■「プリウス」の弟という立ち位置で大ヒット
トヨタのアクアがフルモデルチェンジで2代目へと進化した。同車の誕生は2011年のことなので、待ちに待った全面刷新といえるだろう。アクアは“Bセグメント”というクラスに属すハッチバックで、ホンダ「フィット」や日産「ノート」などがライバルとなる。
10年前のデビュー時、アクアが画期的だったのは、ハイブリッド専用車だったこと。当時はまだハイブリッドがメジャーな存在ではなく、ラインナップも今ほど多くはなかった。そんな中、トヨタが一般的なエンジン車を設定しないハイブリッド専用のコンパクトカーを登場させたのは、大きなインパクトがあった。つまり、大容量バッテリーと強力なモーターを搭載し、エンジンとモーターの美味しいところを使い分ける“ストロングハイブリッド”機構をコンパクトカーセグメントで初めて採用した、いうなれば“「プリウス」の弟”というのがアクアだったのだ。
そんな初代アクアは、誕生と同時に大ヒット。2013年から2015年にかけての3年間、日本の新車販売ランキングで年間販売台数1位を記録し、デビュー以来、グローバルで約187万台を売り上げた。マーケットのニーズに対するトヨタの読みは、見事に当たったのである。
■ヤリスハイブリッドとは走行用バッテリーが異なる
そして先頃、フルモデルチェンジで2代目へと進化した新型アクアは、メカニズムが全面刷新されている。プラットフォームからエンジン、そしてハイブリッドシステムまで、すべてが新しくなった。
そうした基本的なメカニズムは先行して登場したヤリスと共通だが、ボディはデザインはもちろんのこと、サイズも全くの別物。ヤリスよりホイールベースで50mm、全長で110mm長く、ひと回り大きい。
アクアのパワートレーンは、ヤリスのハイブリッド仕様にも搭載される1.5リッター3気筒自然吸気エンジンにモーターを組み合わせたもの。これはヤリスで初めて採用された最新のシステムだが、ヤリスハイブリッドのそれとはバッテリーが異なっている。「G」グレードはヤリスハイブリッドと同じリチウムイオンバッテリーだが、「Z」、「G」、「X」の各グレードには、量産ハイブリッドカーとしては世界初となる“バイポーラ型ニッケル水素バッテリー”を採用している。
このバッテリーは従来のニッケル水素バッテリーとは構造が異なっていて、同じ電力量であればコンパクト化を実現できるし、同じサイズであれば大容量化を可能とする。つまりアクアには、ハイブリッドシステムに対するトヨタの次なり提案が込められているのだ。
■災害時なども安心の“非常時給電システム”
インテリアはエクステリアと同様、ヤリスハイブリッドとは全くの別物だ。先代は特徴的なセンターメーターだったが、新型のメーターはドライバーの正面に移動。また新型はシフトレバーも電子式となり、インパネに設置されたことが興味深い。
さらに最上級の「Z」グレードでは、トヨタのコンパクトカーとしては最大級の大きさとなる10.5インチのタッチ式ディスプレイ(ナビ機能はスマホアプリを活用、もしくはオプションで追加)を標準装備。他のグレードには7インチのそれを組み合わせる。
リアシートの居住性も、先代アクアやヤリスとは異なっている。先代は、ヤリスの前身である「ヴィッツ」に対してリアシートが狭く、居住性についてはかなり割り切っていた。その理由は、空力特性を向上させて高速走行時の燃費を伸ばすという目的があったからだ。しかし、新型ではそれが逆転。ヤリスはヴィッツからの進化でリアシートが狭くなったのに対し、アクアは足下も頭上もスペースが広くなり、居心地が良くなっている。
加えて新型アクアは、全グレードにアクセサリーコンセントを装備。家庭と同じAC100V・1500Wの電源として活用できるため、パソコンや家電品を使うことができる。また、万一の災害時などのために“非常時給電システム”を全グレードに標準装備。これは停電時など、駐車時に非常用電源を供給できる機能で、ガソリン満タン時の場合、約5日間、電気を供給可能だ。
ちなみにACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は全グレードに標準装備。パーキングブレーキは電子式ではないが、シフトレバーを電子制御式(ACCによる停車時は自動でNに入る)にしたことで、国内仕様のヤリスにはできないACCによる渋滞時の停止保持を行えるようにしている。
■特別なショックアブソーバーでしっとりとした乗り味
新型アクアの乗り味は、先代と比べて快適性もハンドリング性能も大きく向上した。
