走りはかなり上出来!VW新型「ゴルフ」は新しさと伝統が融合した意欲作だ

■ゴルフのようなパッケージングじゃないと売れない

メルセデス・ベンツ「Aクラス」やBMW「1シリーズ」、ルノー「メガーヌ」といったヨーロッパ車や、トヨタ「カローラ スポーツ」、ホンダ「シビック」、「マツダ3」、スバル「インプレッサ スポーツ」といった日本車は、欧州でいう“Cセグメントハッチバック”にカテゴライズされるが、多くの人は同クラスのパイオニアでありスタンダードというべきVWのゴルフに敬意を表して“ゴルフクラス”と呼んでいる。

ゴルフはCセグメントハッチバックのカテゴリーを作り上げた先駆者であると同時に、長きにわたってヨーロッパ最量販モデルの座に輝いてきた。そのためライバルたちは「ゴルフに追いつけ、追い越せ」とばかりに、近年、気合いの入った競合車をゴルフに当ててくる。

その代表的モデルが、メルセデス・ベンツのAクラスやBMWの1シリーズ。いずれもデビュー当初は個性的なパッケージングを採用していたが、幾度かのフルモデルチェンジを経て登場した現行モデルは、両車ともゴルフに似たパッケージングを採用している。なぜならこのクラスは、中心的存在であるゴルフに近いパッケージングを持つクルマでなければ多くの販売台数を望めないということを、メルセデス・ベンツとBMWは気づいたからだろう。ゴルフというモデルはこれほどまでに偉大な存在なのだ。

■新鮮さを盛り込みながらもゴルフはやっぱりゴルフ

「見るからにゴルフだな…」。新型ゴルフと初めて対面して、そう思わずにはいられなかった。

ボディサイズは先代モデルに対して全長が30mm伸びた一方、全幅は10mmスリムになり、ホイールベースも15mm短くなった。だからプロポーションは若干変化しているはずなのだが、新型もゴルフらしく見えるのは、初代から受け継ぐ太いリアピラーなどの“お約束”が守られているからに違いない。

対して、フロントマスクは涙目のような形状のヘッドライトや、大きく口を開けているように見えるバンパーなどが新型であることを実感させる。また夜になると、フロントグリル上部が水平に光るというのも新しい演出もプラスされている。

光といえば、1.5リッター4気筒エンジン搭載モデルのウインカーは、光が内側から外側へ向かって走るシーケンシャルタイプとなり、これまでのゴルフを超える個性を身に着けている。

ちなみに新型の空気抵抗係数(Cd値と呼ばれ、値が小さいほど優れる)は、先代モデルの0.3に対し、新型は0.275へと向上。空気抵抗の低下で高速走行時の燃費が良くなり、風切り音が静かになるなど快適性向上につなげている。

インテリアも、新しさと伝統というふたつの側面からアプローチすると分かりやすい。まず新しさという視点から見ると、驚かされるのが運転環境のデジタル化だ。メーターパネルに10.25インチ、コックピット中央にタッチ操作式の10インチというふたつのディスプレイを組み込んだ上、スイッチ類を厳選して絞り込み、エアコン操作でさえメイン操作はセンターディスプレイ上で行うようにするなど、進化の度合いが著しい。電子化された小型のシフトレバーなどを含め、先進感を味わえるデザインだ。

一方、伝統を濃密に受け継いだのがリアシートの仕立てだ。フロアに対して着座位置が絶妙な高さにセットされていて、しっかりとした姿勢で座れる。ひと言でいえば居心地がいいのである。これらはVWの実用モデルに昔から受け継がれている美点であり、その点においては、従来のゴルフから新型へと乗り換える人も心配は無用だ。

それでいて、フロントシート背もたれの後ろ側に、後席の乗員がスマホなどを収納するのに適した小さなポケットを組み込むなど、時代が求めるニーズにもしっかりと対応。さらにエントリーグレードを除き、運転席と助手席、そして後席で独立して温度設定が行える“3ゾーンエアコン”を標準装備するなど、後席乗員の快適性も追求している。同クラスで3ゾーンエアコンを採用したモデルは極めて珍しく、ライバルよりも先を目指そうとする開発者のこだわりが感じられる。

■素直で滑らかなステアフィールは感動もの

新型ゴルフのプラットフォームは従来モデルの改良版で、VWで“MQB”と呼ばれるアーキテクチャーを採用する。

ただし、搭載エンジンによってはサスペンションが異なる。1リッター3気筒ターボ車は、フロントにスチール製サブフレームを組み合わせたストラット、リアにはトーションビームを採用。対して、1.5リッター4気筒ターボ車は、フロントがアルミ製のサブフレームを組み合わせたストラット、リアはマルチリンクへとアップグレードされる。

