■“EQ”はメルセデス・ベンツの電動車が冠するサブブランド
このところ“電動車”に関するニュースがしばしば報道されている。電動車とは動力源にモーターを使うクルマを指し、EVはもちろんのこと、燃料電池車やプラグインハイブリッドカー、ハイブリッドカーも含まれる。
パワートレーン電動化の狙いはクルマの燃料消費量を減らし、地球温暖化の原因になっているとされる二酸化炭素の排出量を削減することにある。その点、日本は、すでに新車販売数における電動車比率が極めて高い。トヨタ「アクア」や日産「ノートe-POWER」などハイブリッド専用車が販売ランキングの上位につけているほか、軽自動車にも小さなモーターを搭載したマイルドハイブリッド車が多数存在。それらだって立派な電動車だ。
現時点において、そんな電動車の最高峰に位置づけられているのは、走行時に燃料を消費することなく走るEVだ。インフラやバッテリー確保などの問題から急速に普及するのは難しいだろうが、この先、少しずつ増えていくことは間違いない。
今回取り上げるEQAは、メルセデス・ベンツにとってEQCに続く2モデル目となる量産EVだ。“EQ”というのはメルセデス・ベンツの電動車に冠せられるサブブランドであり、ハイブリッドカーも含まれるが、EQAのように車名に“EQ”を含むモデルは、エンジンを搭載しないピュアEVのみとなる。
メルセデス・ベンツ初の量産EVとなったEQCは“Dセグメント”SUVの「GLC」をベースとしていたが、EQAのベースとなったのはひとクラス下のSUVである「GLA」。そのためボディサイズは全長4465mm、全幅1835mmと手頃で、日本の道路環境とのマッチングにも優れている。
EQAのボディパネルの大半はGLAと同じものだが、見た目の印象が大きく異なるのはフロントとリアのデザインがEQA専用になっているため。シンプルな造形と黒を強調したルックスは、EQCはもちろん、今後登場するEVラージセダンの「EQS」とも共通のイメージ。今後メルセデス・ベンツのEVは、このイメージに統一されていくのだろう。
■後席と荷室の実用性も損なわれていない
ドアを開けて車内に乗り込むと、メーターパネルとセンターディスプレイにタブレットのような2枚の大型ディスプレイを配したインパネが目に飛び込んでくる。これ自体はGLAと同じものだが、EVにおいても先進性のアピールでは同クラスのライバルを大きく引き離している。
メーターパネルには当然のことながらエンジン回転計がなく、代わりにEVシステムの出力/回生状態を表示するメーターが備わる。とはいえそのデザインは、EVだから特別かといえばそんなことはなく、あくまでメルセデス・ベンツ車の延長線上にある。
一方、GLAと異なるのはクルマ全体のパッケージングだ。エンジン車をベースに作られた多くのEVやPHEVにも共通することだが、大きなバッテリーをフロア下に搭載する関係上、EQAのリアシート足下のフロアはわずかに高くなっている。その結果、着座位置とフロアとの高低差が小さくなり、リアシートに座った際の姿勢が多少不自然に感じられる。
対して、ラゲッジスペースのフロアは、GLAとの大きな違いを見つけることはできなかった。荷室フロア下はEVユニットが搭載されるためにふさがっているが、フロアが極端に高いということはなく、リアシートの背もたれを倒せばフラットなスペースが広がる。
しかもリアシートの背もたれが左右と中央の3分割になっているため、シーンに合わせて荷室空間をアレンジ可能。EVだからといって実用性が大きく損なわれているということはない。
■実際の使用シーンによりマッチしたEQA
そんなEQAをEQCと比べてみると、EVスペックの違いが興味深い。EQAは、最高出力が190馬力とEQCの約半分(これでも十分!)ながら、航続距離はEQCの400kmよりも長い422kmとなっている。ちなみにバッテリー容量は、EQCの80kWhよりもひと回りコンパクトな66.5kWh。同じEVでありながら、目指すベクトルは異なっている。
そんなEQAをドライブしてまず驚いたのは、EVでは随一と思えるほどの乗り心地の良さだ。段差を乗り越えた際の上下動をしっかり抑え、フラットなドライブフィールを実現している。
そんなEQAの加速感は、高性能EVによく見られる暴力的なものではなく、ちょっとマイルドで、どことなくガソリン車に近い繊細なフィーリングだ。EQCを始めとするプレミアムブランドのEVといえば、アクセルペダルを踏み込んだ瞬間からロケットのように鋭く加速。速さという刺激でEVのスゴさをアピールしている印象が強かった。しかしEQAのそれは、なめらかなレクサス「UX300e」やマツダ「MX-30 EVモデル」に近いものがある。
なぜEQAの加速フィールは、EQCとこれほどまでに異なっているのか? それは、クルマのポジショニングの違いが大きいと考えられる。メルセデス・ベンツにとって初の量産EVとなったEQCは、いわばメルセデス・ベンツのEVを印象づけるアドバルーン的な存在で、刺激的な加速というEVの個性を強調していた。一方EQAは、充電時間が短く、航続距離のバランスに優れるなど、より実際の使用シーンにマッチしたEVに仕上がっている。EVとしての刺激や個性を盛るよりも、実用性を第一に考えているのだろう。
メルセデス・ベンツは先頃、「マーケットの状況が許すなら、2030年までにすべての車種をEV化する準備を進めている」という声明を発表したが、果たして彼らが考えるEVは、今後、どんなクルマになるのだろうか? 最新のEQAには、EVならではの驚きなどもはや存在しない。それは、メルセデス・ベンツの考えるEVが、次のステップへと進んだことの証ともいえる。
<SPECIFICATIONS>
☆EQA 250(AMGライン装着車)
ボディサイズ:L4465×W1850×H1625mm
車重:2000kg
駆動方式:FWD
最高出力:190馬力/3600〜1万300回転
最大トルク:37.7kgf-m/1020回転
価格:687万2000円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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