■全長は30mm長くなったが全幅は10mmスリム化
多くのメディアが「ゴルフはコンパクトハッチバックのお手本」と書き、自動車メーカーの開発者は新型車に関して「ゴルフをベンチマークとして開発し、ある領域ではゴルフを超えた部分もあります」と解説する。自動車業界におけるゴルフの存在は、それくらい大きい。
コンパクトハッチバックの先駆者であり、累計3500万台以上のセールスを記録しているゴルフは、まさに同クラスの“基準”だ。「大人ふたりと子ども3人の家族が実用的に使え、ドイツのアウトバーンを高速で安全・快適に移動できるシンプルで扱いやすいクルマ」というテーマを掲げた初代ゴルフが誕生したのは1974年のこと。初代のボディサイズは全長3725mm、全幅1610mmだから、最新モデルであるトヨタ「ヤリス」よりふた回り近くコンパクト。今にして思えばその小ささに驚かされる。
初代誕生から50年弱の時が流れ、7度のモデルチェンジを経て誕生した新型は、8世代目のゴルフとなる。そのボディサイズは全長4295mm、全幅1790mm、ホイールベース2620mmで、全長は先代比でプラス30mm、全幅は同マイナス10mm、同じくホイールベースも同マイナス15mmとなっている。
新型ゴルフのライバルは、日本車でいえばトヨタ「カローラ スポーツ」、先頃、新型が公開されたホンダ「シビック」、「マツダ3」、スバル「インプレッサ スポーツ」といったところ。それらは“Cセグメントハッチバック”と呼ばれるカテゴリーに属すが、一部の人からは“ゴルフクラス”とも呼ばれている。それくらいゴルフは、クラスをけん引するリーダーであると同時に、メートル原器のように存在なのだ。
先頃、待望の日本上陸を果たした新型ゴルフの進化ポイントは、主に3つ。ひとつは“コックピットのデジタル化”、ふたつめは“パワートレーンの電動化”、そして最後が“運転支援システムの進化”である。
■最初は操作に戸惑うデジタル化されたコックピット
新型ゴルフの運転席に座った瞬間、多くの人は変化の大きさに驚くことだろう。コックピットのデザインやレイアウトが新しさに満ちあふれているからだ。
イマドキのクルマはメーターにフル液晶パネルを採用するモデルが増えているが、新型ゴルフも例に漏れず、全グレードに10.25インチの液晶メーターパネルを採用している。さらに、コックピット中央にあるナビゲーションの地図などを映し出すタッチパネル式ディスプレイは、10インチとかなり大型だ。
このふたつの大画面ディスプレイだけでも先進性を感じるが、実はそれ以上に驚かされるのがスイッチ類の少なさ。従来型のクルマで多く見られたコックピット中央部のスイッチがかなり絞り込まれていて、「まさか、付け忘れたのか?」と心配になるほどシンプルですっきりしている。
中でも驚いたのは、これまであって当然だったエアコン関係のスイッチがごっそり見当たらないこと。何を隠そう新型ゴルフは、エアコン関係のメイン操作をセンターディスプレイで行うようにしたのだ。ただしよく見ると、センターディスプレイの下にタッチ式スイッチが組み込まれていて、ここを指でスライドさせるなどで、タッチパネルで操作せずともエアコンの温度設定を変更できるようにしている。
それ以外の操作は、画面内に現れるスイッチをタッチして行うが、「曇りのない視界」「足元を暖める」といった分かりやすいメニューも用意され、クルマに詳しくない人でも目的に応じて切り替えられるのが新しい。
一方、コックピットの右端にあるライト類のスイッチも、物理スイッチではなくタッチパネル式になっているのが新しい。ちなみに、センターコンソールにあるトランスミッションのセレクトレバーは電子式でコンパクト。これも輸入車としては新鮮といえるだろう。
とはいえ、コックピットの操作系が革命的なまでに変更されただけに、従来と同様に扱えるかといえば答えはノーだ。そのため新型ゴルフに触れた人の多くは、最初はきっと戸惑うはず。とはいえ愛車にして長く使っていくうちに、きっと慣れることだろう。
■1リッター、1.5リッターともにマイルドハイブリッド化
新型ゴルフのパワートレーンには、1リッターの3気筒ターボと1.5リッターの4気筒ターボというふたつのガソリンエンジンが用意される。
エントリーグレードの「アクティブ ベーシック」と「アクティブ」に組み合わされる前者は、最高出力110馬力/最大トルク20.4kgf-mを、上級グレードの「スタイル」やスポーティグレードの「Rライン」に搭載される後者は、最高出力150馬力/最大トルク25.5kgf-mを発生する。
トランスミッションは両エンジンとも“DSG”と呼ばれる7速のデュアルクラッチ式で、ATと同様にイージードライブを楽しめる一方、高効率でアクセル操作に対するリニアな加速がMT車のようで小気味いい。
