常識外れの超高性能ディーゼル搭載!BMWアルピナ「D3S」は趣味のアシにも活躍する

■BMW「3シリーズ」をベースに独自のディーゼルを搭載

物事には常識というものがある。クルマの世界において有名なのは「ディーゼル車は省燃費で、低回転域でのトルクが太いから運転しやすい。その一方、高回転域での回転フィールに爽快感がなく、エモーショナルな走りとはほど遠い」というものだ。

しかし常識というのは、あくまで過去の事実等を踏まえただけの話であり、それがいつ、どんなカタチで破られるのかは誰にも分からない…。アルピナの最新モデル、D3 Sをドライブしながら、ふとそんなことを考えた。何しろ、あまりにも常識外れのクルマだったからである。

アルピナは、れっきとしたドイツの自動車メーカーだ。見た目がBMWに似ているのは、車体を始めとする大部分をBMWから調達しているため。元々アルピナは、ユーザーが所有するBMW車のエンジンにパワーアップキットを組み込み、カスタマイズするビジネスを立ち上げたが、後に、あらかじめキットを組み込んだ新車を販売するスタイルへと発展。1983年には、ドイツ自動車登録局から自動車メーカーとしての認定を受けることになった。

BMWの車体をベースにするため、アルピナ各モデルの見た目はBMWとあまり変わらない。しかし、専用の高性能エンジンを搭載したり、独自のサスペンションセッティングを施したりすることで、一般的なBMW車とは異なる味つけとしている。アルピナは、BMWと同じ素材を使いながらオリジナルのレシピと調味料で作り上げた、まさにツウ好みのクルマなのである。

そんなアルピナで有名なエピソードが、車体番号の話だ。アルピナのエンジンルームをのぞくと、ふたつの車体番号が刻まれていることに気づく。ひとつは、BMWが元々つけたものだが、アルピナはそれを消し、脇に独自の車体番号を刻み直している。これも、アルピナの立ち位置を物語る珍しい話である。

そんなアルピナのモデル名は、アルファベットの頭文字(「B」がガソリン車で、「D」がディーゼル車)+数字(ベース車両と同じシリーズ名)を基本とする。そのルールを踏まえると分かるように、今回試乗したD3 SはBMW「3シリーズ」をベースに、独自のディーゼルエンジンを搭載したモデルとなる。

■高性能なガソリンエンジンを思わせる躍動感

D3 Sのエンジンは、アルピナの技術とノウハウが注入された3リッターの直列6気筒ディーゼルターボ。エンジンブロックこそ、日本未導入のBMW「M340d」に搭載され、“BMW最強のディーゼル”と評されるものと同じだが、制御などはアルピナ独自のレシピで味つけされている。

最高出力は355馬力で、BMWの標準タイプに比べて15馬力のパワーアップを実現。一方、最大トルクは74.4kgf-mと、こちらも同3kgf-mアップを達成する。「リムジン」と呼ばれる4ドアセダンなら、停止状態から100km/hまでわずか4.6秒で加速し、巡行最高速度(その速度で走り続けられることを保証する速度)は273km/hにも達する(今回の試乗車であるステーションワゴンの「ツーリング」は、それぞれ4.8秒と270km/h)。

パワー&トルクを見ただけでも、常識外れのとんでもないディーゼルエンジンだと分かるが、さらに常識外れなのは、エンジンのドライバビリティ。通常、ディーゼルエンジンといえば、「低回転域でのパンチ力こそ強力だけど、回転が上がるに連れて薄っぺらく盛り上がりに欠ける」というのが、運転を楽しむ際のドライバー視点での常識で、その分、運転しやすく実用性は高いけれど、ドライバーを高揚させるエモーショナル感にはどうしても欠ける。

しかし、D3 Sのディーゼルターボは違う。低回転域での豊かなトルク感はそのままに、4000回転オーバーまでパワーが盛り上がっていくのだ。そして、レッドゾーンとなる5000回転まで気持ちよく回転が高まり、高性能なガソリンエンジンのような躍動感さえ感じられる。この躍動感こそこのエンジン最大の魅力であり、ディーゼルの常識を完全に打破している。

過去、メルセデス・ベンツやBMWの直列6気筒ディーゼルターボに乗って、「コレはスゴい! コレはドライバビリティを語れるエンジンだ!!」と何度か驚かされたが、アルピナの最新ディーゼルターボは、それらを凌駕する色気を備えていると断言できる。ここまで盛り上がり、官能性まで語れるディーゼルエンジンには、過去、出合ったことがない。しかも、中間加速の力強さはガソリンターボ車以上。グイグイ前へと出ていく感覚がD3 Sはとても強いのだ。

燃費がいいとか、燃料代が安いなど、ディーゼルエンジンを選ぶ理由は主にランニングコスト面での美点に起因する。しかし、アルピナの最新ディーゼルは、フィーリングで選びたくなるユニットなのである。

ちなみにアルピナの最新ディーゼルは、48V電源で作動し、最高出力11馬力のモーターを組み込んだマイルドハイブリッド仕様となる。モーターの反応の良さを生かし、低回転域でのレスポンスアップや燃費の向上に役立てているのだが、実際に運転してみると、モーター感は一切感じられない。つまりドライバビリティにおいては、コンベンショナルな内燃機関だけのエンジンとフィーリング面に大差はなく、伝統的なエンジンの味わいにこだわる人も敬遠する必要などなさそうだ。

■ワゴンの「ツーリング」はラゲッジスペースも“使える”

一方、単に高性能なだけがこのユニットの魅力ではない。まず特筆すべきは静粛性の高さだ。ディーゼルエンジンといえば「ガラガラ」というガサツな音をイメージする人も多いだろうが、D3 Sはアイドリング時に窓を開けてみても、それらが耳に届くことがない。それどころか、エンジンが掛かっている時に車外でボンネットの横に立ってみても、ディーゼルらしい音が一切聞こえないのだ。これには本当に驚かされた。

続いてお伝えしたいのが、ロングツーリング時の快適性だ。低回転域でのトルクが太いため、市街地を低速で走るようなシーンでも柔軟性があって扱いやすい。豊かなトルクを活かしたロングツーリング時のスムーズさもお見事だ。

そんなエンジンに加え、アルピナの手によるサスペンションセッティングの恩恵で、20インチという大径タイヤを履きながら優しい乗り心地を提供してくれるのもD3 Sの魅力。重いディーゼルエンジンを積んでいるとは思えないほど、峠道でも軽々と向きを変える回頭性の良さで走り好きのドライバーを楽しませてくれる一方、ファミリーカーとしても理想的な快適性を併せ持つ。このバランスポイントの高さこそがアルピナの真骨頂であり、全方位的な高性能を具現している。

今回試乗したのはステーションワゴンの「D3 Sツーリング」で、ラゲッジスペースの使い勝手はベースとなった「3シリーズ ツーリング」と変わらない。だから、キャンプに出掛けるようなアクティブなユーザーにもおススメできるし、駆動方式は“オールラッド”と呼ばれる4WDだから、ウインタースポーツを楽しむ人とのマッチングにも優れる。クルマ好きを楽しませてくれる常識外れの高性能ディーゼル車は、ライフスタイルのパートナーとしても実に魅力的なのである。

<SPECIFICATIONS>
☆ツーリング オールラッド
ボディサイズ:L4720×W1825×H1470mm
車重:1940kg
駆動方式:4WD
エンジン:2992cc 直列6気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:355馬力/4000〜4200回転
最大トルク:74.4kgf-m/1750~2750回転
価格:1117万円

>>BMWアルピナ「D3 S」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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