今回試乗したのは「118iスポーツ」。従来の1.6リッター直4ターボに替わる、新世代の1.5リッター直列3気筒ターボを搭載したモデルで、排気量、気筒数は変われど、最高出力136馬力、最大トルク22.4kg-mのスペックは、従来の4気筒と変わりません。
新エンジン搭載の1シリーズは、素の「118i」(298万円)、仕様が異なる「118iスポーツ」と「118iスタイル」(いずれも344万円)、そして「118i Mスポーツ」(364万円)で構成されます。
118iの中堅グレード、364万円の118iスポーツと118iスタイルを例にとって、ライバル車と比較してみましょう。
1シリーズが属するのは、“Cセグメント”と呼ばれる自動車販売の最激戦区です。ベンチマークとなるフォルクスワーゲンのゴルフは、1.4リッター直4ターボ(140馬力/25.5kg-m)搭載の「TSIハイライン」が328万9000円。プレミアムブランドながら、前輪駆動を採るメルセデス・ベンツ「A180」は326万円。エンジンは、1.6リッター直4ターボ(122馬力/20.4kg-m)を積みます。
BMWが手掛ける別ブランドのFFハッチ=MINIは、1シリーズと同じ1.5リッター直3ターボ(136馬力/22.4kg-m)を搭載した「クーパー」が280万円。グッとリーズナブルな値付けです。
いずれも、仕様や装備が異なるので厳密な比較とはなりませんが、フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツが作るコンベンショナルなFFハッチを、FRレイアウトの1シリーズと変わり種ハッチのMINIで上下から挟撃する、というBMWグループの戦略が垣間見えます。
さて、118iが導入した3気筒エンジンは、「340i Mスポーツ」の試乗記で報告した新世代モジュラーユニットのひとつ。シリンダー数の増減で、6気筒、4気筒、3気筒が作られます。
いずれも、シリンダーに直接燃料を吹くダイレクトインジェクションタイプ。1シリンダー当たりの排気量は、経験則で最も効率がいいとされる約500cc。バルブのタイミング、リフト量とも可変化させたヘッドメカニズムを持ちます。
フォルクスワーゲンは、4気筒エンジンの気筒を休止させることで燃料消費量を減らそうとしていますが、BMWは精緻な燃料噴射およびバルブコントロール、そして“バルブトロニック”機構によってポンピングロスをなくすという、よりメカニカルな手段で燃費を追求しています。いかにも、BMW=バイエルンのエンジンメーカーらしいですね。
カタログ値(JC08モード)の燃費は、ゴルフのTSIハイラインが19.9km/L、118iスポーツは18.1km/Lです。118の車重が、ゴルフより100kg以上重い1430kgなのが、不利に働いているのでしょう。
実際に試乗すると、バランサーシャフトを備えた3気筒エンジンは、BMWの名に恥じないスムーズさを見せます。ZF製の8速ATと組み合わされ、小気味いいサウンドを発しながら、過不足なく118iスポーツを前へと押し出します。
試しにアクセルペダルをベタ踏みしてみると、絶対的な加速力こそ限られたものですが、破綻なく上品に速度を上げていきます。ちょっと重めの車重も、しっとりした乗り味に貢献していて、なるほど、プレミアムブランドの乗り味です。
BMWブランドはFR、FFモデルはMINIブランドで、とすみ分けをしていたBMWですが、ご存知のように、「2シリーズ」の「アクティブツアラー」「グランツアラー」で、BMWブランドにもFFモデルをラインナップするようになりました。
次期1シリーズ(と2シリーズ)のFF化もウワサされる今日この頃。手遅れにならないうちに、稀少なFR“プレミアム”ハッチを試してみてはいかがでしょう?
<SPECIFICATIONS>
☆118iスポーツ
ボディサイズ:L4340×W1765×H1440mm
車重:1430kg
駆動方式:FR
エンジン:1498cc 直列3気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:136馬力/4400回転
最大トルク:22.4kg-m/1250〜4300回転
価格:344万円
(文&写真/ダン・アオキ)