そんなパワートレーンで新しいのが、プラグインハイブリッド仕様でないスタンダードなエンジンまでが電動化されたこと。とはいえ、日本車のようにモーターで走る感覚が強い“ストロングハイブリッド”ではなく、バッテリーやモーターといった全システムを48Vという高電圧で作動させるマイルドハイブリッドを採用している。モーター出力は13馬力と、日本車のストロングハイブリッド仕様に比べて10分の1程度であり、モーターで走行するのではなく、あくまでエンジンの効率向上をサポートする黒子のような存在だ。
そのため、モーター駆動車ならではの静かで滑らかな走行フィールは感じられず、燃費向上の割合も最大で10%ほどと大きくない。しかし、システムがシンプルなため価格上昇を抑えられること、それでいて、ある程度の燃費向上を目指せることが48Vハイブリッドのユーザーメリットといえる。
■先進の運転支援システムはセンサー類がしっかり検知
最新モデルだけあって、新型ゴルフには、高速道路でドライバーがアクセルやブレーキを操作しなくても前走車などに合わせて自動で速度を調整してくれるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)や、車線の中央部を維持しながら走れるようハンドル操作をサポートするレーンキープアシストシステムといった運転支援システムが組み込まれている。
これらの機能はいまや多くのクルマに採用が広がっているが、新型ゴルフのスゴいところは、渋滞中の極低速域から(日本では法定速度外となる)上限210km/hという超高速領域まで対応すること。それだけシステムの検知能力や制御が進化しているのだ。
実際に使ってみたが、制御の綿密さというか、作動時の滑らかさやスムーズさはかなりのもの。また、システム起動中にはメーターパネルに隣の車線を走る車両の状況がグラフィカルに映し出されるが、単なる“車両”としてだけでなく、大型車両や乗用車、そしてオートバイなどが区別されて描かれる。これは、いかにセンサー類が周囲の状況をしっかり検知できているかの証拠だろう。この表示は見ているだけでも面白い。
ちなみに、同システムを使っても手放し運転はできないため、常にハンドルを握っておく必要がある。そのためドライバーがハンドルを握っているか否か検知するセンサーがハンドルに内蔵されるが、従来のトルク検知型から新型はタッチセンサー型へと変更されていて、しっかり正確に判断してくれるようになったのは地味だけどうれしい進化といえる。
ゴルフの存在の大きさを示す事実のひとつが、長きに渡ってヨーロッパで人気ナンバーワンの座をキープし続けていること。もちろん新型も、現地で販売が本格化した2020年に、年間を通じて欧州最量販モデルの座を獲得している。絶対に外せない人気モデルだけあって、VWの新型ゴルフにかける意気込みは相当なものがあったはずだが、それが結果に表れているといえるだろう。
ちなみに先頃、日本に上陸した新型ゴルフはスタンダードな5ドアハッチバックのみだが、高性能モデルの「GTI」やステーションワゴンの「ヴァリアント」も近いうちに追加される見込み。早ければ2021年内にも日本へ入ってきそうというから楽しみだ。
<SPECIFICATIONS>
☆eTSI アクティブ
ボディサイズ:L4295×W1790×H1475mm
車重:1310kg
駆動方式:FWD
エンジン:999cc 直列3気筒 DOHC ターボ+モーター
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
エンジン最高出力:110馬力/5500回転
エンジン最大トルク:20.4kgf-m/1500〜3500回転
モーター最高出力:13馬力
モーター最大トルク:6.3kgf-m
価格:312万5000円
<SPECIFICATIONS>
☆eTSI スタイル
ボディサイズ:L4295×W1790×H1475mm
車重:1360kg
駆動方式:FWD
エンジン:1497cc 直列4気筒 DOHC ターボ+モーター
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
エンジン最高出力:150馬力/5000〜6000回転
エンジン最大トルク:25.5kgf-m/1500〜3500回転
モーター最高出力:13馬力
モーター最大トルク:6.3kgf-m
価格:370万5000円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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