■今やゴルフファミリーにとって欠かせない存在
2021年6月に日本上陸を果たしたVWの新型ゴルフに、早くも新しいバリエーションが追加された。ステーションワゴンのゴルフ ヴァリアントがそれだ。
昨今、SUVの勢いに押されて日本では少数派となりつつあるステーションワゴンだが、VWの本拠であるドイツを始め、ヨーロッパでのニーズは根強いものがある。その大きな要因がバカンスの存在だ。陸続きのヨーロッパでは、夏の長期休暇中、クルマにたくさんの荷物を積んで出掛ける人が少なくない。日本に比べて高速道路も一般道も平均速度が速い彼の地では、たくさんの荷物を積めて快適に高速巡行できるクルマとなると、ステーションワゴンが最適な選択となるのである。
ちなみに新型ゴルフ ヴァリアントは、ともにターボチャージャーで過給された1.5リッター4気筒と1リッター3気筒エンジンを搭載するが、後者でも最高速度は200km/hに届くというから、バカンス客のニーズにも十分応えてくれる。
そんなゴルフ ヴァリアントが誕生したのは1993年のこと。3代目ゴルフのボディを伸ばしたワゴンモデルがデビューした。1995年には日本でも「ゴルフ ワゴン」の名で販売がスタート。その後、2007年に登場した5代目ゴルフ(ワゴンとしては3代目)から、日本名もゴルフ ヴァリアントへと改められている。
そんな歴史を持つゴルフ ヴァリアントは、全世界では累計300万台以上、日本でも15万台以上がオーナーの手に渡った人気モデル。今やゴルフファミリーにとって欠かせない存在となっている。
■使い勝手を高めつつデザイン性も追求した欲張り派
30年近い歴史を持つゴルフ ヴァリアントだが、新型では歴代モデルにはなかったトピックがある。ゴルフ ヴァリアント史上初めて、ハッチバックのゴルフよりホイールベースが延長されているのだ。
ホイールベースとは、前輪と後輪との間隔を指し、クルマのパッケージングを左右する重要な要素。新型ゴルフ ヴァリアントのホイールベースは2670mmだが、これは先代に対して35mm伸びているのと同時に、ハッチバック(新型は先代比で15mm短い2620mm)よりも50mm長い。それによる最大のメリットはリアシートの居住性向上で、ハッチバックと比べて後席乗員の足下スペースが広くなっている。
なお新型ゴルフ ヴァリアントの全長は、先代に比べて65mm伸びているが、その大半は先代比35mm延長されたホイールベースと、空力性能(空気抵抗係数は先代の0.3から0.275に向上)や衝突安全性能を向上させるべく延長されたフロントオーバーハング延長に充てられている。一方、リアのオーバーハングは従来モデルと大きく変わらない。
真横から新型ゴルフ ヴァリアントを見ると、従来モデルに比べて伸びやかに見える。その理由は車体の後部、具体的にはリアゲート回りの形状にある。従来モデルはルーフをできるだけ後方まで伸ばし、リアウインドウをできるだけ立てることで荷室容量を確保していた。つまり実用性第一主義だったわけだ。
一方の新型は、全長に対してルーフを短くし、その分、リアのピラーやウインドウを寝かせている。そこに、延長されたフロントオーバーハングが相まって、流麗で軽快なフォルムに仕上がっているのである。これは昨今、セダンやSUVにおいてクーペフォルムが好まれているという市場動向を反映したデザインといえそうだ。
新型はデザインを重視したとはいえ、実用性は決しておろそかになっていない。ラゲッジスペースの荷室長は先代と大きく変わらないが、リアシート使用時のVDA計測容量は611Lと、先代のそれより6L増えている(その際の荷室フロアの奥行きは約1.05m)。
さらに、リアシートの背もたれを倒した際の奥行き(リアゲートから運転席の背もたれまでの間隔)は、ホイールベース延長の恩恵によって先代より拡大され、1.9mを超えている。
しかも、リアシートの背もたれはラゲッジスペース脇のリモコンレバーを引くだけで簡単に倒せるし、背もたれを倒した際もフロアに段差は生じない。また、リアシートのアームレスト部は荷室から貫通させられるので、長尺物でも積載可能だ。加えて、荷室を覆うトノカバーや荷崩れを防ぐカーゴネットが装備されたり、荷室フロア下に最深部の深さが30cmにもなる大きな収納スペースが用意されたりと、荷室の使い勝手を高める工夫が充実している。
新型ゴルフ ヴァリアントのインテリアは、リアシートの空間以外、ハッチバックのそれに準じたものだ。中でも特徴は、10インチのタッチパネル式センターディスプレイと、10.25インチのフルディスプレイメーターパネルを搭載したコックピット回りで、先代に比べて格段にデジタル化されている。またシフトセレクターも、依然としてセンターコンソールに置かれているものの、電子式のコンパクトなレバーとなり、パーキングモードはボタン操作で入れるタイプとなっている。
そうしたデジタル化の一貫として、センターパネルの物理スイッチが徹底的に減らされているのも新型の特徴だ。エアコン操作パネルさえ用意されず、各種操作はタッチパネル式のセンターディスプレイに統合されている。エアコンの温度調整など操作頻度の高いスイッチは、走行中の操作に配慮してセンターディスプレイ手前のタッチセンサーで行えるようにしている。
