■STIスポーツは大人のプレミアムスポーツ
多くの自動車メーカーには、レースなどのモータースポーツ活動を担う直系の組織が存在する。海外メーカーで代表的なのは、メルセデス・ベンツのAMGやBMWのMであり、日本車メーカーではトヨタのTRDや日産自動車のニスモなどがよく知られたところだ。
同様に、スバル直系の組織であるSTIは、レースなどのモータースポーツ活動を担当するのに加え、スバル車に手を加えた独自の高性能市販モデルを開発。加えて、競技車両や市販車向けのパーツ類もリリースしている。
そんなSTIが、母体であるスバルと共同開発し、各モデルの高性能グレードとして展開しているのが「STIスポーツ」シリーズだ。STIスポーツは、2016年7月の初代「レヴォーグ」を皮切りに、2017年の「BRZ」、2018年の「WRX S4」、そして2020年の新型「レヴォーグ」や「インプレッサ」の5ドアハッチバックであるインプレッサ スポーツなど、年を経るごとにラインナップを拡充している。
同シリーズの位置づけは“大人のプレミアムスポーツ”だ。モータースポーツに携わる組織が開発に関わっているだけに、サスペンションなど走りを左右するパーツ類にスポーティなエッセンスが注がれているのは当然だが、STIスポーツはそれに加え、上質さにもこだわっている。
インテリアは、ボルドーやレッドのシート生地をあしらい、ハデになりすぎない程度に華をプラス。おまけに、例えば先代BRZのシート生地はバックスキン調の風合いが魅力の“アルカンターラ”とする一方、レヴォーグやWRXでは本革を採用するなど、各モデルの性格に合わせてプレミアムの方向性を変えている。
いずれも、さりげなくオシャレで上質な雰囲気が魅力だが、それもそのはず、STIスポーツ仕様は各モデルの最上級グレードというポジショニングなのだ。そのため、走りはスポーティだが、ありきたりなスポーツモデルのようにコテコテのルックスとガチガチの足回りを採用するのではなく、プレミアムな雰囲気とコンフォートな乗り味も追求しているのである。
■軽い車重による軽快な走りが魅力の前輪駆動モデル
今回フォーカスしたのは、そんなSTIスポーツの中で最も新しく、一番リーズナブルなインプレッサのSTIスポーツだ。
このモデルで大きなトピックが、246万円からという手の届きやすい価格設定と、STIスポーツとしては初めて、前輪駆動モデルが設定されたこと。これまでのSTIスポーツは、4WD車を基本とし、BRZのみ後輪駆動車だった。しかしインプレッサでは、もちろん4WDを選べるものの、あえて前輪駆動モデルも設定。スバル関係者いわく、「軽い車重による軽快な走りが魅力のモデル」だという。
スバルといえば、4WDにこだわりを持ち、メジャーな自動車メーカー(SUVに特化したブランドなどは除く)の中で、最も自社生産モデルの4WD車販売比率が高いブランドだ。そんなスバル車であるにもかかわらず、あえて前輪駆動モデルを推してきたのが興味深い。
エクステリアは、見た目にはブラックに思えるダークメタリックのアルミホイールを始め、フロントグリル、フォグランプカバー、シャークフィンアンテナ、リアスポイラーなどをブラック化。昨今のトレンドになっているコーディネートを採用した。
ボディカラーは試乗車の“セラミックホワイト”のほかに、スバル製スポーツモデルの定番である“WRブルー・パール”もSTIスポーツ専用色として設定。また、現行のインプレッサ スポーツの中では唯一、18インチのタイヤ&ホイールを組み合わせている。
そんな実車を前にして思ったのは「“いかにも”なスポーティ感ではないな」ということ。見る人が見れば「ちょっと違うな」と思えるコーディネートだが、大胆なエアロパーツなどが装着されていないためハデさは皆無だ。そのバランスのいいルックスは多くの人に受け入れられるだろうし、これで物足りなければSTIブランドで用意されるフロントアンダースポイラーなどのアクセサリーを追加し、自分好みに仕立てていく楽しさも味わえる。
