■交差点を曲がるだけで感じられる走りの良さ
初のフルモデルチェンジで2代目へと進化したホンダのヴェゼルは、ヨーロッパ市場を中心に売れ筋となっているコンパクトクロスオーバーSUVのド直球。ライバル車は、ヒットモデルのトヨタ「ヤリスクロス」や、ハイブリッドオンリーのラインナップとなる日産「キックス」、そして、セグメント的にはひとクラス上だが、ボディサイズが近いマツダ「CX-30」などだろう。
そんな新型ヴェゼルに乗って驚いたのは、期待をはるかに超える“運転のしやすさ”だった。SUVは背が高いため、セダンやハッチバックに比べると重心位置も高くなり、その分、運動性能でどうしても不利になる。具体的にいえば、コーナリング時の車体のぐらつきが増え、挙動が不安定になりがちなのだ。それを抑えるために、サスペンションを硬めのセッティングとするなど、対策を行っているモデルも多いが、そうなると今度は乗り心地も悪くなる。
しかし新型ヴェゼルは、そうした挙動のチューニングが素晴らしい。ビシッと安定してふらつかず、真っ直ぐ走ってくれるのはもちろん、コーナリング時の安定性にも優れる。
ハンドルを切ると、反応の遅れや過剰なレスポンスなどなく、素直に反応して向きを変え、自然なロールを伴って曲がり始める。コーナリング時の姿勢はハンドルの微修正などせずとも安定し、ねらった通りの軌跡を描いて旋回。そして、グラッとした揺り返しもなく、スムーズに直進へと戻っていく。背の高さなど感じさせない一連のシームレスな動きには、とても感心させられた。
新型ヴェゼルの走りは、シャープに切り込んでいくとか、異様にコーナリング性能が高いといった、分かりやすい特徴を備えているわけではないけれど、自然で、素直で、そして安定感にあふれ、ドライバーに不安を感じさせない。しかも、峠道を駆け抜ける時だけでなく、交差点をゆっくり曲がるだけでもその良さを感じ取れる。“美味しい白米”のように地味ではあるが、ドライバーに対して走りの完成度の高さをしっかりと伝えてくる。
■エンジニアが心掛けたのは「足を滑らかに動かすこと」
試乗コースを高速道路に移して速度レンジを高めても、好印象は変わらない。安定感の高さは、ひとクラス上のクルマに乗っているかのようだ。新型ヴェゼルが属すコンパクトSUVのカテゴリーでは、昨今、いずれのモデルも走行性能の向上が著しいが、新型ヴェゼルもしっかりとそのレールに乗っている。
そうした走りの好印象は、どこから生まれてくるものだろう? プラットフォーム自体は先代から受け継いだものであり、現行の「フィット」と共通。しかしその中身は、大幅に改良されている。先代に比べ、ボディのねじり剛性を約15%アップさせたほか、サスペンションをスムーズに動かすべく、サスペンション取付部のボディ剛性も約15%アップさせている。
これらにより、路面からの入力に対する耐性が上がり、ハンドリング性能やその際の挙動が良くなるのは当然といえば当然なのだが、新型ヴェゼルで特筆すべきは、乗り心地についても大幅に良化していることだ。例えば、先代フィットなど従来のホンダ車は、「ハンドリング性能は素晴らしいけれど、路面の凹凸を通過する際の突き上げがひどくて乗り心地が悪い」という評価が多かった。それらと比べ、新型ヴェゼルは明らかに何かが違うのだ。
そうした筆者の疑問をシャーシ開発者にぶつけたところ、「足(サスペンション)の動かし方に対する考えを変えたのです」という答えが返ってきた。新型ヴェゼルでは足回りのフリクションを減らし、とにかく滑らかに足を動かすよう心掛けたというのである。
その狙いを達成すべく、フロントサスペンションには、スプリングが伸び縮みする際にサスペンションに掛かる応力を打ち消し、ショックアブソーバーの動きをスムーズにする“応力キャンセルスプリング”を採用。加えて、ボールジョイントやブッシュ類のフリクションも軽減している。
対してリアサスペンションは、ショックアブソーバーのストロークを拡大したのに加え、トレーリングアームと車体との結合部に使う“コンプライアンスブッシュ”に新しいアイデアを盛り込んだ。ブッシュの素材であるゴム自体は柔らかい特性としながらも、ブッシュ設置部の周囲に、ブッシュの動きを抑制する“フランジ”と呼ばれる “金属の壁”を設けることで、ブッシュ自体が横方向にねじれたり動いたりするのを抑制。この設計により、リアサスペンションの横剛性を約25%アップさせてハンドリングをしっかりさせつつ、前後の剛性は約25%ダウンさせることで、良好な乗り心地も両立したのである。
ちなみにハイブリッド仕様は、前輪駆動と4WDとでサスペンションの味つけを若干買えていて、前者は足をしっかり動かしながらもスポーティ感を演出、一方の後者は、乗り心地をより重視したセッティングとなっている。
