■日産自動車は電動式4WDのパイオニアだった
世界のマーケットを見渡してみても、日本ほど4WD車比率の高い市場はない。その理由は、日本の国土の半分近くを占める降雪地域にある。
雪道を走ったことのない人はイメージしにくいかもしれないが、滑りやすい場所で運転してみれば4WD車のメリットがすぐ分かる。中でも2WD車との違いを明確に感じられるのが発進時だ。前輪、もしくは後輪のいずれかだけで駆動力を路面へと伝える2WD車はタイヤが空転しやすいが、前後計4本のタイヤで駆動力を伝える4WD車だと滑りにくいのだ。
さらに、4WDのありがたみを最も実感できるのは凍結した路面での坂道発進だ。特に、坂の途中にある交差点や一時停止からの発進時は最悪で、上り坂はただでさえ空転しやすいのに加え、多くのクルマのタイヤが空転して磨かれるから路面はツルツル。最新のスタッドレスタイヤは高性能とはいえ、2WD車では発進できなくなることも。そんな状況でも4WD車なら涼しい顔で発進できるのだから心強い。
そんな4WD車にもいろいろな機構がある。最近増えているのは“電動式”と呼ばれるタイプで、4本すべてのタイヤ、もしくは主駆動輪ではない方のタイヤ(前輪駆動ベースの4WD車なら後輪)をモーターで動かす。滑りやすい路面における発進時などは、前後輪がプロペラシャフトを介して機械的につながる一般的な4WDと変わらない性能を発揮する一方、2WD車に対して重量増が少ない、機械抵抗によるパワーロスが少ない、燃費がいいなどのメリットを持つ。
こうしたメリットにより採用例が増えている電動式4WDだが、そのパイオニアは日産自動車がかつて導入した“e-4WD”だ。後輪をモーターで駆動する4WD車を2002年に「マーチ」へ初搭載。その後、「キューブ」や「ノート」といった日産のコンパクトカーに展開されたほか、マツダにも技術供与され、「デミオ」や「ベリーサ」などにも搭載された。
そして、時は流れて2020年。フルモデルチェンジによって新しいノートが誕生した。新型のパワートレーンは“e-POWER”と呼ばれるハイブリッド1本で、ガソリンエンジンで起こした電気でタイヤを駆動する。中でも後から追加された4WDモデルは、4本のタイヤすべてをモーターで駆動する仕組み。前後が機械式につながっていない電動式4WDは、コンパクトカークラスでは珍しい存在だ。
■幅広い走行領域で車体の動きが格段に安定
先代のノートe-POWERも、4WD車は後輪をモーターで駆動するタイプだったが、新型ノートのそれはシステムが刷新され、大幅なバージョンアップを果たしている。その進化のポイントはふたつある。
ひとつ目はモーターのパワーアップだ。先代は4.8馬力/1.5kgf-mだったリアモーターが、新型では68馬力/10.2kgf-mまでアップ。モーター単体の最高出力は、約14倍も力強くなっているのだ。
そして、ふたつ目の進化は走行領域の拡大だ。先代のリアモーターは上限速度が約30km/hで、それを超えるとモーターへの電力供給がカットされ、実質的に前輪駆動車となっていた。それでも、滑りやすい路面における最大の難関である発進を十分フォローしてくれたのだが、新型のそれは全車速域で駆動力を発生するようになっている。これにより、滑らかで力強い発進はもちろんのこと、4本のタイヤで駆動力を分担するコーナリングや、電気的な制御による減速といった多彩な領域まで運転をサポートしてくれる。
加えて、モーター駆動ならではの制御の緻密さにも注目したい。e-POWERはモーター駆動の特性を活かして駆動力を緻密にコントロールできるため、前輪駆動車でも滑りやすい路面での加速時にタイヤが空転しにくいが、4WDでは後輪まで制御することで、さらに走りが滑らかになっているという。
実際、前輪駆動モデルと乗り比べてみると、加速、コーナリング、そして減速と、幅広い走行領域で車体の動きが格段に安定し、挙動が落ち着いていることが分かる。特に減速時は、モーターが発電機となって回生ブレーキと呼ばれる減速力を発生させるため車体が前のめりになりにくく、常に安定した姿勢でブレーキングできるのが印象的だ。
また、走行安定性に優れるのはもちろんのこと、アクセルペダルのコントロール次第でコーナーを自在に駆け抜けていけるから、ドライビングが楽しく感じられる。
何より、こうしたメリットを雪道以外の舗装路でも体感できるのは魅力的だ。新型ノートe-POWERの4WDは、路面の滑りやすさや走行モードの設定、そして、運転操作からドライバーの意図を汲み取るなど、さまざまなデータを収集・分析し、コーナリング時の前後輪への駆動力を緻密にコントロール。結果、前輪駆動モデルより力強く安定したコーナリングを実現しているのに加え、コーナーの外側へクルマがはみ出してしまう現象も緩和している。
日産自動車はかつて、電子制御によってコーナリングの楽しさと安定性を高次元で両立した“アテーサE-TS”という4WDシステムで世のクルマ好きを驚かせたが、舗装路での安定性と楽しさを引き出す新型ノートの電動式4WDも、そのDNAを継承していると思った。
■ワンランク上の走りと安全性のために4WDを選ぶ時代
走りにおいてはいいこと尽くめの新型ノートの電動式4WDだが、人によっては気になるであろうウイークポイントも存在する。それはラゲッジスペースだ。
4WD車のラゲッジスペースは、前輪駆動モデルの340Lに対して260Lと容量が小さくなっている。これは荷室フロアの下にリアモーターを始めとする駆動ユニットが収まるためだが、購入を検討する人は前輪駆動モデルとの違いを確認しておいた方がいいだろう。
とはいえ、気になる点はこの程度。逆に、前輪駆動車ベースの4WD車では、一般的に後輪へと駆動力を伝えるプロペラシャフトを通すためにリアシート足下のセンタートンネルが大きくなるが、後輪をモーターで駆動するノートe-POWERの4WDは前輪駆動モデルと同じであり、リアシートの居住性に悪影響を与えていない。また前席回りの居住性や快適装備類も前輪駆動車と同等だ。
雪道を走らない人にとって、4WD車は無用の存在と思うかもしれない。しかし、舗装路においても走りの実力アップを体感できる新型ノートのそれは、一般ユーザーにとってもメリットが大きい。運転する気持ち良さを味わえるだけでなく、滑りやすい雨の日や緊急回避時などでの安全性向上にもつながる。ワンランク上の走りと安全性のために4WDを選ぶという手も十分ありではないだろうか。
<SPECIFICATIONS>
☆X FOUR
ボディサイズ:L4045×W1695×H1520mm
車重:1340kg
駆動方式:4WD
エンジン:1198cc 直列3気筒 DOHC
エンジン最高出力:82馬力/6000回転
エンジン最大トルク:10.5kgf-m/4800回転
フロントモーター最高出力:116馬力/2900〜1万341回転
フロントモーター最大トルク:28.6kgf-m/0〜2900回転
リアモーター最高出力:68馬力/4775〜1万24回転
リアモーター最大トルク:10.2kgf-m/0〜4775回転
価格:244万5300円
>>日産「ノート」
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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