■80周年を迎えたジープの人気が上昇中
「日本ではアメリカ車は売れない」とよくいわれるが、唯一の例外といえるブランドがジープだ。
2009年、同ブランドの日本における年間登録台数は1010台だったが、それが2020年には1万3588台にまで拡大。数字を見間違えたのかと思うほどの急成長である。ちなみに2020年の日本での販売台数は、アメリカ、ブラジル、カナダ、中国、イタリアに次ぐ世界で6番目の規模だったそうだ。
そんなジープは2021年、誕生から80周年という節目を迎えた。いい換えれば、第二次世界大戦中、アメリカ陸軍からの要請によって開発され、実戦投入された軍用の小型四輪駆動車が登場してからすでに80年が経ったことになる。
ちなみにジープとは、自然発生的に呼ばれるようになった通称であり、後に正式なブランド名となったもの。しかも驚くべきことに、なぜジープと呼ばれるようになったのか、その由来は定かではないという。
今回は、そんなジープのラインナップの中から、日本のマーケットでも人気の2台を雪上でドライブした。それは、ジープにおいて最も伝統的なモデルと、最も先進的なモデルという、両極端の性格を有した2台である。
■ラングラー人気を後押しする唯我独尊の強い個性
ジープにおいて最もコンベンショナルなモデルといえばラングラーだ。
誰が見てもひと目でジープだと分かるスタイリングからして、ブランドのルーツとなる軍用車の特徴を今なお色濃く残している。シンプルで無骨な全体のフォルム、縦にスリットの入ったフロントグリル(現在は7本だが軍用車時代は9本だった)、そして台形のホイールアーチなどは、ずっと継承されているアイデンティティ。ちなみにこのホイールアーチは、タイヤ回りのスペースを広げてドロや雪が詰まりにくくするという、機能に裏打ちされたカタチである。
そして何を隠そう、最近の日本市場におけるジープ人気をけん引しているのが、このラングラー。2009年にはわずか516台だった日本での販売台数は、2020年には5757台と11年間で10倍以上の拡販に成功している。販売台数は順調な右肩上がりのカーブを描いていて、しかもこの数字も、多くの納車待ちを抱えた状態での記録というから驚くばかりだ。
もちろん、日本車に比べると絶対数として多くはないが、日本で売れないといわれるアメリカンブランドだけに、この数字はスゴい。ちなみに、ジープ全体の2020年の日本での販売台数のうち、42.4%をこのラングラーが占めている。
ラングラーが人気を集める理由は、唯我独尊の強い個性だろう。見るからにジープであり、ジープ以外の何物でもない。そんな個性的スタイルと唯一無二の強いキャラクター、そして、所有することで生活が充実しそうな雰囲気に人々は惹かれるのだ。
それでいて、所有者の多くが都市部もしくは都市部の近郊に住む人だというのも、興味深い。皆、激しい悪路を走ることはほぼないはずだから、人生を楽しむというジープの姿勢に共感しているのだろう。日本市場におけるアメリカ車には、アメリカ車ならではの雰囲気が肝心。ラングラーの人気ぶりを見ていると、そのことを強く実感する。
■ジープ・オブ・ジープの貫禄を見せつける高い走破性
そんなラングラーを雪上路でドライブして感じたのは、絶対的な安心感だ。
今さら説明するまでもないだろうが、ラングラーはジープの中でも悪路走破性において頂点に立つモデル。いかにも悪路に強そうな大きなタイヤを履き、ロードクリアランス(車体底面と地面との空間)もたっぷりとられている。
4WDシステムは、現行モデルより電子制御式のセンタークラッチが組み合わされたことでフルタイム化されている。そのため、4WDセレクターを「オート」にしておくと、2WDと4WDの切り替えを自動でやってくれるのだが、セレクター次第では2WDや4WDに固定できるほか、極悪路走行向けの4WDローレンジも用意されるなど、従来モデル同様のギミックも継承。加えて、タイヤの空転を抑える電子制御機能も組み込まれている。
それらはいずれも、悪路での走破性を高めるためのものだが、滑りやすい雪の上を走っても、メリットを享受できる。深い雪や大きなわだちなど、路面に障害物が多くても気にせず走れる。ちょっとくらい雪だまりにタイヤがはまっても、余裕で脱出可能。そんな優れた走破性が、雪道では心強い。
フツーの雪道なら並みのクルマでも走れてしまうけれど、例えば、雪国でよく見掛ける、大雪のため除雪が追いついていないシーンなど、状況が過酷になればなるほどラングラーの走破性が頼もしく感じられる。
この絶大な安心感こそが、まさに“ジープ・オブ・ジープ”の貫禄だ。フツーのクルマではたどり着けない場所まで連れて行ってくれそうな圧倒的な実力に、冒険心がくすぐられる。
■エコでもオフロード性能をしっかり重視
一方、ジープで最も先進的なのは、「レネゲード 4xe(フォー・バイ・イー)」だ。
「レネゲード」はジープの中で最もコンパクトなモデルであり、日本には2015年に上陸。2020年、日本ではラングラーに次ぐ3881台のセールスを記録し、今やラングラーと並ぶジープを代表するモデルとなっている。
