■抜群のスタートダッシュを決めた300シリーズ
「今からご注文いただく場合の納期は2年以上となる見込みです」。トヨタの公式Webサイト内にあるランドクルーザーのページには、「納期目途に関するご案内」としてそんな情報が掲載されている。
スーパーカーなど海外メーカーの少量生産車ならいざ知らず、トヨタの量産モデルに対してそんなメッセージが出されるのは異例のことだ。たしかに昨今、部品供給の遅れなどで納期が長くなるのは珍しいケースではなくなっているが、2年以上というのはちょっと聞いたことがない。14年ぶりのフルモデルチェンジで新型に生まれ変わったランドクルーザーの300シリーズは、販売面においてとんでもないスタートダッシュを決めたようだ。
前回のレポートでは、フルモデルチェンジの概要をお伝えしたが、今回は300シリーズのバリエーションやドライブしての印象についてお届けしたい。
新型ランドクルーザーは、ガソリン/ディーゼルという2種類のエンジンと、5人乗り/7人乗りという2醜類のシートレイアウト、そして、5つのグレードによって構成されている。
エンジンはガソリン、ディーゼルともにターボチャージャー付きのV型6気筒で、ガソリンエンジンは3.5リッター、ディーゼルエンジンは3.3リッターの排気量を採用する。前者は、ベーシックグレードの「GX」を除いて7人乗りの3列シート車で、後者は全グレードとも2列シート車となる。装備グレードは、ベーシックな方から「GX」、「AX」、「VX」、「ZX」、そして「GRスポーツ」を設定。ちなみにディーゼル仕様はZXとGRスポーツのみの設定となる。
■GRモデル初のオフローダーとなったGRスポーツ
新型に用意されるグレードの中で最も興味深いのが、新たに設定されたGRスポーツだ。GRとはトヨタのモータースポーツブランド“Gazoo Racing(ガズーレーシング)”の頭文字だが、なぜ今回、新型ランドクルーザーにGRスポーツが用意されたのか? そんな疑問を解くカギは、GRスポーツだけに備わる機能にある。
ひとつ目は、世界初の機構である“E-KDSS(エレクトロニック・キネティック・ダイナミック・サスペンション・システム)”だ。サスペンションの電子的な制御システムであり、走行状況を反映して前後のスタビライザーを自動で制御。オンロードではサスペンションストロークを縮めてロールを抑える一方、オフロードではストロークを拡大してタイヤが路面をしっかり捉える足回りに変身させる(ショックアブソーバーの減衰力やバネの硬さも連動して制御される)。
また、路面から浮いたタイヤの空転を防ぐデフロックは、他グレードでは後輪にオプション装備(前輪には装着できない)となるのに対し、GRスポーツでは前後とも標準装備となる。ストロークの大きなサスペンションと併せて、確実に大地を捉えるわけだ。
一方、エクステリアは車体の下部やフェンダーアーチなどの細部をブラック仕上げにするとともに、通常のエンブレムバッジではなく“TOYOTA”という文字を組み合わせたフロントグリルを装着。品格を高めた他グレードに対し、GRスポーツは押し出しの強い立派なグリルで無骨な印象を強めている。
300シリーズのスタイルに、威厳よりもタフネスさを求めるなら、GRスポーツの方がふさわしいだろう。一方インテリアは、ダークレッドのシート生地をセレクトできたり、GRスポーツのロゴが各部に配されたりと、スポーティな空間に仕立てている。
ちなみに300シリーズのGRスポーツは、日本向けのGRモデルとしては初のオフローダーとなる。これまで日本向けは、舗装路を前提としたモデルのみを展開していたGRモデルだが、ランドクルーザーではラフロードに焦点を当ててきたのが興味深い。
■走行フィールはまさに陸の巡洋艦=ランドクルーザー
新しいランドクルーザーをドライブしてまず感じたのは、イマドキのSUVとの乗り味の違いだ。
例えば、同じトヨタの「ハリアー」や「ヤリスクロス」を筆頭に、最近のSUVはオフロード向けではなく、一般的な乗用車の骨格で作られており、舗装路でのハンドリングや快適性といった乗り味も、セダンやハッチバックとそう大きく変わらない。
しかし300シリーズは違う。路面からの細かい突き上げが多めのラダーフレーム車らしい乗り味から、おっとりとしたハンドリングまで、伝統的なクロスカントリーモデルの味を継承しているのだ。
同じクロスカントリーモデルでも、メルセデス・ベンツ「Gクラス」やランドローバー「ディフェンダー」が新型となってかなり乗用車寄りの乗り味になったのとは対照的。ある意味ランドクルーザーは、真のオフローダーだと実感できる。
一方、パワートレーンは大きく洗練され、従来モデルの個性であったおっとりとした感じは薄まった。
6000回転手前までキッチリと回るガソリンエンジンは力強い上に、マルチシリンダーのエンジンらしく感触は繊細。高回転域まで回す気持ち良さがある。
対するディーゼルエンジンは、わずか1600回転で71.4kgf-mもの極太トルクを発生させるのが自慢で、発進加速から2.5トンという車両重量を感じさせないほど力強く、とにかく扱いやすい。
アイドリング時はガラガラというディーゼル特有の音が目立つが、振動はよく抑えられているので不快感はなく、走り始めればディーゼル音も気にならなくなる。ひと昔前では考えられないほど繊細なフィーリングゆえ、正直なところ、ドライブしているとディーゼルなのかどうかが分からなくなるほどだ。
では、もしも300シリーズを購入するなら、ガソリンとディーゼル、どちらのエンジンを選ぶべきか?
ドライバビリティを重視するなら、高回転域の盛り上がりを楽しめるガソリンエンジンの方がいい。一方、コストパフォーマンスや普段使いでの扱いやすさを考えれば、ディーゼルエンジンの方が魅力的だ。ガソリン車に対して30万円高いものの、税金の優遇措置や乗り換え時の下取り査定などを考えれば、その多くを相殺できるだろう。その上ディーゼルエンジンは燃費が良く、燃料自体のコストも安いため、給油のたびにサイフの負担を軽減してくれる。
新型ランドクルーザーを生み出すに当たって、開発陣がテーマのひとつに掲げたのが「運転しやすく、疲れない」ことだったという。確かに300シリーズをドライブしていると、どこまででも走っていけそうな気分になる。ハイパワーエンジンや高いスタビリティによる優れた走行性能はもちろんだが、大きな車体に守られているかのような安心感が運転の疲れを抑制してくれるのだろう。どこまででも走って行けそうなこのドライブフィールは、まさに陸の巡洋艦=ランドクルーザーと呼ぶにふさわしい出来栄えだ。
<SPECIFICATIONS>
☆ZX(ディーゼル)
ボディサイズ:L4985×W1980×H1925mm
車重:2550kg
駆動方式:4WD
エンジン:3345cc V型6気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:10速AT
最高出力:309馬力/4000回転
最大トルク:71.4kgf-m/1600〜2600回転
価格:760万円
<SPECIFICATIONS>
☆GRスポーツ(ガソリン)
ボディサイズ:L4965×W1990×H1925mm
車重:2520kg
駆動方式:4WD
エンジン:3444cc V型6気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:10速AT
最高出力:415馬力/5200回転
最大トルク:66.3kgf-m/2000〜3600回転
価格:770万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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