一番安いけど走りは軽快!ホンダ「ヴェゼル」のガソリン車は装備充実の大穴仕様

■ガソリンエンジン車の設定は1グレードのみ

ホンダのクロスオーバーSUV、ヴェゼルの勢いが止まらない。2021年4月の正式発表から半年近くが経た今も、人気グレードの納車待ちは半年以上。仕様によっては1年以上も掛かるという人気ぶりだ。

ヴェゼルは現行モデルで2代目だが、初代から継承された美点がある。それは優れた実用性だ。具体的にいうと、リアシートとラゲッジスペースが広いのだ。

実際、現行ヴェゼルのリアシートは、トヨタ「ヤリスクロス」や日産「キックス」といったライバルを凌駕し、“Bセグメント”SUVでナンバーワンの広さ。現行ヴェゼルの前後シート間隔は先代より30mmほど広がっていて、実際にリアシートに座ってみるとヒザまわりスペースのゆとりにあきれるほどだ。マツダ「CX-30」やトヨタ「カローラクロス」といったひとクラス上のSUVを超える居住空間が確保されている。

そんな現行ヴェゼルのラゲッジスペースは、キックスに次いでクラス2番目の広さ。荷室に関しては先代よりわずかに狭くなっているものの、クラストップレベルにあることは変わりなく、クーペのようなルックスとしながらも、パッケージングの妙でしっかりとした実用性を確保した辺りは高く評価できる。

新型ヴェゼルのパワートレーンは、純ガソリンエンジン車とハイブリッド仕様が用意されるが、主力モデルは圧倒的に後者だ。グレード構成を見ても、トータル4グレードのうちガソリンエンジン車の設定は1グレードのみ。装備レベルが最もベーシックな仕様としてラインナップされている。

また販売面においても、発売から3万台を受注した時点での非ハイブリッド車の比率はわずか10%ほど。それくらい現行ヴェゼルのガソリンエンジン車は希少な存在なのだ。

■ハイブリッド仕様に対して100kgも軽量

今回はそんな、現行ヴェゼルのガソリンエンジン車に注目したい。

ガソリンエンジン車の大きな魅力は、なんといっても価格設定だ。ガソリンエンジンを搭載する唯一のグレード「G」と、装備面で同レベルにあるハイブリッド仕様「e:HEV X」を比較すると、「G」は227万9200円、「e:HEV X」は256万8700円(いずれも前輪駆動車の価格で、4WD仕様は22万円高)で、なんと30万円弱も安いのだ。「できるだけ安くヴェゼルを手に入れたい」という人にとって、極めて魅力的な価格設定といえるだろう。

確かに「G」はベーシックグレードだけあって、装備面を見るとインパネ周辺の加飾パーツが省かれているほか、ハンドルが本革巻きではなかったり、タイヤ&ホイールのサイズが上級グレードの18インチに対して16インチと小さくなったりしている。とはいえ、非接触式キーやオートエアコンなどは装備されているので、ベーシックとはいうものの、快適性に劣る廉価版とは立ち位置が異なっているのだ。

加えて、現行ヴェゼルのベーシックグレード「G」には、ハイブリッド仕様に対する明確なアドバンテージがいくつかある。

まずひとつ目は、乗り心地だ。

ハイブリッド仕様の前輪駆動車は、先代モデルに比べて乗り心地が良くなり、快適性が高まっているが、スポーティな雰囲気を与える意味もあってかサスペンション設定がややハードで、乗り心地においては快適性を重視したハイブリッドの4WD仕様に軍配が上がる(わずかな差ではあるが)。つまりハイブリッド仕様は前輪駆動と4WDとで意図的に異なる味つけが施されているのだ。

一方、ガソリンエンジンを搭載する「G」グレードは、前輪駆動車でも乗り心地優先のサスペンション設定を採用。そのためハイブリッド仕様の前輪駆動車より凹凸のある路面における車体の揺れが少なく快適だ。特にリアシートにおいては、両車の違いが分かりやすい。

もうひとつの美点は、軽快なドライビングフィールだ。峠道はもちろんのこと、交差点を曲がるレベルにおいても、「G」の走り味はハイブリッド仕様とは違っている。ハンドル操作に対してより機敏に反応し、軽やかに曲がってくれるのだ。全体としてクルマの動きがハイブリッド仕様よりも軽快だ。

「G」グレードはサスペンションの味つけが乗り心地重視であるにも関わらず、なぜ走行時の挙動は軽快なのか? そのキーとなるのが車両重量である。同じ前輪駆動車どうしで比べると、「e:HEV X」は1350kgもあるのに対し、「G」は1250kgと100kgも軽いのだ。たかが100kgと思うかもしれないが、されど100kgである。加速はもちろん、コーナリングやブレーキングといった走りのすべてが軽やかになるのは必然だ。

■エンジンは新開発、CVTも最新バージョン

ところで、1グレードしか用意されていないと聞くと、「ガソリンエンジン車の開発には力が入っていないのでは?」と思う人がいるかもしれない。しかし現行ヴェゼルの場合、決してそんなことはない。

例えばエンジン。先代モデルから受け継いだ使い古しのユニットではなく、現行ヴェゼルに初搭載となる新開発エンジンを組み合わせている。118馬力を発生する1.5リッターの4気筒エンジンは、日常域での使いやすさを考慮。アクセルペダルの踏み込みに対する加速の制御など、ドライバーの操作に対して素直でコントロールしやすい加速感を目指したセッティングが施されている。

そこに組み合わせるCVTも、先行して登場した「フィット」に初めて搭載された新タイプ。CVT特有の、加速時の“すべり感”を抑制するとともに、全開加速時には有段トランスミッションのような疑似的なシフトアップをし、強い減速時にはシフトダウンをして減速をアシストする制御なども組み込まれている。

こうしたパワートレーンは、現行ヴェゼルの車体に対して“ゆとりあるもの”とは決していいがたいが、かといって大きな不足を感じないレベルにある。大勢乗って峠道を登り続けるといったシーンは苦手だが、日常的に使うのに困ることはないだろう。

■ウイークポイントは装備レベルを選べないこと

最後に、そんなヴェゼル・ガソリンエンジン車のウイークポイントについても触れておこう。

最大の弱点はズバリ、グレードを選べないことだ。確かに「G」グレードは安いものの、装備レベルはベーシックである。ハイブリッド仕様は、エアコンの前席左右独立温度調整機能や、後席用の吹き出し口が備わる上級グレードがあり、その分、乗員の快適性もアップする。つまり「G」グレードを選ぶには、ある種の割り切りが求められるのだ。

ガソリンエンジン車は現行ヴェゼルのセールスにおいて1割ほどしか売れていないが、発売直後は上位グレードに人気が集まりがちなので、今後はガソリンエンジン車の比率も高まっていくだろう。仮に、ガソリンエンジンを搭載する上級グレードが追加されれば、選択の幅が広がってよりユーザー思いのモデルとなりそうだ。

現行ヴェゼルのガソリンエンジン車は必要にして十分の走行性能や快適性を備えており、ハイブリッド仕様に対しても明確なアドバンテージを持っている。ハイコスパを求めるユーザーやハンドリング至上主義のドライバーには一度試してもらいたい仕様である。

<SPECIFICATIONS>
☆G(FF)
ボディサイズ:L4330×W1790×H1580mm
車重:1250kg
駆動方式:FWD
エンジン:1496cc 直列4気筒 DOHC
トランスミッション:CVT
最高出力:118馬力/6600回転
最大トルク:14.5kgf-m/4300回転
価格:227万9200円

>>ホンダ「ヴェゼル」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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