■週末の関越自動車道で列を成したレガシィ ツーリングワゴン
もう20年以上前の話になるが、1990年代、多くの人々がスキーに熱中し、それとともに人気を集めた1台のクルマが、スバル「レガシィ ツーリングワゴン」だ。
レガシィ ツーリングワゴンはステーションワゴンらしくラゲッジスペースが広く、駆動方式には滑りやすい路面でも安定して走れる4WDを採用。さらに上位グレードには、高速道路のロングドライブもラクにこなせる高出力のターボエンジンを組み合わせていた。
雪道における走破性だけを考えれば、ロードクリアランスがたっぷりとられたSUVが適しているのは今も昔も変わらない。しかし、当時のSUV(“クロスカントリービークル”と呼ばれていた)は快適性やハンドリング、そして燃費といった走りの面で乗用車に大きく水をあけられていて、トータル性能を考えれば4WDのステーションワゴンに大きなアドバンテージがあったのだ。
加えてレガシィのターボ仕様は、ハイパワーエンジンによる“速さ”という魅力も加わり、スキーヤーやスノーボーダーたちから爆発的な人気を獲得。当時、週末の関越自動車道では、東京から苗場スキー場などへ向かうレガシィ ツーリングワゴンが列を成していたほどだ。
時は流れ、2020年秋にスバルのステーションワゴン専用モデルであるレヴォーグが、2世代目へと進化した。開発責任者の五島賢さんによると、新型はターゲットユーザーのひとつとして「子育てが終わって人生を楽しむ層」を想定したという。まさにかつて、レガシィ ツーリングワゴンでゲレンデへと通った、もしくは、そんなライフスタイルに憧れていた世代だろう。子育てがひと段落ついた人々の中には、あの頃のように再びゲレンデへと繰り出し、スキーをもう一度楽しもうと考えている人だって多いはず。新型レヴォーグはそんな人たちのお眼鏡にかなうのだろうか?
■自慢のアイサイトで渋滞時も疲労とストレスを軽減
レヴォーグは、何を隠そうスバル自身が“かつてのレガシィ ツーリングワゴンの後継モデル”であることをアピールしているモデルだ。具体的にいえば、初代から4代目までのレガシィ ツーリングワゴンに近いポジショニングと位置づけている。
5代目以降のレガシィ ツーリングワゴンは、北米マーケットを重視した結果、ボディサイズが大きくなり、日本では買う人を選ぶクルマになってしまった。そんな中、“レガシィよりもひと回り小さなワゴン専用モデル”として生まれたレヴォーグは、かつて人気を博したレガシィ ツーリングワゴンに近いサイズ感というわけだ。実際、新型レヴォーグの全長は4755mmであり、これは歴代レガシィ ツーリングワゴンと比べると、4代目と5代目のちょうど中間に当たる。
日本にジャストサイズとはいえ、ステーションワゴンのキモともいうべきラゲッジスペースが小さければ、ゲレンデエクスプレスとしてお話にならない。しかし新型レヴォーグは、心配無用だ。通常時(後席の背もたれを起こした状態)の荷室フロアの前後長は1070mmで、荷室容量も492Lとたっぷり。
さらに、フロア下に機内持ち込みサイズのスーツケースがラクに収まる69Lのサブトランクを備えるなど、合計561Lのスペースを確保している。これは、歴代レガシィ ツーリングワゴンの中で最も大容量だった3代目(528L)より広いもので、たっぷりの荷物を積み込んでスキー場へとアクセスできる。
一方、都市部に住むスキーヤーにとっては、ゲレンデへアプローチするための高速巡行性能も重要なポイントだが、これについても新型レヴォーグは文句なし。かつてはピーキーな特性だったスバルの水平対向ターボエンジンだが、“CB18型”と呼ばれる新型レヴォーグでデビューの最新ターボエンジンはトルクが太くフラットで、とてもドライブしやすい。
加えて、自慢の先進の運転アシスト機能“アイサイト”により、高速道路では速度のコントロールをクルマ任せにできるし、車線の中央部を走るようハンドル操作のサポートまでしてくれるから、ロングドライブでも疲労感が少ない。
加えて、運転アシスト機能の上位版である“アイサイトX”搭載車なら、高速道路の渋滞中(50km/h以下)にドライバーがハンドルから手を離しても車線をキープしてくれるので、週末の高速道路で発生しがちな渋滞時でもドライバーの疲労とストレスをより軽減してくれる。
■新型の武器である可変式ダンパーは雪道にも有効
ゲレンデに近づき、路面が白い雪で覆われてくると、スバル車の本領が発揮されるシーンとなる。レヴォーグの駆動方式は全モデルとも4WD(スバルはAWD=ALL WHEEL DRIVE[オール・ホイール・ドライブ]と呼んでいる)だから、雪道に強いのはいうまでもないが、スバルの4WDは単に発進をアシストするにとどまらず、コーナリング時の優れた安定性にも定評がある。
“アクティブトルクスプリットAWD”と名づけられたレヴォーグの4WDシステムは、前輪60:後輪40を基本に、加速、登坂、旋回などの走行状態に合わせて電子制御でリアルタイムにトルク配分をコントロールする仕組み。レヴォーグでは、ハンドル角、ヨーレート、横加速度信号などの車両情報を反映することで、より緻密なトルク配分を実現している。
