後席を外せば車中泊やキャンプにも!メルセデス「Vクラス」は遊べる上に見栄えもいい

■トヨタ車に例えるなら“「ハイエース」の豪華仕様”

メルセデスのVクラスが日本に初めて上陸したのは1998年のことだ。2003年には2代目へと進化し、さらに2014年、フルモデルチェンジを受けて現行の3代目が登場。日本市場では2016年より販売されている。

2代目モデルまで日本市場向けはガソリン車のみの設定だったが、現行モデルはディーゼルエンジン車がメイン。特別仕様車や限定車としてガソリンエンジン車(2リッター4気筒ターボ)が販売されたこともあるが、カタログモデルはすべてディーゼル仕様となっている。

そんなVクラスで驚かされるのは車体のラインナップだ。最も短いタイプは全長4905mmだが、5150mmの「ロング」、そして5380mmの「エクストラロング」と3種類の長さを選べる。こんな乗用車はなかなかお目にかかれない。Vクラスのベースはメルセデスの商用車部門が開発したバンであり、トヨタ車に例えるなら“「ハイエース」の豪華仕様”とも呼べる存在だ。ハイエースがそうであるように、ヨーロッパでも商用バンはニーズに合わせて複数のボディを用意するのが一般的。そのメリットが、ボディ全長の選択肢の多さに表れている。

ちなみに全幅は全モデル共通の1930mm。標準タイプのボディが日本を代表する大型ミニバンであるトヨタ「アルファード」と同じくらいと考えれば、その大きさをイメージしやすいだろう。商用バンのパッケージングで最も重視されるのは室内の広さゆえに、Vクラスの車体もフロントドア以降が箱のように四角い形状となっている。一方、顔つきはイマドキのメルセデスのデザイン手法を踏襲したもので、高級感があって見るからに立派。「メルセデスのミニバンが欲しい」という人をもしっかり満足させてくれる。

■重量級を何の問題もなく走らせる力強い心臓部

室内に目を転じると、2列目/3列目シートを多彩にアレンジできるのが面白い。フロアにレールが埋め込んであり、2列目/3列目シートはそれに沿って自由に前後スライドさせられる。さらにシートを取り外したり、前後向きを入れ替えて取り付けたりできるなど、国産ミニバンとは全く異なる発想で作られている。

そのためその気になれば、2列目/3列目シートを外し、床面が完全にフラットな広い荷室をキャンプや車中泊といったレジャー、また、荷物の運搬に使うなんてことも可能なのだ。

ただし、各シートは大きい上に作りが頑丈で重く、ひとりで脱着作業を行うのはかなり大変。その分、取り付けた際のシートのガッシリ感はかなりのもので、加えて、2列目/3列目のシートは全席にシートベルトが内蔵されるタイプだから、どんなアレンジを行っても適正にベルトを締められるのはさすがである。

現行の日本仕様に搭載されるエンジンは排気量2.2リッターのディーゼルターボで、最高出力163馬力、最大トルクは38.7kgf-mを発生。全長が最も短いタイプでも2.3トン、エクストラロングでは2.5トンを超える重量級だけに、ちょっと役不足かと思いきや、何の問題もなく滑らかに走らせてしまう力持ちだ。

自然吸気ガソリンエンジンの4リッターV8エンジンに匹敵する厚いトルクをわずか1400回転から発生するディーゼルエンジンの特性と、重いミニバンとの相性の良さを実感させてくれる。

そんなVクラスのライバルは、トヨタのアルファードや、そのレクサス版として海外市場で展開されているレクサス「LM」といったところ。それらの共通点は、VIPが2列目シートに乗って移動するためのミニバン、というものである。日本ではファミリーで使うクルマという位置づけのミニバンだが、海外市場ではポジショニングが結構異なっているのである。

特にアジア地域では、専属のドライバーが運転を担当し、オーナーはリアシートでゆったりくつろぐといった具合に、個人所有車でも上級セダンのようなショーファーリムジン的に使われることも多い。しかも昨今は、そうした需要が急上昇中なのだ。かつては、そうしたニーズに対応するのはセダンの役目だったが、最近は「室内が広い方が快適に過ごせる」とミニバンを使う人が増えているのである。特に都市部の渋滞がひどく、平均移動速度が低い中国や東南アジアの大都市ではそうした使われ方が顕著で、それら地域ではこうした大きくて豪華なミニバンが人気となっているのだ。

■前期型に対してしっとり感が増した乗り味

2019年秋に本国でマイナーチェンジを受けたVクラス。最も分かりやすい変更点は、よりスポーティになったフロントマスクだろう。試乗車のように“AMGライン”と呼ばれるスポーティでラグジュアリーな顔つきを選ぶことも可能だ。

一方で新型は、インテリアも変更を受けている。中でも注目は「エクスクルーシブシートパッケージ」が用意されたこと。これを選ぶと、2列目席が固定式のアームレストや大型オットマンが組み込まれた、ビジネスクラスの旅客機のような立派なシートとなる。

しかも見た目に豪華なだけでなく、リクライニングやスライドといった各種調整機能が電動化。その上、シートヒーターやベンチレーション(送風機能)、さらにはマッサージ機能まで備える極楽仕様で、一度座ると降りたくなくなるような居心地の良さである。快適装備はメルセデスの旗艦セダンである「Sクラス」級の充実ぶりといえるだろう。

そんな最新型Vクラスでぜひともチェックしておきたかったのは、実は乗り心地だった。商用バンをベースとするためか、前期モデルはアルファードなどに比べて荒々しさが抜け切れていなかったが、マイナーチェンジ後の後期型は「かなり向上した」というウワサを耳にしていたからだ。快適性において先行するアルファードをライバル視して「メルセデスが気合いを入れたらしい」という情報さえ伝わってきたほどである。

結論からいうと、最新型Vクラスの乗り味は前期型に比べてしっとり感が増していた。荒れた路面を走る時や段差を超えた時に乗員が感じる衝撃がマイルドになり、コレなら自信を持ってオススメできるというレベルにまでは達している。

その一方で、惜しくもアルファードには届かず、というのが正直な印象。そこには、基本設計の段階から純粋な乗用車をベースに乗り心地を重視しているアルファードに対し、Vクラスは商用バンとして重い荷物を積み込むことまで考慮しているという車体設計の根本的な違いがある。アルファードに比べるとフロアが高く、乗降性に影響している点も含め、Vクラスは理想とする乗用車像がフツーのミニバンとは少し異なるようである。

そんな違いはあるにせよ、最新型Vクラスのルックスはステイタスを感じさせ、風格があって堂々としているのは間違いない。そこに魅力を感じ、アルファードではなくVクラスを選ぶという気持ちもよく分かる。そんな選択も大いにアリだろう。「ミニバンが欲しいけれど日本車じゃなくて輸入車がいい。しかも見栄えが良くて豪華なモデルが理想」となれば、選ぶべきは最新型Vクラスをおいてほかにない。最新型Vクラスは、求める条件次第で唯一無二の選択となり得るミニバンなのだ。

<SPECIFICATIONS>
☆V220d アヴァンギャルド ロング(AMGライン装着車)
ボディサイズ:L5155×W1930×H1930mm
車重:2480kg(エクスクルーシブシート装着車)
駆動方式:RWD
エンジン:2142cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:7AT
エンジン最高出力:163馬力/3800回転
エンジン最大トルク:38.7kgf-m/1400〜2400回転
価格:814万円

>>メルセデス・ベンツ「Vクラス」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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