■高い車高と黒い樹脂製パーツで無骨な雰囲気に
このところ、街でスバルのXVをよく見掛ける。「気のせいかな?」と思っていたら、やはりそうではないようだ。
このところしばらくの、スバルの国内販売におけるツートップは、フルモデルチェンジ直後の「レヴォーグ」の“新車効果”を抜きにすれば、「フォレスター」とXV。月によって互いの順位は入れ替わるけれど、いずれにせよXVが人気車種であることに変わりはない。
そんなXVが誕生したのは、2010年6月。「インプレッサXV」という車名からも分かる通り、インプレッサの派生モデルとしてデビューした。車体そのものはインプレッサの5ドアハッチバックと共用し、車体下部やタイヤの周囲に黒い樹脂製パーツを装着することで無骨な雰囲気をプラスしていたのは、今も変わらないXVの基本ともいえる。
2012年には、ベースモデルであるインプレッサのフルモデルチェンジを受けて2代目へと進化。車高がインプレッサと同じだった初代に対し、2代目は車高をアップさせつつ、大径タイヤを履かせて悪路走破性とSUVテイストを高めた。また、インプレッサの冠が外れてXV単体のネーミングになったのも2代目の時。ボディこそインプレッサと共用しつつも、両モデルは別の道を歩み始めたのである。
そして2017年、現行モデルとなる3代目が登場。スタイリングは2代目とよく似ているが、車体の骨格ともいえるプラットフォームを刷新するなど、中身は大幅に進化した。2代目の日本仕様は、エンジンが2リッター版しかなかった(初代には1.5リッターと2リッターがあった)が、3代目では1.6リッターを積むリーズナブルなグレードが追加されたのもトピックだ。
■ベースモデルとはキャラクターまでしっかり差別化
そんなXVは、ハッチバックとSUVを掛け合わせた“クロスオーバーSUV”というジャンルに属する。直接的なライバルは、トヨタ「C-HR」やマツダ「CX-30」、三菱「エクリプス クロス」辺りだが、価格帯を無視すれば、メルセデス・ベンツ「GLA」やBMW「X2」などの輸入車も競合車種となる。
とはいえXVは、それらライバル車と比べるとクルマづくりが異色だ。その理由は、なんといってもボディにある。ライバルはいずれも、他のモデルとは別設計の専用ボディを与えられているが、XVは主要メカニズムだけでなくボディまでもインプレッサ スポーツと共用している。そういう意味では、ステーションワゴンをベースに車高をアップさせた、XVの兄貴分に相当する「レガシィ アウトバック」と同じ考え方と捉えれば分かりやすい。そしてここ日本では、ハッチバックとボディを共用しているクロスオーバーSUVは、このXVのみである。
そんな成り立ちを持つだけに、XVのキャラクターはベース車(=インプレッサ スポーツ)と似ているのでは? と想像しがちだが、そうではないのがクルマづくりの面白いところ。
まず見た目だが、車高アップと大径タイヤの採用、そして、黒い樹脂製パーツの装着により、ワイルド感が強調されて全く別のモデルに見える。街で見掛けるXVは、オレンジや明るいブルーなど、鮮やかな色合いのクルマが多いこともあり、ちょっと無骨な感じも含め、まるでアウトドアギアのような感覚だ。「背の高いSUVまではいらないけれど、ちょっと個性的で便利なクルマに乗りたい」と考えた時、XVはちょうどいい選択となるのがよく分かる。
またXVは、ベースとなったインプレッサ スポーツに対して車高が70mmアップしているが、実はこの車高の違いは、想像以上にメリットが大きい。
ひとつ目のメリットとして挙げられるのは、乗降性の向上だ。XVの着座位置は、低すぎず、高すぎず、絶妙なポジションにある、乗り降りがラクに行える。このメリットはクルマに乗るたびに実感できるから、その効果は想像以上に大きい。
そしてもうひとつのメリットは、悪路走破性の向上。現行XVのロードクリアランスは200mmで、本格オフローダーであるスズキ「ジムニー」のそれが205mmであることを考えれば、XVがいかに悪路や雪道に強いかがうかがえる(ライバルのCX-30やエクリプス クロスのそれは175mmしかない)。
■スポーティな走りをサポートする新機能をプラス
そんなXVが、2020年秋に商品改良を受けて最新モデルへと進化した。見た目で分かる部分では、アルミホイールや、フロントのバンパー&グリルの形状がリフレッシュされ、より力強い雰囲気になった。
また、すべてのグレードでサスペンションがリファインされ、走りにおけるスポーティ感としなやかさの水準がこれまで以上に引き上げられている。加えて、メーカーオプションではあるものの、前部の車両直近をモニターに映して安全確認をサポートする“フロントビューモニター”も用意された。見た目だけでなく、走りの質や安全性を高めてきた辺りは、いかにもスバルらしい商品改良といえるだろう。
中でも大きな変更といえるのが、2リッター車がすべて、エンジンにモーターを組み込まれた“e-BOXER(イー・ボクサー)”仕様になったこと。モーター出力は13.6馬力と、トヨタ製ハイブリッドに比べれば5分の1程度の、いわゆる“マイルドハイブリッド”車だが、その効果は決して侮れない。
例えば、駐車場内での移動時など、人が歩くほどの速度であれば、しっかりとエンジンを止め、モーター走行をこなしてくれる。マイルドハイブリッド車でモーター単独で走れるモデルは珍しく、ガソリンを節約できるのはもちろんのこと、“ハイブリッドカーに乗っている”感覚を実感させてくれる。
また今回の改良では、そのハイブリッドモデルに“e-アクティブ シフト コントロール”と呼ばれる機能が盛り込まれた。これは、ドライブモード切り替え機能である“SIドライブ”が「Sモード」に入っている状態で、さらにドライバーがスポーティな走りを楽しんでいるとクルマ側が判断した場合に、自動で切り替わるパワートレーン制御だ。
これにより、コーナー進入時には積極的にシフトダウンし、旋回中のエンジン回転数を高めにして車体の挙動を安定させるとともに、アクセル操作に対するダイレクトな反応を実現。また、コーナーを曲がり終わって加速する際には、モーターアシストを増やすことで一層の力強さを発揮するとともに、下り坂では、エンジンブレーキを効かせて車速管理をしやすくしてくれるという。
「実際に効果はあるのか?」と半信半疑で同機能を使ってみたところ、コーナー手前のシフトダウン効果や、加速時におけるモーターならではのトルク感を実感できた。
ドライブ好きなら「なるほど!」と思えるこうした制御を、スポーティカーではなくクロスオーバーSUVのXVにサラッと盛り込んでくる辺りが、スバルらしいなとうれしくなった。
ベースモデルとなったインプレッサ スポーツに比べて、オシャレで実用性が高く、悪路や雪道を安心してドライブできる上に、時にはスポーティに走ることもできる。そんなXVが高い人気を得ているのは、確かに納得だ。
<SPECIFICATIONS>
☆2.0e-S アイサイト
ボディサイズ:L4485×W1800×H1595mm
車重:1560kg
駆動方式:4WD
エンジン:1995cc 水平対向4気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:CVT(リニアトロニック)
エンジン最高出力:145馬力/6000回転
エンジン最大トルク:19.2kgf-m/4000回転
モーター最高出力:13.6馬力
モーター最大トルク:6.6kgf-m
価格:287万1000円
>>スバル「XV」
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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