■2016年公開のコンセプトカーを思わせる顔立ち
新しいC3は、顔つきが変わった。資料によると「これからのシトロエンを示唆する新世代フェイス」になったとのこと。具体的には、2016年のパリモーターショーで発表されたコンセプトカー「CXPERIENCE(Cエクスペリエンス)」にインスパイアされたものだ。シトロエンのブランドロゴである“ダブルシェブロン”から伸びるクロームラインが、外側に向かって飛行機の翼のように跳ね上がりながら、LEDのデイタイムランニングライトと一体化しているのが特徴である。対して、二段重ねになった下側のシェブロン(山型)は山の稜線のように下降し、LEDヘッドライトをまとめたランプエリアを結んでいる。
そうした表情だけ見るとなかなかアグレッシブだが、クルマ全体のフォルムは変わっておらず、冬毛のネコが前足をそろえてちょこんと座っているように見えて愛らしい。その愛らしいフォルムと、いかつい顔の取り合わせが絶妙で、新しいC3の代えがたい個性になっている。
C3の特徴である、ボディ側面の“エアバンプ”もアップデートされた。ボディサイドを軽い接触から守る機能と、視覚上のアクセントを兼ね備えたエアバンプは、従来、7つのカプセルに分割されていて、一番前のひとつにカラーアクセントが施されていた。それが新型では、カプセルは3つに減った。個々のカプセルが大きくなった分、カラーアクセントの主張が強くなっている。
角を丸めた長円形のパターンは、フォグランプのベゼルにも反復。新しいC3ではさらに、リアピラーのステッカーでも反復させていて、サイドビューの一体感を強めている。
■シトロエンはデザインの勘どころを熟知している
新しいC3は、インテリアの魅力も高まった。資料によると「リビングのような居心地の良さとくつろぎを提供する」というコンセプトだが、筆者が受けた印象は、“調度品に凝ったカジュアルなカフェ”といったもの。エアバンプと同じく、角を丸めた長円形のデコレーションがドアの内張りやエアコンの吹き出し口、ステアリングホイールのスイッチパネルなど随所に反復されていて、見た目にも楽しい。ダッシュボードやグローブボックスに用いられる素材は、コスト優先の素っ気ないハードプラスチックなのだが、安っぽさは全く気にならない。
なぜなら、そこに乗員の意識が向かないからだ。長円形のエアコン吹き出し口を結ぶダッシュボードの“へり”に当たる部分に上質感のあるソフトパッドを配し、アクセントとしてステッチを設けている。目に入りやすい位置にあるため、ハードプラスチックよりもソフトパッドに意識が向く。
また、フロントドアのグリップはシャレた旅行カバンの持ち手を思わせる仕立てになっており、乗り降りするたびに楽しい気分になれる。新しい小物やデバイスを手に入れると、意味もなく触りたくなる気分に似ている。どこに力を入れてデザインすれば、コストの上昇を抑えつつ、ユーザーを満足させることができるのか…。その勘どころをシトロエンは熟知しているのだろう。おかげで新しいC3は、見て楽しく、触れても楽しいクルマに仕上がっている。
それはシートも同様だ。見るだけで心が浮き立つようなデザインである。装備が充実した「シャイン」グレードには、新たに“アドバンストコンフォートシート”を採用。シートバックにアクセントカラーが入るのも新鮮だが、シート生地の裏側に特別なフォームを配することで、カラダとシートの“当たり”を改善している点がありがたい。このフォームのボリュームは、従来2mmだったものを、新型では15mmへと大幅アップ。腰を下ろした瞬間にクッション性の高さを実感できる。
とはいえそれは、いったん身を任せたら、起き上がるのに苦労するようなソファーの包み込み感とは異なる。アドバンストコンフォートシートは、芯はしっかりしており、当たりだけが柔らかい印象。車速が上がるほどに、タイヤやサスペンションと連動したクルマ全体の動きと調和し、心地良くなっていくのを感じた。
■パワートレーンの欠点も思わず許せてしまう
新しいC3に搭載されるパワートレーンは、従来から変わっていない。最高出力110馬力、最大トルク20.9kgf-m を発生する1.2リッター3気筒ターボに、日本のアイシン製6速ATを組み合わせる。とはいえ制御ソフトウェアの最適化によって、カタログに記載されるJC08モード燃費が18.2km/Lから21.0km/Lへと15%向上した(同WLTCモードでは17.2km/L)ことは大きなトピックだ。高速道路の左側車線を淡々と走ってみたところ、20.4km/Lの区間燃費を確認。燃費は確かに良さそうだ。
パワートレーン全体のしつけが少々荒く、時折、設計の古さを感じさせるシーンもある。同じグループに属すプジョーの「208」は8速ATがいい仕事をしているだけに、なおさらそう感じてしまう。また振動も消し切れておらず、特に1600回転辺りでハンドルにブルブルとした振動が伝わる。とはいえ、魅力的な内外装デザインや居心地のいいキャビンに免じ、それらも許せてしまうのが、このクルマの魅力ともいえるだろう。
ちなみに試乗車には、最近、インポーターのグループPSAジャパンがオプション設定を積極的に展開する、BEWITH(ビーウィズ)製の純正交換型プレミアムスピーカーが装着されていた。フロントおよびリアのスピーカーは、車両の加工や改造を行うことなく、純正位置に収めることができるのが特徴。そうした構造ゆえ、購入後に後づけ装着することも可能だ。
気になる音質は、音の粒立ちがしっかりしており、抜けが良くて聴きやすい上にダイナミック。センタースピーカーを追加したわけではないのに、音像がセンターにしっかり定位しているのが印象的だった。
<SPECIFICATIONS>
☆シャイン
ボディサイズ:L3995×W1750×H1495mm
車重:1160kg
駆動方式:FWD
エンジン:1199cc 直列3気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6速AT
最高出力:110馬力/5500回転
最大トルク:20.9kgf-m/1750回転
価格:259万5000円
文/世良耕太
世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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