セルボタンをひと押ししてエンジンをかけると、予想以上に歯切れがいい排気音が耳に届きます。単気筒らしいパルス感もあって元気がいい音に、ちょっと昔を思い出しながらやる気が盛り上がってきました。それでいて、またがると350ccの単気筒なのに不快な振動が一切ないことに、このバイクが現代の技術で新設計されたものであることを思い出させます。
スタンダードはシルバーのメッキ仕上げになっているマフラーは、「S」だとつや消しのブラック。バンク角を確保するために、ややカチ上げられたデザインとなっています。
アシストスリッパークラッチによって驚くほど軽くなっているレバーを握り走り始めると、予想以上のパワー感にも驚かされました。20馬力ってこんなにパワフルだっけ!? と思わされる力強さ。公道を走っている分には非力さを感じる場面はほとんどありません。これはおっさんの反射神経が鈍っているからだけではないはず。
そして、単気筒らしい鼓動感はあるのに、回転数を上げていっても振動が全然増えないのも驚き。元気のいい排気音だけが聞こえ続けますが、昔の単気筒にありがちだった手がしびれるような微振動は皆無。単気筒の気持ちいい部分だけを抽出したようなフィーリングです。
■ライディングポジションがちょうどいい
「GB350」のスタンダードモデルはメッキパーツを多用していてクラシカルな雰囲気。ただ、実際の乗ってみるとハンドルの位置が高く、ステップもかなり前方に配置されているのでライディングポジションにはちょっと違和感をおぼえました。こういうものだと思えばいいのでしょうが、セパハン&バックステップでまたがった姿勢がカッコいいと思い込んでいた世代には、どう操っていいのか戸惑ってしまう感じ。
その点、「S」はハンドル位置が下げられていて適度な前傾姿勢。ステップもバックステップとまではいかないまでも、一般的なスポーツバイク的な位置なので、荷重がしやすいポジションです。シートもタックロールタイプになっていて、シート荷重もしやすそう。
テールランプはスタンダードのクラシカルなデザインのほうが好みでしたが、その点はカスタムしてしまえばいいでしょう。
実際に峠道も走ってみましたが、適度にやる気にさせてくれる前傾姿勢でバイクを操るのが面白い。ライディングしやすいハンドルとステップ、そしてシートはクラシカルな雰囲気のバイクでも“乗るのを楽しむ”ことを妥協したくない世代にはちょうどいいと感じられるものでした。
■ラジアルで17インチ化されたリアタイヤがちょうどいい
もうひとつ、スタンダードと「S」の大きな違いがタイヤです。スタンダードはフロント19インチ、リア18インチのバイアスタイヤを履いていますが、「S」はリアタイヤが17インチで幅も130から150へと太くなっています。そして、標準装備されるタイヤも剛性が高くグリップの良いラジアルに。
スペックだけ聞いた際には、「ずいぶん細かいところに手を入れているな」と思いましたが、実際に乗ってみるとこの変更には大きな意味があったことが感じられました。ワインディングなどで車体を寝かせていったとき、車体の挙動が明らかに違うのです。フロントのサイズは同じなのに、リアタイヤの径と太さが変わっただけでこんなに違うのかというフィーリング。
リアタイヤのラウンド形状をお尻で感じながらバンクしていく感覚がとても気持ちよく、昔耳にした「バイクはリアタイヤで曲げるんだ」という言葉が思い出されます。
車体を寝かせていった際の安心感も高く、クラシカルなバイクですが十分にスポーツライディングを楽しめます。単気筒エンジンのおかげで車体もスリムで軽量なので、峠道などでの反応も軽く、バイクを操る歓びを存分に味わうことができました。こんな見た目なのに、きちんとトラクションコントロール機構も備えているので、アクセルを開けすぎた際のスリップを抑制してくれます。
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街中から峠道、高速道路まで乗り回してみて感じたのは、若い頃にバイクに乗っていて、久々に復帰しようと考えているリターンライダーには、こういうバイクが最適なのではないかということ。シンプルで軽量だけど操作しやすく、スポーツライディングの楽しさをしっかり思い出すことができそうです。慣れてきてパワー不足を感じるようになったら、もう少しパワフルなバイクにステップアップを考えてもいいでしょう。でも、そうなっても何となく手元に残しておきたくなる、「GB350 S」はそんなバイクです。
>> ホンダ「GB350」
<取材・文/増谷茂樹>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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