■古典的ながら低重心化に有利なOHVエンジン
エンジンスタートスイッチを押すと、ドライバーの背後に位置する“LT2”型の6.2リッターV型8気筒OHVエンジンが大音量の重低音を発して目覚める。周囲に人がいると、ちょっと気恥ずかしいくらいだ。だが、デフォルトの「ツーリング」モードを選択し、周囲の流れに合わせて加速〜巡航している限り、エンジンは静かでおとなしく、さほど存在を主張してこない。
歴史的にOHVというエンジン形式は古く、その進化形として、バルブを駆動するカムシャフトをバルブの上方に配置したSOHCやDOHCが生まれた。高出力化を図る際の高回転化に向いているのは、バルブをほぼダイレクトに駆動し、かつ吸排気独立して駆動するDOHCだ。
しかし新型コルベットは、積年の宿願が叶ってミッドシップ化されたものの、エンジンは相変わらずプッシュロッドを介してバルブを駆動するOHVのままである。コルベットにとってはそれが、最適だからだ。
OHVが高回転化や高出力化に不向きなら、排気量を増やしておぎなえばいい。その回答が6.2リッターの大排気量である。それに、バルブの上に鉄の棒でできた重いカムシャフトが存在するDOHCよりも、バルブのはるか下、Vバンクの谷底部分にカムシャフトを配置するOHVの方が、低重心化という点でメリットがある。
しかもコルベットのOHVは、本格的なレーシングカーと同じドライサンプ方式を採用しており、より重心を低くするための設計が施されている。エンジン底部に必要なオイル溜まりをなくした分、ウエットサンプ方式に比べて数10mmはエンジンの搭載位置を低くできるのだ。このことからも、コルベットのOHVエンジンは走りを真剣に考えたユニットであることが分かる。
先代のトランスミッションは8速ATだったが、新型のそれは8速のデュアルクラッチ式ATに変わった。一般論でいえば、MTと同様に歯車の組み合わせで構成されたデュアルクラッチ式ATは、遊星歯車とクラッチ/ブレーキの締結要素で構成されるATに比べて伝達効率が高く、ダイレクト感に優れる。デュアルクラッチ式の弱点はATのようにトルクコンバーターを持たないことで、そのため発進〜微低速時にギクシャクした動きが出ることもある。今回の試乗では微低速領域を十分確かめる機会はなかったが、少なくとも、気になるような素振りは一切見せなかった。
100km/h走行時のエンジン回転数が8速で1300回転近辺であることからも、502馬力の最高出力と65.0kgf-mの最大トルクを発生するエンジンの懐の深さを感じる。そんな低いエンジン回転だから、高速巡航中の車内は平穏そのもの。しかもこのエンジンには気筒休止システムがついており、低負荷領域では4気筒を停止させ“V4”で走る。シリンダーを半分休ませても排気量が3.1リッターだと分かれば、フツーに走って当然といえば当然。しかし驚くべきは、V8←→V4の切り替えがスムーズなことで、メーターに表示されるV4の表示を確認しない限り、気筒休止が作動していることを乗り手に悟らせない。音の面でも振動の面でも、それほど洗練されている。
■高回転域は昇天するほどの気持ち良さ
新型コルベットが搭載する大排気量エンジンの真価を味わえるのは、3000回転を超える辺りから。イエローゾーンは5500回転、レッドゾーンは6000回転の設定で、数字だけで見れば物足りなさを感じるかもしれない。だが、5000回転も回れば昇天するほどの気持ち良さを味わえることは、体験してみれば分かる。
3000回転ともなると低いギヤを選んでいてもそこそこの速度域になるが、そこからアクセルペダルを踏み込んだ時の回転の上昇と、それとリンクした遠吠えのようなエンジンの咆哮、そして、ノドの奥で鳴っているかのようなゴロゴロ音とが重なり合い、気分が高まる。そのサウンドの高まりとリンクし、背中を蹴飛ばされたかのように新型コルベットは力強く加速する。病みつきになること間違いなしだ。
ドライブモードをツーリングから「スポーツ」、「レーストラック」に切り換えると、スポーツ→レーストラックの順にパワーステアリングとサスペンションのセッティングがハードになり、エンジン音はよりワイルドになって、積極的に低いギヤを選択する制御になる。サスペンションには磁性流体の制御によって減衰力を可変する“マグネティックセレクティブライドコントロール”が組み込まれていて、スポーツ→レーストラックの順にハードとなる。
サスペンションに関してだけいえば、高速道路を巡行する際はツーリングが適。高速道路より速度域が低い一般道の荒れた路面ではむしろ、スポーツの方がフラット感は高い。レーストラックは文字通りサーキット走行向けだが、一般道でこのモードを試すと、「これでサーキット走ったら、さぞかし気持ちいいだろうな」というムードを味わえる。その意味で、一般道でも使い道がありそうだ。
■ルーフレス時もしっかりした乗り味は不変
ショックアブソーバーのモードが切り替わると、切り替わったなりの効果をしっかり体感できるのは、入力を受け止める側のボディがしっかりしているからだ。部位によって製法と構造が異なるアルミ材を使い分けた骨格を採用するのは先代と同じだが、新型コルベットはミッドシップ化に伴って新設計するに当たり、大幅に剛性を向上させている。
取り外し可能なルーフを備えているのもコルベットの伝統で、ルーフはリアのトランク内に収納可能。しっかりした乗り味は、ルーフレス時も変わらない。ちなみにこの状態でも、手荷物程度ならフロントのラゲッジスペースに収納しておけるので使い勝手にも優れている。
新型コルベットは見かけ倒しのクルマでは決してない。走りの性能に真摯に向き合って開発されたことは、乗ればすぐに分かる。それが分かると、「2LT」グレードの1180万円というプライスタグは大バーゲンだし、「3LT」グレードの1400万円にしても同様だ。
2LTと3LTの違いは主に装備の違いで、エンジンのスペックを含めたパフォーマンスに差はない。スーパーな性能を備えているのにフレンドリーに付き合えるのも、新型コルベットの魅力である。
<SPECIFICATIONS>
☆3LT
ボディサイズ:L4630×W1940×H1225mm
車重:1670kg
駆動方式:MR
エンジン:6156cc V型8気筒 OHV
トランスミッション:8速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:502馬力/6450回転
最大トルク:65.0kgf-m/5150回転
価格:1400万円
文/世良耕太
世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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