。それをよりダイレクトに味わえるのは、コンバーチブルならではの特権といえる。
ちなみに、オープンとクローズドの切り替えは、シフトレバーの後方にあるスイッチを操作するだけと簡単。オープン時は爽快を通り越してワイルド、一方、クローズドにすると一転して、ホテルのラウンジにでもいるかのような静かな空間が保たれる。オープン時とクローズド時の車内空間のコントラストが激しい点も、Fタイプ コンバーチブルの個性といえる。
■オールアルミ製ボディでも局部剛性をしっかり確保
オープンカーはボディがヤワで運転を楽しめない、なんて話は完全に昔のものだ。Fタイプ コンバーチブルのドライブフィールは、体幹がしっかりしたアスリートのように、路面状況を問わず常にビシッとしている。
ちなみにジャガーは、このFタイプのボディをオールアルミ製としている。彼らによると、軽量化を図りながら剛性の確保にも努めたとのことだが、その成果は日常走行域でも十分実感できる。
ボンネットフードを開けると、リブの立ったいかにも強固なアルミ製サスペンションタワーを確認できるが、アルミ合金製サスペンションからの入力を確実に受け止めるべく、タワー部の局部剛性もしっかり確保されているようだ。これにより、脚がしっかりと設計の狙いどおりに動くのだろう。Fタイプはラグジュアリーかつスマートな雰囲気を味わうだけでなく、その気になれば本格的に“スポーツ”できるクルマに仕上がっている。
Fタイプ コンバーチブルは、エクステリア、インテリア、そして走りと、どこをとってもスキがなく、そして実に仕立てがいい。あと20年もしたら釣りの相棒として活躍してくれるかもしれないが、今のところはラグジュアリーな生活を意識した付き合い方が似合うように思う。
<SPECIFICATIONS>
☆Rダイナミック コンバーチブル P300
ボディサイズ:L4470×W1925×H1310mm
車重:1670kg
駆動方式:RWD
エンジン:1995cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:300馬力/5500回転
最大トルク:40.8kgf-m/1500〜2000回転
価格:1101万円
文/世良耕太
世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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