■伸びやかに見える新型ヴェゼルのルックス
コンパクトSUVとは思えないほど立派で、車格感が上がって高級感もあるーーそれが新型ヴェゼルを前にしての第一印象だ。正式発表に先立って写真が公開された時、マツダ「CX-5」やトヨタ「ハリアー」に似てる、なんて声もあったけれど、よくよく考えてみれば、CX-5もハリアーもヴェゼルより2クラス上のミッドサイズSUV。ヴェゼルはセグメントで見れば格下なのに、CX-5やハリアーに似た雰囲気があるというのは、ある意味、ほめ言葉と捉えてもいいだろう。
それくらい、全長4330mmのコンパクトSUVとは思えないほど新型ヴェゼルは見栄えがいい。一般的に、コンパクトカーは全長が短く、そのサイズ的な制約から前後方向が詰まったデザインとなりがちで伸びやかさに欠ける。しかし、新型ヴェゼルのルックスからは、そうしたネガが感じられない。新型は、全長が先代モデルの後期型と同じであるにもかかわらず、コンパクトSUV特有の“寸詰まり感”が否めない先代に対し、上級クラスにひけを取らないほど車体が立派に見える。コレは、デザインの力にほかならず、新型のデザイナーは本当にいい仕事をしたと思う。
新型のルックスが伸びやかに見える大きな理由として、ふたつの要因が挙げられる。ひとつ目は、ボンネットが長く、直線的になったことだ。新型のボンネットは、先端部が先代より前方に位置し、結果的に車体を大きく見せている。
もうひとつの要因は、リアピラーとリアウインドウの処理だ。いずれも大きく寝かされていて、流行りのクーペSUVスタイルを実現。さらに、サイドから見た時の水平基調のフォルムにより、スッキリとした雰囲気や優雅さもプラスしている。
このように、曲線と曲面で躍動感を表現していた先代と比べ、新型は大胆に変身。スタイリングにおいては、先代の面影など一切見当たらない。
■室内の広さはコンパクトSUVのトップクラス
そんなヴェゼルは、今回登場した新型で2世代目となる。2013年にデビューした初代は、日本では2014年、2015年、2016年とデビューから3年連続、さらに2019年にも、最量販SUVの座に輝いている。同時にヴェゼルはホンダにとっての世界戦略車でもあり、2019年にはグローバルで62万1322台を販売。車名別販売ランキングでは世界14位と、海外でも人気を博している。結果、デビュー以来の累計生産台数は、なんと約400万台を突破。ホンダにとって「CR-V」や「アコード」に次ぐ販売規模を誇る、重要モデルとなっている。
先代も新型も、ヴェゼルは「フィット」とプラットフォームの基本構造を共有しているため、しばしば“フィットベースのSUV”といわれる。しかし実は、販売台数はヴェゼル(中国など一部地域を除き、海外名は「HR-V」)の方がフィットより多く、“フィットがベース”というよりも、むしろ“ヴェゼル用のプラットフォームをフィットも使う”という表現の方が正しいくらいだ。
このように、大ヒットを記録した先代ヴェゼルだが、その最大の要因として挙げられるのが実用性の高さだ。リアシート空間、ラゲッジスペースともにクラス最大という巧みなパッケージングが、「ボディサイズは小さいのに実用的」と人々から高く評価されたのである。
当然ながら、そのアドバンテージは新型にも受け継がれている。例えばリアシートの足下は、前後空間が先代比で35mm拡大するなど、引き続きクラス最大のスペースを確保。流行りのクーペSUVスタイルになったことで、「頭上空間が狭くなったのでは?」と危惧していたが、実際に座ってみると、ライバルの1台である日産「キックス」にこそ及ばないものの、狭さや閉塞感は全く感じられない。
一方ラゲッジスペースは、先代に比べるとわずかに狭くなっている。新型の荷室容量は公表されていないが、フロアの奥行きは筆者の計測で30mmほど短くなり、リアウインドウが寝かされた分、荷室上部のスペースも狭くなっている。そのため容量的には、このクラスのリーダーであるキックスのそれを超えてはいないが、リアシートの背もたれを倒すことなく機内持ち込みサイズのスーツケースを4個積み込めるなど、普段使いには十分なスペースが確保されている。
さらにリアシートの背もたれを倒せば、それに連動してリアシートの座面が沈み込んでフラットな荷室が得られるし、リアシートの座面は上に跳ね上げることができるため、観葉植物など背の高い荷物も積載できる。こうした使い勝手の良さも、初代譲りの美点だ。
その原動力となっているのが、ガソリンタンクをフロントシート下に配置することで、リアシートやラゲッジスペースのフロア部の低床化を実現した“センタータンクレイアウト”。フィットを始めとするホンダの小型車に共通するこの優れた設計により、デザイン重視の新型ヴェゼルでも、車内の狭さや使い勝手の悪さを感じることはない。
