■e-SKYACTIV-X仕様はエコカー減税対象車に
2021年4月26日、マツダはCX-30の一部改良をアナウンスした。その前の改良は2020年12月17日のことだったので、わずか4カ月ほどのインターバルでアップデートされたことになる。立て続けに発表される商品改良には賛否両論あるものの、マツダは「いいものができたら、できるだけ早く市場へ投入する」というスタンスを貫いている。
2020年12月の商品改良では、“SPCCI(火花点火制御圧縮着火)”を適用した新世代ガソリンエンジン“e-SKYACTIV-X(イー・スカイアクティブ・エックス)と、1.8リッターのディーゼルエンジン“SKYACTIV-D(スカイアクティブ・ディー)の制御技術をアップデート。両エンジンともに最高出力と最大トルクを高め、応答性を向上させた。
また、追従走行機能とステアリングアシスト機能により、高速道路や自動車専用道路での運転疲労を軽減する“CTS(クルージング&トラフィックサポート)”は、作動上限を従来の約55km/hから高速域まで引き上げている。
2021年4月にアナウンスされた最新の改良では、e-SKYACTIV-Xの排ガス性能と燃費を改善。これによりCX-30は、全モデルが2030年度燃費基準における減税対象となっている。
例えば、グレードを問わず6AT、2WDのモデルを選択した場合、改良前は16.8km/LだったWLTCモード燃費が17.3km/Lへと約3%向上している。また、自動車税率(環境性能割)は改良前が2%だったのに対し、改良後は非課税に。エコカー減税(重量税)は対象外だったものが、先の改良によって50%軽減になった。
これにより、CX-30のe-SKYACTIV-X搭載車は購入時のイニシャルコストが低く抑えられ、購入後のランニングコストも実質的に抑えられたことになる。SKYACTIV-G(スカイアクティブ・ジー)2.0搭載車やSKYACTIV-D 1.8搭載車との小さくない価格差に二の足を踏んでいた層にとって、背中を押してくれるひとつの材料になりそうだ。
■荒れた路面で滑らかに動く新サスペンション
2021年4月の一部商品改良における朗報はほかにもある。全車でフロントとリアのショックアブソーバー特性が見直されたのだ。
この改良内容を知った時、「前のモデルも悪くなったけどな」と首をひねったのは事実だ。「手を入れる必要あったの?」と。ひょっとすると、担当する技術者の自己満足レベルの改良で、ユーザーが体感できるほどの差は生じていないのではないか? と想像したりもした。
ところが、である。商品改良前と改良後の車両を実際に乗り比べてみると、ほんの数十メートル走っただけで顕著な違いを実感できた。感覚的に表現すれば、改良後の足回りはより上質だ。マツダのプレスリリースには「荒れた路面走行でのサスペンションの動きを滑らかにし、より自然で穏やかな乗り心地に改善した」とあるが、まさにその通りである。
スムーズに舗装された幹線道路や高速道路を走っている時よりも、道路からコンビニやスーパーマーケットなどの駐車場へ入る際に歩道の段差を乗り越える時や、路面の補修が行き届いていない路地裏など、極低速〜低速走行時に恩恵を感じやすい。「ひとクラス車格が上がった?」と思わず頬が緩むような、うれしいアップデートだ。
ちなみに、CX-30とシャーシ関連の技術やインテリアの基本デザインを共有する「マツダ3」は、CX-30よりひと足早く、2020年11月19日の商品改良でサスペンションの改良を行っている。その内容は前後のショックアブソーバーにとどまらず、フロントのコイルスプリングと前後バンプストッパーの特性変更も行っている。マツダ3に施された内容を基準にすると、CX-30の改良の内容は「手抜きじゃない?」と思うかもしれない。
しかし、真実は違う。マツダ3よりも後から市場に投入されたCX-30は、その分、開発期間を長くとれたこともあり、もともとマツダが理想とする状態に近いレベルにあった。だから、前後ショックアブソーバー特性の見直しという最小限のアップデートで済んだのが実状だ。マツダ3のe-SKYACTIV-X搭載車を日常の相棒とする筆者からすると、狙っている方向は同じなのだろうが、マツダ3よりCX-30の方が乗り味は上質でしなやかに感じる。正直、マツダ3にCX-30の脚が組み合わさったら最高なのに、と思う。
クルマを評価する際のポイントを拾い上げてレーダーチャートを作ったら、総合点が高く、バランスがとれているのはマツダ3ではなくCX-30の方だろう。背が高くて乗り降りしやすいし(それでいて多くの機械式立体駐車場に収まる車高なのはポイントが高い)、リアシートは広く、マツダ3にはない後席のエアコン吹き出し口が備わっているし、ラゲッジスペースも広い。