双方をドライブして感じたのは、走りがしなやかなことだ。ドイツ車=乗り味が硬いという図式は遠い過去のものであると改めて実感した。それくらい新型ゴルフは乗り心地がいい。

それ以上に感動したのが、ステアフィールの滑らかさだ。操作力が比較的軽めだから運転しやすく、ハンドルを切り始めた時のクルマの反応も素直。峠道を走ってみたところ、ハンドルの動きに従うようにクルマがスッと向きを変えて曲がり始め、コーナリング時の姿勢も安定しているから、旋回中のハンドル修正も最小限。コーナーを曲がり終える際の挙動も素直だ。コーナーが近づいてきて曲がり始める時から、コーナリング中、そして、曲がり終えて直線へと戻るまでのつながりが実にリズミカルで、走っていて気持ちがいい。

こうした好印象はサスペンションの違いに関係なく、1リッター、1.5リッターモデルともに共通する美点だが、ちょっとした違いを感じたのは、舗装の悪い路面における乗り心地。衝撃も路面の細かな凹凸もきれいに吸収してくれる1.5リッター仕様に対し、1リッター仕様は時折、コツコツと細かい振動が残るように感じた。とはいえこれは、あくまで両車を乗り比べた時の話であり、ウィークポイントといえるほどのものではない。

■元気よく走りたい人には1.5リッター車がオススメ

新型ゴルフは全グレードのエンジンにマイルドハイブリッド機構を組み合わせているが、そのフィーリングはどうだろう?

排気量の小さい1リッター車は、3気筒とは思えないほど振動がしっかり抑えられていて、3気筒ならではのネガは、ごくまれに軽自動車に似たエンジン音が聞こえてくること以外にない。気になる発進加速も、モーターによるサポートによって力不足を感じないため、市街地などを普通にドライブする分には不満はない。

ただし、峠道を走る場合などは、加速しようとアクセルペダルを深く踏み込むと瞬時にシフトダウンするなど、トルク不足によってトランスミッションが変速する機会が多くなる。また、高速道路で走行車線から流れの速い追い越し車線へ移動するなど、瞬時に加速しようとアクセルペダルを踏み込んだ場合は、実際に加速するまでのタイムラグが気になることもある(一瞬だが、状況によっては長く感じる)。

その点、1.5リッター車は十分なパワーがあり、峠道も高速道路もよく走る。山道や高速道を走る機会が多い人は、こちらを選んでおくと間違いないだろう。

気になる燃費については1リッター車に軍配が上がる。試乗中に車載燃費計でチェックした限り、1リッター車は1.5リッター車に対して、3割ほど良好な数値をマークした。試乗時は峠道を元気よく走ったにも関わらず、1リッター車は15km/Lオーバーの実燃費を記録したので実力は高い。高速道路を淡々と走るなどであれば、20km/L超えは確実だろう。

さて今回、新型ゴルフをドライブして感じたのは、やはり基本がしっかりしたクルマだなということ。インテリアの質感がさらにアップすれば…など、気になる点はいくつかあるが、リアシートの居住性はライバルと比べても優れているし、走行性能もハイレベルだから、これまでと同様、競合車のベンチマークであり続けるのは間違いない。

昨今、ライバルたちのレベルが上がり、ゴルフといえどもかつてのように圧倒的リードを保つのは難しい状況になっているが、それでも新型ゴルフは同クラスを牽引する実力の持ち主であることを実感した。気になる部分もあるにはあるが、それは今後の進化に期待しよう。

<SPECIFICATIONS>
☆eTSI アクティブ
ボディサイズ:L4295×W1790×H1475mm
車重:1310kg
駆動方式:FWD
エンジン:999cc 直列3気筒 DOHC ターボ+モーター
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
エンジン最高出力:110馬力/5500回転
エンジン最大トルク:20.4kgf-m/1500〜3500回転
モーター最高出力:13馬力
モーター最大トルク:6.3kgf-m
価格:312万5000円

<SPECIFICATIONS>
☆eTSI スタイル
ボディサイズ:L4295×W1790×H1475mm
車重:1360kg
駆動方式:FWD
エンジン:1497cc 直列4気筒 DOHC ターボ+モーター
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
エンジン最高出力:150馬力/5000〜6000回転
エンジン最大トルク:25.5kgf-m/1500〜3500回転
モーター最高出力:13馬力
モーター最大トルク:6.3kgf-m
価格:370万5000円

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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