■ハイブリッドは最新世代に、4WDは舗装路性能も追求
新型ヴェゼルには、ハイブリッド仕様とガソリンエンジン車、2通りのパワートレーンが用意されるが、ハイブリッドは“e:HEV(イー エイチ イー ブイ)”と呼ばれるホンダの最新タイプに置き換えられた。
e:HEVは効率を重視したハイブリッドシステムで、日常領域においてはエンジンを発電機として使い、エンジンで起こした電気でモーターを回して駆動する。一方、モーターが苦手とする高速領域(約60km/h以上)になると、エンジンを機械的につなぎ、そのままタイヤを駆動する。
日常領域はほぼモーターだけで駆動するため、走行フィールはEV(電気自動車)と同等。静かで滑らかな乗り味はガソリンエンジン車とは明確に異なり、先進性さえも感じさせる。また、現行フィットのそれに比べると、新型ヴェゼルではバッテリー容量が2割ほど増し、その分、モーター出力も109馬力から131馬力へとアップ。SUV化による重量増に合わせ、心臓部も強化されている。
そんなe:HEVはドライバビリティも良好だが、日産自動車の“e-POWER(イー・パワー)”に比べると、アクセルペダルを深く踏み込んだ時のシャープさや盛り上がりは少々控えめ。これについては「快適性を求めた味つけ」といえなくもないが、例えば、走行モードを「SPORT」にした際は、もっとドライバーの気持ちを高ぶらせる爽快感が得られるとうれしい。ちなみに、アクセルペダルを深く踏み込んだ際の加速感と、エンジン音の高まりとの間に若干の乖離がある点は、もう少しチューニングして欲しい部分だ。
ちなみに4WDは、SUVであってもリアタイヤをモーターのみで駆動するモデルが増える中、新型ヴェゼルはプロペラシャフトを介し、パワーユニットの駆動力を後輪へと伝達する機会式にこだわった。コレは、速度が高まってもリアタイヤの駆動力をより多く確保するためで、新型ヴェゼルでは後輪へトルクを送る際の応答性を高めているほか、伝達されるトルク自体もアップしている。
またコーナリング時は、後輪へも駆動トルクを適度に配分。ドライバーのハンドル操作に応じ、フロントタイヤに軽くブレーキを掛けることでクルマの動きを滑らかにしてくれる“アジャイルハンドリングアシスト”機能との相乗効果で、安定感ある旋回をサポートしてくれる。
新型ヴェゼルで4WDを選ぶ人は、主に、雪道でのトラクションや走行安定性を求めての選択だろう。しかし新型の4WDは、雪道はもちろんのこと、舗装路における走りも期待できるのだ。
<SPECIFICATIONS>
☆e:HEV PLaY
ボディサイズ:L4330×W1790×H1590mm
車重:1400kg
駆動方式:FWD
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC+モーター
エンジン最高出力:106馬力/6000〜6400回転
エンジン最大トルク:13.0kgf-m/4500〜5000回転
モーター最高出力:131馬力/4000〜8000回転
モーター最大トルク:25.8kgf-m/0〜3500回転
価格:329万8900円
<SPECIFICATIONS>
☆e:HEV Z(FF)
ボディサイズ:L4330×W1790×H1590mm
車重:1380kg
駆動方式:FWD
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC+モーター
エンジン最高出力:106馬力/6000〜6400回転
エンジン最大トルク:13.0kgf-m/4500〜5000回転
モーター最高出力:131馬力/4000〜8000回転
モーター最大トルク:25.8kgf-m/0〜3500回転
価格:289万8500円
<SPECIFICATIONS>
☆e:HEV Z(4WD)
ボディサイズ:L4330×W1790×H1590mm
車重:1450kg
駆動方式:4WD
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC+モーター
エンジン最高出力:106馬力/6000〜6400回転
エンジン最大トルク:13.0kgf-m/4500〜5000回転
モーター最高出力:131馬力/4000〜8000回転
モーター最大トルク:25.8kgf-m/0〜3500回転
価格:311万8500円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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