しかも乗り心地は、CX-30の方が圧倒的に穏やかだ。だからといって決して動きはユルくなく、狙ったラインを思いどおりにトレースしてくれる。長時間運転した際の疲労度は、CX-30の方が低いかもしれない。
唯一、マツダ3が図抜けているのは、圧倒的にスポーティなエクスエリアデザインだ。それと、1.5リッターガソリンエンジンの設定があることもセールスポイントだろうか。
■e-SKYACTIV-Xと好相性なのは間違いなく6MT
筆者独自の調査を元に、ごく大まかにCX-30のエンジン別販売比率をまとめると、SKYACTIV-G 2.0搭載車が約67%、SKYACTIV-D 1.8搭載車が約30%、残りの3%が新世代エンジンにしてマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたe-SKYACTIV-X搭載車となる。
マツダとしてはe-SKYACTIV-Xの魅力をもっと広めたいと思っているのだろうが、当のマツダにとって不幸なことに、SKYACTIV-G 2.0でも商品力に不足はないのである。あらゆる走りのシーンにおいて力不足を感じることはないし、うるさくないし、燃費だって悪くない。「このエンジン最高!」と他人に吹聴して回りたくなるような特徴がない代わりに、不満も一切ない。上記レーダーチャートのバランスを良くしている代表格ともいうべき存在だ。
それに比べると、SKYACTIV-D 1.8はレーダーチャートの中でちょっと尖った性能を示す存在である。低回転から太いトルクを発生する特性が生きて、特に発進時は力強い。それに、ガソリンエンジンでは到底実現しえない圧倒的な燃費の良さも魅力だ。実用上の走りはガソリン車で十分だが、SUVらしい力強さが見た目だけでなくエンジンにも欲しいと考える向きには最適なチョイスだ。
それらに比べると、e-SKYACTIV-Xにはスペシャル感が漂う。レーダーチャートの枠を突き抜けた存在だ。かつてマツダは、世界のどのメーカーも実用化と量産の継続をあきらめたロータリーエンジンを“飽くなき挑戦”によって実用化し、長い間生産した。その飽くなき挑戦の最新事例が、点火プラグが飛ばす火花によって圧縮着火(ディーゼルのように、高い温度と圧力によって混合気を一気に着火させる)を制御するSPCCIである。自動車史に残ること間違いなしの画期的な高効率エンジンを所有する喜びをもたらすのが、e-SKYACTIV-Xが持つ価値のひとつだ。
e-SKYACTIV-Xは昨今の高効率エンジンにありがちな例で退屈かというとそんなことはなく、すこぶる刺激的である。いっそ、スポーツエンジンに分類してもいいくらいだ。最高出力は190馬力、最大トルクは24.4kgf-mなので、2リッターの排気量を考えると自然吸気エンジン以上、ターボエンジン未満のスペックということになる。
このエンジンの真骨頂は、SPCCI特有の燃焼の速さに由来するレスポンスの良さとスムーズな回転フィールだ。低速低回転域であっても、高速巡航中であっても、アクセルペダルを踏んだ途端にグッと力を出してくれる反応の良さがいい。今回の試乗ではCX-30の6ATと6MTを乗り比べる機会を得たが、e-SKYACTIV-Xとの相性がいいのは間違いなく6MTで、反応のいいエンジンとの対話をより積極的に楽しめる。
SKYACTIV-G 2.0とSKYACTIV-D 1.8搭載車は、ショックアブソーバーの特性見直しによって乗り心地が改善された。e-SKYACTIV-X搭載車は乗り心地の改善に加え、エンジンの制御変更により排ガス性能と燃費が向上し、イニシャルコストが軽減され、ランニングコストの軽減を期待できるようになった。今回の商品改良により、走りが良くて使い勝手に優れるCX-30のオールマイティな商品力に、さらに磨きが掛かったのは間違いない。
<SPECIFICATIONS>
☆X Lパッケージ(AWD/MT)
ボディサイズ:L4395×W1795×H1540mm
車重:1530kg
駆動方式:4WD
エンジン:1997cc 直列4気筒 DOHC+モーター
トランスミッション:6速MT
エンジン最高出力:190馬力/6000回転
エンジン最大トルク:24.5kgf-m/4500回転
モーター最高出力:6.5馬力/1000回転
モーター最大トルク:6.2kgf-m/100回転
価格:371万3600円
文/世良耕太
世良耕太|出版社で編集者・ライターとして活動後、独立。クルマやモータースポーツ、自動車テクノロジーの取材で世界を駆け回る。多くの取材を通して得た、テクノロジーへの高い理解度が売り。クルマ関連の話題にとどまらず、建築やウイスキーなど興味は多岐にわたる。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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