■A3のライバルはAクラスや2シリーズ
5ドアハッチバックの「スポーツバック」と4ドアセダンをラインナップするアウディのA3は、VWの新型ゴルフと基本メカニズムを共用するモデルだ。直接的なライバルは、スポーツバックの方はアウディと同じドイツの高級車ブランドが展開するメルセデス・ベンツ「Aクラス」やBMW「1シリーズ」といったところ。セダンの方も、メルセデス・ベンツの「Aクラス セダン」やBMW「2シリーズ グランクーペ」辺りが相当する。
そんな新型A3を“隠れ兄弟車”ともいうべき新型ゴルフと比べてみると、まず日本向けのパワートレーンのラインナップが異なる。ベーシックモデルに搭載される1リッター3気筒ターボエンジンこそ同じだが、4気筒ターボエンジンを積む上級モデルの排気量は、ゴルフの1.5リッターに対してA3は2リッターとなり、駆動方式もフルタイム4WDの“クワトロ”となる。
またA3には、「S3」という名の高性能モデルもラインナップされるが、こちらもゴルフのスポーティ仕様「GTI」より格上。S3の2リッターターボエンジンは310馬力を発生し、駆動方式は前輪駆動のゴルフGTIに対して“クワトロ”となる。これらスペックを見る限り、S3に相当するのはゴルフの最強モデル「R」となりそうだが、A3には将来的に、“さらに格上”の「RS3」もラインナップされると見られている。
■内外装デザインから感じられる新時代の到来
そんな新型A3のエクステリアは、文句なしにカッコいい。先代モデルは先々代とよく似ていて、パッと見ただけでは区別がつかないほどだったが、新型は明らかに違う。アウディはこのところデザイン改革を進めているが、新型のルックスは見た瞬間から新しさが伝わってくるようだ。
アウディの新しいデザインは、相反するふたつの要素を融合している。ひとつはシャープさで、エッジを強調したヘッドライトなど、フロントマスクはシュッと尖った印象を伝えてくる。
もうひとつは、シャープさの対極にある曲面の美しさだ。ボディサイドのパネルは、タイヤ周囲のフェンダーがなだらかに張り出し、ドアパネル下部の処理は筋肉を思わせる曲線美を描く。
少し前まで、アウディ各車のサイドパネルはシンプルな造形で無機質な印象が強かったが、最近のモデルはいずれもフェンダーの張り出しを強調した意匠へと大きく舵を切っている。新型A3もその方程式に沿ってデザインされているのだ。
実際、初めて新型A3を目の当たりにした時、フェンダーの張り出し具合にちょっと驚いた。一瞬、A3ではなくスポーツ仕様のRS3かと思ったほどだ。個人的には、このフェンダーの張り出しだけで新型A3にほれてしまいそうだ。
エクステリアと同様に、新型A3はインテリアでも新しい時代の到来を感じさせる。コックピット中央には、10.1インチのタッチパネル式ディスプレイが、そしてドライバーの正面には、10.25インチの液晶メーターパネルが備わり、それらを直線的なラインで結ぶことでシャープな雰囲気を生み出している。
このコックピットデザインを新型ゴルフと比べてみると、双方の考え方の違いが感じられて面白い。例えばゴルフは、エアコン関係の物理スイッチを大幅に省略。センターディスプレイ下のスライドスイッチで温度調整を行える以外、メイン操作をセンターディスプレイ上で行うようにした。対するA3は従来と同様、中央のディスプレイ下に空調コントロールパネルをレイアウト。物理スイッチで操作できるようにしている。
アウディはクルマづくりに対して“技術による先進”というスローガンを掲げるだけに、「逆なのでは?」と思わせる2台のコックピットデザインだが、ゴルフはとにかく先へ先へと進化させたかったのだろう。一方のアウディは、「今はこの辺りが最適」と判断したようだ。先進性を感じるのは確かにゴルフだが、操作性に関してはもちろんA3の方が馴染みやすい。
■基本メカは同じでも走りの仕立てはゴルフより上質
新型A3のパワートレーンは、1リッターの3気筒ターボ、2リッターの4気筒ターボともに、48Vで作動する小型モーターを組み合わせたマイルドハイブリッド仕様となる。今回試乗したのは、そのうち1リッターの方だ。
新型A3に搭載されるマイルドハイブリッドは、トヨタやホンダ、日産といった日本車勢が展開する“フルハイブリッド”に比べるとモーターの出力が弱く、アシスト範囲も燃費に寄与する範囲も限定的。しかし、価格の上昇を抑えながら純ガソリン車よりも燃費向上を期待できるなど、ユーザーメリットは確実に存在する。また、運転中にモーターの存在を感じさせないため、モーターによる走行フィールを好まない人にもマッチする。
新型A3が搭載する1リッター3気筒ターボは、峠道や高速道路における中間加速がもう少し力強ければ…と思うことはあったが、街中での移動といった普段使いにおいてはパワー不足など感じない。少なくとも「このサイズに1リッターなんて」といった心配は無用だ。
もしも高速道路や峠道を走る機会が多いなど、もっとパワーが欲しいという人は、2リッター4気筒ターボを積む「40 TFSI クワトロ」系グレードを待つのも手だろう(2021年秋にデリバリー予定)。
ちなみに、同じ1リッター3気筒エンジンを搭載するゴルフと比べてみると、エンジンスペックこそ同じであるものの、動力性能は体感的にゴルフよりも力強く感じた(車重はほぼ同じ)。もしかすると、制御などの面でスペックに現れない差が付けられているのかもしれない。静粛性においても、新型A3の方が静かでより上質なクルマに感じられる。
ハンドリングに関しては、素直で小気味よく走ってくれる印象だ。ドライバーがハンドルを切った分だけ曲がってくれるから、運転していてストレスがない。その上、ハンドルを切った時のフィーリングが滑らかで、コーナーに入る時から曲がり終わって直線に入るまでのつながりが実にスムーズ。峠道も水を得た魚のようにスイスイと走ってくれる。
こんなに気持ちよく峠道を走れる新型A3はさすがだ!…といいたいところだが、思い出してみれば新型ゴルフも同様の印象だった。車体などの基本メカニズムは両モデルとも共通だろうから、その素性がいいのだろう。
最後に、気になる価格についても触れておこう。新型A3スポーツバックのベーシックグレード「30 TFSI」は329万円。新型ゴルフのエントリーグレード「eTSI アクティブベーシック」は291万6000円だから、38万円ほどの価格差がある。とはいえ、下から2番目に位置づけられる新型A3スポーツバックの「30 TFSI アドバンスド」(365万円)になると、新型ゴルフの主力グレード「eTSI アクティブ」(353万2000円)との価格差はかなり縮まる。
確かに、ゴルフのeTSI アクティブにはナビゲーションが標準装備され、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)のような先進運転サポート機能も標準状態では新型A3スポーツバックの30 TFSI アドバンスドより充実しているが、内外装の仕立てではやはりアウディに軍配が上がる。それを考えると、どちらを選べばいいか悩んでしまうのはきっと筆者だけではないだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆スポーツバック 30 TFSI ファーストエディション
ボディサイズ:L4345×W1815×H1450mm
車重:1320kg
駆動方式:FWD
エンジン:999cc 直列3気筒 DOHC ターボ+モーター
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:110馬力/5500回転
最大トルク:20.4kgf-m/2000〜3000回転
価格:453万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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