■ハイブリッド/ガソリンエンジンともに心臓部を刷新
新型ヴェゼルのパワートレーンは、ハイブリッドとガソリンエンジン車の2タイプがラインナップされる。
ハイブリッド仕様は、先代のそれとはシステムを刷新。日常領域ではエンジンを発電機として使い、エンジンで起こした電気でモーターを回して駆動する一方、エンジンで駆動した方が効率に優れる高速巡航領域では、エンジンの動力を直接タイヤへと伝える。ホンダが“e:HEV(イー エイチ イー ブイ)”と呼ぶこのハイブリッド機構は、モーター駆動ならではの走りの滑らかさが特徴。新型ヴェゼルのそれは基本的に現行フィットと同じメカを採用するが、バッテリー容量を増やしてモーターの出力を高めるなど、車重の重いSUVに合わせて最適化している。なおハイブリッド仕様は「e:HEV X」、「e:HEV Z」、「e:HEV PLaY(プレイ)」の3グレードが用意される。
一方、「G」グレードにのみ搭載されるガソリンエンジンは、驚くことに新開発されたもの。排気量はフィットのそれより200cc大きい1.5リッターで、このクラスのガソリンエンジンは3気筒が主流となる中、振動や音質に優れる4気筒を採用しているのが注目のポイントだ。
なお駆動方式は、一部グレードを除き、ハイブリッド、ガソリンエンジン車ともに前輪駆動と4WDから選択できる。後者の場合、リアタイヤの駆動力を生むのはモーターではなく、ドライブシャフトを介して機械的にパワーユニットの動力が伝えられる。あえて機械式を採用した理由について、ホンダのエンジニアは「車速が上がった際、ライバル車に対してより多くの駆動力をリアタイヤへと配分でき、走りが安定するため」と説明する。
■新型ヴェゼルはホンダの負のジンクスを打破!
新型ヴェゼルは最新モデルだけあって、ホンダ初採用となる最新ガジェットが多数採用されているのが興味深い。
例えば上級グレードに電動開閉式が設定されるリアゲートは、足のアクションで開閉可能なハンズフリーアクセス機能に加え、予約ボタンを押してクルマから離れると、ゲートが自動で閉じてロックまでしてくれる“予約クローズ”機能も装備。また、e:HEV PLaYに標準装備されるガラスルーフは、紫外線や赤外線を10%以下までカットするのはもちろん、従来のシェードを閉じた状態と同等レベルまで日照透過率(25%以下)を抑えてくれる。
さらに前席のエアコン吹き出し口には、乗員に調節、風が当たらない快適なモード“そよ風アウトレット”を備えるほか、独立したスイッチを持たず、タッチ操作でオン/オフ可能なダウンライトのような後席ルームランプなど、スマートで気の利いた装備が盛りだくさんだ。
また、ホンダ車初採用ではないものの、スマホの遠隔操作で乗車前からエアコンを作動させ、車内を快適温度にしておける機能や、スマホをキー代わりにドアロックの解除やエンジン始動(システム起動)を行える“デジタルキー”の機能も設定。加えて、車載通信機を利用したコネクテッドサービスには、通信容量を1GBずつ購入し、車内Wi-Fiを使える仕組みまで組み込まれている。コンパクトSUVでありながら、新型ヴェゼルには先進技術が惜しみなく投入されているのだ。
そんな新型ヴェゼルは、発売から約1カ月で3万台を超える受注を獲得するなど、抜群のスタートダッシュを見せている。多くのグレードが「納車まで半年待ち」といった状態で、仕様によっては「納車は1年先」という状況、まさにホンダの想定を上回る大ヒットといってもいいだろう。
ホンダ車に関しては、一部で「独創的で大ヒットを記録したモデルも、次の世代ではヒットしない」というジンクスがささやかれている。しかし新型ヴェゼルに限っては、それは当てはまりそうにない。
<SPECIFICATIONS>
☆e:HEV PLaY
ボディサイズ:L4330×W1790×H1590mm
車重:1400kg
駆動方式:FWD
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC+モーター
エンジン最高出力:106馬力/6000〜6400回転
エンジン最大トルク:13.0kgf-m/4500〜5000回転
モーター最高出力:131馬力/4000〜8000回転
モーター最大トルク:25.8kgf-m/0〜3500回転
価格:329万8900円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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