■クルマ好きの期待に応えるオーテックジャパン
キックスAUTECHは、コンパクトSUVのキックスe-POWERに用意されるバリエーションのひとつだ。カタログにも掲載されているし、ディーラーで購入可能。もちろん新車ローンだって組めるから、ひとつのグレードと認識していいだろう。
しかし、フツーのキックスe-POWERと異なるのは、オーテックジャパン社によるカスタムカーだということ。オーテックジャパンとは日産自動車の関連会社で、業務用の特殊車両や福祉車両の開発・製作を行うほか、近年は自社の名を冠したカスタムカー「AUTECH」シリーズのプロデュースも手掛けている。
古くからのクルマ好きなら、かつて“R33”型「スカイラインGT-R」にノーマルモデルにはない4ドアモデルが用意され、限定販売されたことを覚えている人も多いだろう。あの名車を生み出したのもオーテックジャパンだ。その正式名称は「スカイラインGT-R オーテックバージョン 40thアニバーサリー」で、「スカイライン」の誕生40周年を記念して作られたモデルだった。
さらにいえば、ステーションワゴン「ステージア」にスカイラインGT-Rのエンジンなどを移植した“GT-Rワゴン”なる愛称を持つ「ステージア オーテックバージョン 260RS」や、“S15”型「シルビア」に用意されたオープンモデル「シルビア ヴァリエッタ」など、クルマ好きの記憶に残る数々の名車を生み出したのも同社である。小さな組織として日産本体にはできないクルマづくりを得意とし、クルマ好きの期待に応える特別な1台を生み出してくれる企業なのだ。
余談だが、今では日産自動車のミニバンなどに欠かせないスポーティグレード「ハイウェイスター」も、元はといえばオーテックジャパンがエアロパーツなどをコーディネートしたカスタマイズカーを手掛けたことが発端。同社は世の人々の嗜好をいち早くキャッチすることにも長けているのである。
■上質さがさらに増したAUTECH流のエクステリア
かつては、エンジン載せ替えなどを施したスポーツモデルをいくつも世に送り出していたオーテックジャパンだが、昨今、彼らが手掛けるカスタムカーのメニューは、内外装のドレスアップがメイン。しかも、内外装を上質に仕立てた上級モデルを得意とする。そのカスタマイズカーのブランドがAUTECHであり、今回フォーカスしたキックスAUTECHはその第7弾に当たる。
キックスAUTECHのエクステリアは、AUTECHシリーズのレシピに則ったもの。フロント、サイド、リアのボディ下部にメタル調フィニッシュを施した専用パーツを装着。重心の低さを印象づけるとともに、光沢を抑えた華美になりすぎない絶妙な色合いで上質感を高めている。
ドアミラーやルーフレールも同様の仕上げとなるほか、ガンメタリックのアルミホイールを装着するのもAUTECHシリーズの流儀である。
AUTECHシリーズのフロントマスクといえば、立体形状にデザインされた“ドットグリル”が定番だが、キックスAUTECHには採用されておらず、ダーククローム仕立てのベース車と同じ形状となる。その代わり、フロントバンパー左右の開口部をドットをあしらったデザインとし、さりげなくAUTECHらしさをアピールする。ちなみに、そこに組み込まれるシグネチャーLEDランプはキックスAUTECH専用だ。
ボディカラーは、ブラック、ホワイト、ホワイト&ブラックのツートーンと、試乗車のダークブルー&ブラックのツートーンが用意される。中でも、ダークブルー&ブラックの組み合わせはベース車にはないAUTECHだけの特別色。オーテックジャパンのテーマカラーはブルーということもあり、AUTECHシリーズは各モデルともベース車には設定のないブルーをラインナップするのがお約束となっている。
それらによってブラッシュアップされたエクステリアは、ベースとなったキックスe-POWERの標準車にはないエレガントさと風格を備えている。キックスe-POWER自体、大きなグリルに精悍なヘッドライトを組み合わせるなどルックスには個性が感じられえるが、AUTECH仕様では上質さがさらに増している。
■愛車と贅沢な時間を過ごせる特別なインテリア
そんなキックスAUTECHを購入したオーナーが、より満足度を得られるのはインテリアだろう。
合成レザーのシート表皮を始め、ハンドルやインパネのソフトパットに入った青いステッチも、AUTECH専用のコーディネート。シートに入った菱形の立体模様などは、欧州のプレミアムブランドのそれを想起させる仕立てだ。
また、ステッチに加えて下部をブルーにコーディネートしたハンドルも、ひときわ上質な風合いで満足度を高めてくれる。
オーナーになれば、クルマの外観を見るよりもインテリアに触れている時間の方が長いはず。ベース車より上質に仕立てられたAUTECHのインテリアは、愛車との贅沢な時間を過ごせるという意味で非常に価値があり、キックスAUTECHの真価ともいえる。
そんなキックスAUTECHのカスタマイズメニューは内外装のドレスアップのみであり、走行性能や乗り味などはベースモデルと同じだ。かつての「オーテックバージョン」などを知るユーザーには少々物足りないかもしれないが、当時とは時代が変わり、ベース車も走りのレベルが上がっていると考えれば納得できるのではないだろうか?
キックスAUTECHの気になる価格は311万4100円で、標準モデルの上級グレードである「X ツートーンインテリアエディション」より25万円ほど高い。しかし、X ツートーンインテリアエディションではオプション扱いとなるインテリジェントアラウンドモニター(車両周囲360度の様子をモニターでチェックできる)やインテリジェントルームミラー(カメラ&液晶ディスプレイ方式のルームミラー)など、6万9300円分のオプションがキックスAUTECHには標準装備されていることを考えれば、十分納得できるプライスタグといえそうだ。
内外装のカスタマイズをアフターパーツなどで同様にやろうとしたら、現在の価格差の倍の金額でも収まらないことだろう。キックスAUTECHは、フツーのキックスでは満足できないコダワリ派のための特別なモデルなのである。
<SPECIFICATIONS>
☆AUTECH
ボディサイズ:L4330×W1760×H1610mm
車重:1350kg
駆動方式:FWD
エンジン:1198cc 直列3気筒 DOHC
エンジン最高出力:82馬力/6000回転
エンジン最大トルク:10.5kgf-m/3600~5200回転
モーター最高出力:129馬力/4000~8992回転
モーター最大トルク:26.5kgf-m/500~3008回転
価格:311万4100円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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