インテリアも同様に、さりげなくスポーティで上質だ。インパネの一部やシフトレバー周りの加飾パネルはブラックで、クールな仕立てとしている。
一方、シート生地には、挿し色としてレッドの配色をプラス(シート生地はファブリック/トリコット)。
加えて、ハンドルなどに赤いステッチを配することで華やかさも演出している。
■STIこだわりの足回りでヒラヒラとコーナーを舞う
内外装のコーディネートも魅力だが、STIスポーツ仕様のハイライトといえば、なんといってもサスペンションだ。
WRX S4や先代レヴォーグではビルシュタイン、BRZではザックス、そして新型レヴォーグではスバル車初のZF製電子制御可変ダンパーを採用するなど、STIスポーツ仕様はいずれのモデルもショックアブソーバーにこだわってきたが、最新モデルのインプレッサでもその姿勢は変わらない。
インプレッサのSTIスポーツは、「SFRD」と呼ばれる日本の名門メーカー・ショーワが開発した特別構造のショックアブソーバーをフロント側に採用。SFRDとは“Sensitive Frequency Response Damper”の略で、路面から伝わる入力に反動し、機械的に減衰力を自動的に切り替える機能を備えている。狙いは、操縦安定性と乗り心地を高次元で両立することだ。
「STIスポーツだけに硬そうだな」と予想をしつつ走り始めたら、全く予想外だったので驚いた。サスペンションがしっかりと動き、拍子抜けするほど乗り心地がいいのだ。滑らか、かつしっかりとショックアブソーバーが動くことで、路面の段差を乗り越えても確実に衝撃を吸収。乗員のカラダが揺さぶられることがない。かといって、サスペンションが柔らかすぎて車体の姿勢が不安定になることもなく、乗り心地はいいけれどムダな動きがない、いわゆる“ネコ足”系のフィーリングに仕上がっている。
一方、コーナリング時の挙動はシャープすぎず、ハンドルを切った直後にスッと軽快に向きに変え、その後は適度にロールしながらジワッと曲がっていく。その感覚は刺激的ではないけれど、その気になれば軽快な走りをも楽しめる大人のスポーティカーらしいテイストだ。
そんな足回りのおかげで“ヒラヒラ”とコーナーを舞うかのような乗り味が心地いい。「この感覚、何かに似ているな?」と思ったら、それはマツダ「ロードスター」だった。足回りを硬く締め上げるのではなく、素直な車体の動きで気軽にスポーティな走りを楽しめる。そんなロードスターに通じる走りの世界観を、インプレッサのSTIスポーツは楽しめるのである。
そして、この乗り味はかなり玄人向けの味つけといえる。スポーティさを乗員に分かりやすく伝えるなら、足回りは硬く締め上げた方は分かりやすい。しかし、そうした手法を採らず、しなやかで軽快な乗り味に仕立てたのが、インプレッサ STIスポーツ最大の特徴であり、それがこのクルマならではの魅力となっている。
「本格的なスポーツハッチはいらないけど、走りが気持ちよくなければ満足できない」とか、「ファミリーカーとして使うから乗り心地がいいのはマスト」という人に、インプレッサ STIスポーツは特にオススメしたい1台だ。
<SPECIFICATIONS>
☆STIスポーツ
ボディサイズ:L4475×W1775×H1480mm
車重:1350kg
駆動方式:FWD
エンジン:1995cc 水平対向4気筒 DOHC
トランスミッション:CVT(リニアトロニック)
最高出力:154馬力/6000回転
最大トルク:20.0kgf-m/4000回転
価格:270万6000円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
【関連記事】
アウトドアの相棒にちょうどいい!スバル「フォレスター」にターボ仕様が復活
街乗りからアウトドア遊びまでカバー!スバル「XV」はハイブリッドの進化に驚き
【もうすぐ出ますよ!注目の日本車】逆風の中でも進化するトヨタ「GR86」とスバル「BRZ」
- 1
- 2