果たしてこの急激な変化に、ユーザーは対応できるのだろうか? 実際に各種操作を行ってみての印象は「慣れが必要」というものだが、もし今後、他メーカーも含めて世界的にこうしたインターフェイスが広まれば、自然に受け入れられるようになる可能性もある。
■極上のステアフィールが生む軽快な走りはお見事
今回試乗したのは、110馬力の1リッター3気筒ターボを積む「アクティブ」(ブラック)と、150馬力の1.5リッター4気筒ターボを搭載する「Rライン」(イエロー)の2モデル。いずれのエンジンも48Vで作動するマイルドハイブリッドシステムを組み合わされている。
ベーシックな1リッターエンジンでも、トルクは2リッター自然吸気エンジンに匹敵する20.4kgf-mと十分なため、走行性能に不満はない。それどころか、登り坂が続く峠道でも「想像以上によく走る」という印象だ。もちろん1.5リッターエンジンであれば、さらに余裕が増すのはいうまでもない。
1リッター、1.5リッターともに、いわゆるダウンサイジングターボエンジンだが、通常走行において排気量の小ささを意識させられることはない。ただし高速領域になると、1リッターはアクセルペダルを踏み込んだ時などに反応が少し鈍く感じられることがあった。それは、燃費のいい実用的なパワートレーンに徹している証といえそうだ。
ちなみに両エンジンとも、最高出力13馬力、最大トルク6.3kgf-mというモーターによってアシストされているが、ドライブしていてそのことを意識させられることはほとんどない。モーターはあくまで縁の下の力持ちという位置づけだが、「想像以上によく走る」いう印象はモーターアシストの恩恵なのかもしれない。
一方ハンドリングは、リアサスペンションがシンプルなトレーリングアーム式となる「アクティブ」系でも軽快だ。先代よりもホイールベースが長くなっているものの、コーナーをスムーズかつ気持ち良く曲がっていく様子が好印象だ。その要因といえるのが、精度の高いステアリングラックと操舵力を軽くしたパワーステアリングのセッティング。これによりステアフィールは極上で、走りの軽快感にひと役買っている。
一方、「Rライン」など1.5リッターターボを積むモデルは、リアサスペンションが4リンク式(マルチリンク)にバージョンアップされており、キャパシティがさらに上がっている。とはいえ、ちょっと車速を上げた程度ではトレーリングアーム式との違いを見出しにくく、サスペンション形式の優劣をつけるのは難しい。昔と違ってトレーリングアームの性能が高まっていることを実感させられる。
ちなみに「Rライン」は、内外装がスポーティなデザインに仕立てられているだけでなく、ギヤ比の変更でよりシャープになったステアリングと、スポーティなセッティングのサスペンションが装備される。その結果、走りはよりキビキビとした印象で、クルマ好きを楽しませてくれる乗り味に仕上がっている。
ホイールベースをハッチバックよりも延長し、ワゴンとしての使い勝手を追求した新型ゴルフ ヴァリアント。日常的に活躍する実用ワゴンとしてはもちろんのこと、キャンプを始めとするアウトドアレジャーのアシとしても目の離せない存在となりそうだ。
<SPECIFICATIONS>
☆ヴァリアント eTSI アクティブ
ボディサイズ:L4640×W1790×H1485mm
車重:1360kg
駆動方式:FWD
エンジン:999cc 直列3気筒 DOHC ターボ+モーター
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
エンジン最高出力:110馬力/5500回転
エンジン最大トルク:20.4kgf-m/2000〜3000回転
モーター最高出力:13馬力
モーター最大トルク:6.3kgf-m
価格:326万5000円
<SPECIFICATIONS>
☆ヴァリアント eTSI Rライン
ボディサイズ:L4640×W1790×H1485mm
車重:1430kg
駆動方式:FWD
エンジン:1497cc 直列4気筒 DOHC ターボ+モーター
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
エンジン最高出力:150馬力/5000〜6000回転
エンジン最大トルク:25.5kgf-m/1500〜3500回転
モーター最高出力:13馬力
モーター最大トルク:6.3kgf-m
価格:389万5000円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
【関連記事】
走りはかなり上出来!VW新型「ゴルフ」は新しさと伝統が融合した意欲作だ
なめらかな走りはゴルフ譲り!SUVの人気車VW「ティグアン」が全方位的に進化
進化しても真価は不変!VW「パサートヴァリアント」は荷室の広さが圧倒的
- 1
- 2