ハンドリングは先代より動きが素直で、走行中のハンドル修正が少なくなっている。これはヤリスでも定評ある美点だが、新型アクアはヤリスより長いホイールベースを武器に、走行時の落ち着きも増している印象だ。峠道を楽しく走りたい人にとってはヤリスの方が向いているかもしれないが、多くの人にとってはアクアの方が好印象に違いない。
さらに印象的だったのが、前輪駆動の「Z」グレードが見せたしっとりとした乗り味。実はこの仕様のみ“スゥイングバルブ式”と呼ばれるショックアブソーバーをフロントに採用している。これは、路面の段差などで鋭い衝撃を受けた際、一般的なバルブとは別のバルブを開いて衝撃を吸収する構造で、走行性能を犠牲にせず乗り心地を高められる特別な構造となっている。これにより同仕様は、路面の凹凸をしっかりと吸収。乗員に不快な振動を伝えてこないのだ。ちなみにこのショックアブソーバーは、これまでレクサスのセダンなどには採用されていたが、トヨタの小型車に採用されるのは初めてのことだ。
パワートレーンに関しては、ヤリスハイブリッドで感じられた進化が水平展開されていて、先代アクアに比べるとアクセルペダルを踏んだ際の速度上昇に反応の遅れがなくなった。
また新型アクアは、初代にはなかった4WD仕様が設定されているのも朗報。これにより、4WDが必要な降雪地ユーザーでもアクアを選択できるようになった。ちなみに4WDモデルは、リアサスペンションが前輪駆動のトーションビーム式からダブルウイッシュボーン式に格上げされているのもポイントだ。
気になる4WD化による弊害は、4WDユニットなどの搭載で、ラゲッジスペースのフロア高が高くなっている程度に過ぎない。
■ヤリスと立ち位置が完全に入れ替わった
今回、初のフルモデルチェンジを経た新型アクアに触れてみて、初代とはポジショニングが大きく変化していると感じた。先代は良くも悪くも“燃費スペシャル”なクルマで、リアシートの居住性はヤリスの前身であるヴィッツよりも劣っていた。
しかし、ヤリスはヴィッツよりもボディサイズを小さくし、リアシート居住性が控えめになった一方、新型アクアはリアシートが広くなり、居住性に優れるパッケージングを身に着けた。
また燃費も、先代モデルでの比較ではヴィッツハイブリッドよりアクアの方が良かったが、新型ではヤリスの方が上をいく。パッケージングも燃費も、ヴィッツ&ヤリスとアクアで、立ち位置が入れ替わっているのである。
その理由として考えられるのは、ヴィッツの時代よりも欧州重視のクルマとなったヤリスに対し、アクアはその穴を埋める日本市場最重視のコンパクトカーになったこと。海外工場でも生産されるグローバルモデルのヤリスに対し、新型アクアは全モデルが日本の工場で生産され、香港や台湾などごく一部の国だけにわずかな量が輸出される予定と、実質的に国内専用車となっている。そんなポジショニングの変化が、新型アクアを日本のユーザーに最適なコンパクトカーへと変化させたのである。
<SPECIFICATIONS>
☆Z(2WD)
ボディサイズ:L4050×W1695×H1485mm
車重:1130kg
駆動方式:FWD
エンジン:1490cc 直列3気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:91馬力/5500回転
エンジン最大トルク:12.2kgf-m/3800〜4800回転
モーター最高出力:80馬力
モーター最大トルク:14.4kgf-m
価格:240万円
<SPECIFICATIONS>
☆G(4WD)
ボディサイズ:L4050×W1695×H1505mm
車重:1220kg
駆動方式:4WD(E-Four)
エンジン:1490cc 直列3気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:電気式無段変速機
エンジン最高出力:91馬力/5500回転
エンジン最大トルク:12.2kgf-m/3800〜4800回転
フロントモーター最高出力:80馬力
フロントモーター最大トルク:14.4kgf-m
リアモーター最高出力:6.4馬力
リアモーター最大トルク:5.3kgf-m
価格:242万8000円
>>トヨタ「アクア」
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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