基本的には安定性重視の味つけだが、ドライバーのテクニック次第では、アクセルペダルを多く踏み込むことで後輪へより多くの駆動トルクを伝えられるため、グイグイ曲がって行く“操る楽しさ”も味わえる。世の中には、少しでもドライバーが楽しもうとすると、スタビリティコントロールを作動させて強制的に姿勢を制御するクルマが多い中、スバルのAWDはひと味違うツウ好みのセッティングとなっている。
いずれにせよ4WDシステムは、あの頃のレガシィ ツーリングワゴンに比べて軟弱になっていないどころか、さらに賢くなっていて、その上、ドライバーが楽しめる裁量までもしっかり残されている。ドライブしていて「スバルは分かっているな」と思わせる乗り味だ。
ちなみに今回の試乗車は、アイサイトXを搭載する最上級グレード「STIスポーツ EX」だったが、雪道で有効に感じたのは「STIスポーツ」系だけに組み込まれる電子制御減衰力可変式ダンパーだ。
スバルのカタログモデルとしては初の採用となるこのデバイスは、状況に応じてダンパーの硬さを瞬時に切り替え、足回りのしなやかさを変更できるのが特徴。それにより、舗装路ではシャープにして機敏な走りを楽しめる一方、クルージング時などは足回りを柔らかくして乗り心地を良化させることができる。
その特徴は、雪道を走る際にも有効だった。硬く踏み固められた圧雪路の表面には凹凸ができていて、そこを走ると微振動が乗員へと伝わり、雪道での不快な乗り心地につながってしまう。その点、新型レヴォーグは走行モードを「コンフォート」にすればサスペンションが柔らかくなり、圧雪路の細かい凹凸も巧みに吸収してくれるから快適性がとても高いのだ。
さらに、足回りがしなやかに動くため、舗装が荒れた路面でも挙動がナーバスにならず、運転しやすいというメリットも。減衰力可変式ダンパーといえばスポーティな走りのための装備と思いがちだが、レヴォーグの場合、雪道を走る際にもメリットが得られることを実感した。
■新型レヴォーグは視界確保のための装備も充実
雪国の朝は冷え込むが、そんな寒い朝に気づいたのは、レヴォーグには視界を確保するための装備が充実していることだ。例えば、凍結してフロントガラスに張りついたワイパーの氷を電熱線で溶かす“フロントワイパーデアイサー”や、鏡を温めることでミラー面に付着した雪や霜を解かす“ヒーテッドドアミラー”、そして、ヘッドライトの雪を落とす“ヘッドランプウォッシャー”などをすべてのグレードに標準装備している。これらがオプションや寒冷地仕様だけに採用されるのではなく、すべての新型レヴォーグに装備されているのは特筆すべきことだろう。
いずれも良好な視界確保をサポートする装備だが、安全のためにまずは良好な視界を確保するというのは、スバルの真摯なクルマ作りを象徴する部分ともいえる。いずれも、過酷な環境になるほどありがたみを感じられる装備である。
加えて新型レヴォーグは、全グレードに左右フロントシートのシートヒーターが備わっているほか、中間グレードの「GT-H」系とSTIスポーツ系には、リアシートにもヒーターが装備される。そのためどんなに寒い日でも、ドライバーだけでなく乗る人すべてが快適に移動できるのだ。
こうしたこだわりがウケているのか、実は今でもスキー場の駐車場で見掛けるクルマはスバル車が多い。新旧レヴォーグはもちろんのこと、「フォレスター」や「XV」、そして「レガシィ アウトバック」など、日本国内の市場シェアがわずか3%のメーカーとは思えないほど、ウインタースポーツ愛好者たちはスバル車を選んでいる。
今回、実際に新型レヴォーグで雪道をドライブしてみたが、スバル車が彼らの心をガッチリつかんでいる理由が垣間見えた。あの頃のレガシィ ツーリングワゴンの魂は、最新のレヴォーグにも脈々と受け継がれているのだ。
<SPECIFICATIONS>
☆STIスポーツ EX
ボディサイズ:L4755×W1795×H1500mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:1795cc 水平対向4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:CVT(リニアトロニック)
最高出力:177馬力/5200〜5600回転
最大トルク:30.6kgf-m/1600〜3600回転
価格:409万2000円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
【関連記事】
2020年のNo.1かも!公道試乗で見えたスバル「レヴォーグ」の驚きの実力
【雪上試乗】スバルAWDが雪国で支持される理由、それは“総合雪国性能”の高さでした
やっぱ北欧生まれは違うね!ボルボ「V60」ポールスター仕様は雪道でも速くて安定してます
- 1
- 2