RAV4級のサイズが魅力!小型SUVの「XT4」は日本にマッチしたキャデラック

■過去の印象を打破した新時代のキャデラック

キャデラックはGM(ゼネラルモーターズ)が展開する高級車ブランドだ。ビル・クリントン氏がアメリカ大統領に就任した1993年以降、四半世紀以上に渡って大統領専用車に選ばれていることからも、アメリカを代表する高級車ブランドに君臨し続けていることがうかがえる。

そして、「アメ車は売れない」ということが定説になっているここ日本でも、キャデラックブランドの認知度は高く、特別な存在と位置づけられている。特に年配の人たちからの認知度が高いのは、日本における歴史が長いのと同時に、かつて“別世界の憧れのクルマ”だったからにほかならない。

何しろ、キャデラックがヤナセによって初めて日本に輸入されたのは1910年代のこと。以降、第二次世界大戦時にいったん輸入が途絶えたものの、戦後にはGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)のダグラス・マッカーサー氏の専用車として使われたほか、天皇陛下の御料車としても採用されるなど、特別なクルマというイメージが日本中に浸透していった。また、1960年代から’70年代にかけては、映画スターやプロレス選手が好んで愛用。知名度の向上とイメージアップに拍車を掛けることになった。

日本でもそんな輝かしい歴史を持つキャデラックに対し、多くの人々は「大きい」や「インテリアが豪華絢爛」、「シートがフカフカしている」、「燃費が悪い」といったイメージを抱いているのではないだろうか? しかし、確かに大きなモデルもラインナップされてはいるものの、今のキャデラックにそれらはほとんど当てはまらない。なぜならキャデラックは、ここ10年ほどで大きく変貌を遂げたからだ。

■ボディサイズはRAV4やエクストレイルとほぼ同じ

そんな“変化を遂げたキャデラック”を象徴する存在が、新たに上陸したSUVのXT4だ。

キャデラックといえば、大型セダンやクーペのイメージが強かったが、現在のラインナップはセダンよりもSUVの方が多いほど。これだけを見ても、今のキャデラックが過去の栄光に縛られていないことが理解できる。

その上、新しいXT4は、ボディサイズが手頃なことが最大のトピック。キャデラック車といえば、全長5mオーバーは当たり前という大柄なモデルばかり、といった印象が強いが、このXT4の全長は4605mmしかない。これは、トヨタ「RAV4」や日産「エクストレイル」と同程度であり、キャデラックも現代のニーズにしっかりアジャストしていることがうかがえる。

キャデラック初のコンパクトSUVとなったXT4は、パワーユニットもイマドキだ。アメリカ車といえば、大排気量のV8エンジンを想像しがちだが、XT4は2リッターの直列4気筒ターボエンジンを搭載する。しかも、直噴タイプで気筒休止機構が組み込まれているほか、ターボチャージャーは運転しやすくパワーも出しやすいツインスクロールタイプ。最新トレンドに沿った技術が盛り込まれている。

結果、日本仕様のXT4は、最高出力230馬力、最大トルク35.6kgf-mを発生する。十分パワフルなのに加え、燃費も大排気量V8と比べてはるかに良好。その上、毎年支払う自動車税などのランニングコストも、常識の範囲内に収まっている。

■欧州車のような落ち着きを感じさせるインテリア

そんなXT4のコックピットに収まると、インテリアの上質さに感心させられる。全グレードに本革シートが標準装備され、ウッドパネルも“ウッド調”ではなく本物の杢目材を採用。さらにアクセントパーツも“金属調”ではなく本物の金属をあしらう。その上、アームレストなど手が触れる部分を中心にレザーがふんだんに張られているなど、インテリアの仕立てはかなり上質だ。

おまけに、いかにもアメリカ車的な、ギラギラとしたきらびやかさは皆無。ヨーロッパ車のような落ち着きを感じさせるのは、キャデラックという響きからすれば意外だが、モダンに感じられてこれはこれで悪くない。というよりも、多くの日本人にとっては、この仕立ての方がすんなり馴染めることだろう。

コンパクトSUVとはいえ、日本でいえば“ちょっと大きめ”に分類されるボディサイズだから、リアシートやラゲッジスペースも十分広い。ゆったり寛ぎながらドライブできるから、アウトドアなどのレジャードライブのアシや、ファミリーユースなどにもオススメだ。

また日本仕様には、カーナビが標準装備されているのが見逃せない。これまで日本向けのキャデラックはカーナビの取り付けに苦労していたようだが、最新のXT4ではその課題も解決。GMジャパンがゼンリン系の会社と共同開発した車載通信ナビが標準搭載されている。通信機能を活用し、スマホナビのように常に最新の地図をストリーミング表示しながらルート案内するのが特徴で、トンネル内などGPSが測位できない場所でもしっかり自車位置を見失うことなく道案内してくれるから、初めて訪れる場所でも頼もしい限りだ。

一方、現状のXT4には右ハンドル車の設定がなく、購入層を狭めてしまっているのは気になるところ。10年以上にわたって左ハンドル車を所有したことのある筆者の経験からいうと、運転自体は慣れてしまえばどうってことはない。ETCの普及によって有料道路の料金所などでの負担もかなり軽減されていて、わずらわしく感じるのは有料駐車場のチケットブースや料金ゲートくらいのものだ。そのため、XT4を気に入ったのであれば、左ハンドル車であることを理由に臆することはないと思うのだが、やはり運転感覚の慣れが必要なこともあって、左ハンドル車の購入には覚悟が必要なのは否めない。クルマの出来はかなりいいから、誰にでもオススメできるモデルでないのは残念だ。

■現代のキャデラック車らしい洗練された乗り味

そんなXT4の乗り味は、高いレベルの快適性を提供してくれるしなやかさが印象的だ。乗り心地の良さに対する期待を裏切ることがないアメリカの高級車らしい仕上がりで、普段乗りにも都合がいい。

一方、XT4で高速道路や峠道を走っていると、「もうちょっと俊敏な方がいいかも」と感じるが、そういった走りの良さを求める人なら、「スポーツ」グレードに注目するといいだろう。このグレードには減衰力可変式のショックアブソーバーが装着されていて、走行モードを切り替えることで足回りが適度に締まる。そのため、クルマのムダな上下方向の動きが抑制されてシャープなハンドリングとなり、コーナーを曲がることが楽しく感じられるのだ。

ちなみに日本仕様の駆動方式は、全グレードとも4WDとなる。しかも後輪には、クラッチを使って左右輪の駆動力配分をコントロールし、旋回性能を高めてくれる“トルクベクタリング”機能が搭載されている。加えて、エンジンは「シュン!」と高回転域まで吹け上がる軽快感が印象的で、それが結果的に運転する楽しさにつながっているのだ。こうした乗り味には、運動性能を重視した現代のキャデラックらしさが強く反映されている。

日本で乗るにはジャストと思えるボディサイズを持ち、スタイルは今や一大トレンドとなっているSUV。さらに、“本物”にこだわった室内の仕立ては上質だし、ドライブだって楽しめる。加えて、570万円〜という価格設定も、メルセデス・ベンツ「GLC」やBMW「X3」、そしてアウディ「Q5」といった欧州プレミアムブランドのライバルに比べれば、かなりリーズナブルである。これまでキャデラックを身近に感じていなかった人たちも、新しいXT4はチェックすべきモデルといえるだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆スポーツ
ボディサイズ:L4605×W1875×H1625mm
車重:1760kg
駆動方式:4WD
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:9速AT
最高出力:230馬力/5000回転
最大トルク:35.6kgf-m/1500〜4000回転
価格:640万円

>>キャデラック「XT4」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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