レネゲード 4xeが最も先進的である理由は、ジープブランド初のプラグインハイブリッドカーだから。エンジンとモーターを組み合わせ、外部から充電できる大型バッテリーも備えており、条件がそろえば、エンジンを止めて電気自動車のようにモーターだけで長い距離を走れるのが特徴だ。もちろん、モーターだけで走っている間はガソリンを消費しないので、低燃費を実現。ちなみに、モーターだけで走行する際の最高速度は130km/h、同様に航続距離は最長48kmをマークする。
「ジープもついにエコを意識する時代がきたか…」と思うが、ここで声高にお伝えしておきたいのは、このモデルが単なるエコカーに留まらないことだ。レネゲード 4xeのハイブリッド機構は、前輪をエンジンで、後輪をモーターで駆動する。つまり、後輪にはエンジンの駆動力が機械的に直接伝えられることはないが、オフロード性能を重視したグレード「トレイルホーク4xe」には、路面状況に合わせて最適な駆動力を発生させるトラクションコントロールシステム“セレクテレインシステム”に、しっかりと「LOCK」モードが備わる。これは、いかにもオフロード車ブランドのジープらしい装備だ。並みのプラグインハイブリッドカーで、こんなモードなど見たことない。
LOCKモードは、前後輪を直結した4WD機構をイメージしたモードで、車速が15km/h以下の場合、発進時にタイヤが回転する瞬間からリアモーターが常に作動し、前後のトルク配分比を一定に保った4WD状態となる。センターデフによって機械的に前後輪を直結するわけではないが、擬似的にそれを実現するのだ。
そして雪道においては、このLOCKモードが役立つことを実感した。「AUTO」モードの場合、必要な時だけ後輪へと駆動トルクを送るオンデマンド4WD車に近い制御となるが、雪道に適した「SNOW」モードにすると4WD制御は自動的にLOCKモードとなり、最大限のトラクションを得られる。また、エンジンが発電した電気を直接、後輪モーターへと送れるため、万一、バッテリー残量が減ってきても4WDで走れるよう考えられている。この辺りの心づかいも滑りやすい路面では心強い要素だ。
■プラグインハイブリッドでもジープはジープ
というわけで、SNOWモードを選択したレネゲード 4xeで雪道へ繰り出してみたのだが、発進時にラフなアクセルワークを行っても挙動はビシッと安定。スタビリティ性能の高さはさすがのひと言だ。
また、後輪をモーターのみで駆動する4WDであっても、トラクション不足は全く感じない。旋回中、ちょっと深めにアクセルペダルを踏み込んでも、不安な挙動が微塵も感じられないことにも驚かされた。
正直に告白すると、プラグインハイブリッドカーだから4WDの性能はオマケ的なものであり、滑りやすい路面での発進をサポートするくらいのものと考えていた。でも、実際に乗ってみるとそれは杞憂であり、プラグインハイブリッドカーでもジープはジープだったというわけだ。
* * *
ラングラーとレネゲード 4xe。この2台はともにジープブランドの人気モデルではあるものの、その立ち位置は対極にある。しかし、雪道でドライブしてみると、どちらもしっかりとジープであることを強く実感させられた。
特にレネゲード 4xeは、先進的なプラグインハイブリッドカーでありながら、ただのエコカーではなく、4WDシステムにもしっかりとジープの魂が込められていた。後輪はモーターだけで駆動するものの、悪路走破性も忘れてはいないのだ。
<SPECIFICATIONS>
☆ラングラー アンリミテッド スポーツ
ボディサイズ:L4870×W1895×H1840mm
車重:1970kg
駆動方式:4WD
エンジン:3604cc V型6気筒 DOHC
トランスミッション:8速AT
最高出力:284馬力/6400回転
最大トルク:35.4kgf-m/4100回転
価格:534万円
<SPECIFICATIONS>
☆ラングラー アンリミテッド ルビコン
ボディサイズ:L4870×W1895×H1850mm
車重:2050kg
駆動方式:4WD
エンジン:3604cc V型6気筒 DOHC
トランスミッション:8速AT
最高出力:284馬力/6400回転
最大トルク:35.4kgf-m/4100回転
価格:628万円
<SPECIFICATIONS>
☆レネゲード トレイルホーク 4xe
ボディサイズ:L4255×W1805×H1725mm
車重:1860kg
駆動方式:4WD(電気式4WDシステム)
エンジン:1331cc 直列4気筒 SOHC ターボ+モーター
トランスミッション:6速AT
エンジン最高出力:179馬力/5750回転
エンジン最大トルク:27.5kgf-m/1850回転
フロントモーター定格出力:20馬力
フロントモーター最高出力:45馬力
フロントモーター最大トルク:5.4kgf-m
リアモーター定格出力:60馬力
リアモーター最高出力:128馬力
リアモーター最大トルク:25.5kgf-m
価格:503万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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