フランス車の個性が濃密!ルノー新型「メガーヌ」の走りはソフトな上に力強い

■“フツー度合い”により磨きが掛かった素メガーヌ

日産自動車とのアライアンスや「カングー」人気の高まりなどにより、ルノーの知名度は以前と比べて格段に高まった。しかし、メガーヌと聞いてどんなクルマなのかをイメージできる人は、そう多くないだろう。

クルマ好きなら、きっとどんなクルマであるかイメージできるだろうが、とはいえそれは、スポーツバージョンのメガーヌR.S.ではないだろうか? もちろんメガーヌR.S.も、メガーヌのバリエーションのひとつには違いないが、バリバリ鍛え上げられた体育会系モデルであり、いうなれば、ホンダ「シビック」に対する「シビック タイプR」や、三菱「ランサー」に対する「ランサー エボリューション」くらい中身が異なる。

メガーヌR.S.

今回フォーカスするメガーヌは、いわば“フツーのシビック”とか“フツーのランサー”に相当するモデル。メガーヌは“Cセグメント”に属すハッチバックで、このクラスの帝王ともいうべきフォルクスワーゲン「ゴルフ」やトヨタ「カローラスポーツ」、ホンダのシビックに「マツダ3」などがライバルに挙げられる。

そんなメガーヌの日本仕様は、2021年8月にマイナーチェンジを受けたのだが、その際エンジンが、排気量1.3リッターの新しいターボユニットに変更された。「おや? メガーヌってそんな小排気量のモデルだったっけ?」と思い調べてみたら、マイナーチェンジ前のモデルは1.6リッターターボを搭載していた。つまりマイナーチェンジで排気量が小さくなったのだ。

しかも、変わったのはエンジンだけではない。従来型も新型も、メガーヌの日本仕様は1グレードのみの設定だが、従来型が「GT」だったのに対し、新型のグレードは「インテンス」となった。ネーミングだけで違いを判断するのは難しいが、従来のGTは205馬力のエンジンを搭載するスポーティグレードだったのに対し、新型のインテンスはより大人しい仕立てとなった。つまり今回のマイナーチェンジで、素メガーヌは“フツー度合い”に磨きがかかったわけである。

先のマイナーチェンジで、新型メガーヌはフロントのバンパーやグリル、ヘッドライトのデザインを変更。さらに、シャークフィンアンテナや光が流れるリアシーケンシャル式ウインカーを採用するなど、イマドキの仕立てとなった。

また、フツーのグレードとはいえタイヤ&ホイールは18インチを履くなど、見た目は十分スポーティだ。

インテリアは大きく変わっていないが、エアコン操作パネルが変更されて操作性が高まったほか、電動パーキングブレーキにオートホールド機能が付き、信号待ちなどでブレーキペダルから足を離しても停止状態を保てるようになった。

また、時代が求めるニーズへの対応として、センターコンソールボックス後方にリアシート用としてふたつのUSBポートが加えられている。

そして、新型のもうひとつのポイントは、先進安全機能や運転アシスト機能がアップグレードされたこと。歩行者検知機能つき衝突被害軽減ブレーキのほか、駐車場からバックで出る時などの後退時に、左右から接近する車両を検知してドアミラー内の表示などで危険を知らせる“リアクロストラフィックアラート”も追加されている。さらにアダプティブ・クルーズ・コントロールには、渋滞時の停止保持機能も追加。安全性に加え、高速道路の渋滞時におけるサポートもより充実している。

■新エンジンはメルセデス・ベンツと共同開発

そんなメガーヌのインテンスをドライブして驚いたのは、加速の力強さ。ターボチャージャー付きとはいえ、1.3リッター車とは思えないほどキビキビと加速する。

何を隠そう、運転し始めた時は排気量ダウンのことなど頭になく、「1.6リッターターボだから走りはこれくらいだよな」なんて思っていたのだが、途中で1.3リッターターボだと知り、「そんなのウソだ!」といいたくなった。小排気量エンジンであることが信じられないほど、不思議な力強さを発揮してくれるのだ。

“H5H”と呼ばれるこのエンジンは、ルノー、日産自動車、三菱自動車工業のアライアンス3社と、ダイムラーが共同開発したもので、メルセデス・ベンツの「Aクラス」やルノー「ルーテシア」にも積まれている。しかし、Aクラスは最高出力136馬力、最大トルク20.4kgf-m、ルーテシアは131馬力、24.5kgf-mというスペックなのに対し、新型メガーヌは159馬力、27.5kgf-mとハイスペックになっている。よくよく考えてみれば、新型メガーヌのエンジンスペックは自然吸気ガソリンエンジンなら2.5リッター級の水準。驚きの力強さも十分うなずける。

またトランスミッションは、MTのようにエンジンからタイヤまでの駆動力が直結し、アクセル操作に対して加速感がダイレクトに感じられるデュアルクラッチ式ATを採用。そのため新型メガーヌのドライブフィールはとても爽快だ。

シリーズを代表するスポーツモデルであるメガーヌR.S.は、サーキットでタイムアタックするために締め上げられたサスペンションによってシャープな挙動を示すが、素メガーヌのインテンスは、もちろんそんなことはない。とはいえ、かつてのフランス車のように柔らかさ全開のネコ足サスペンションとは異なり、絶妙に硬く絶妙にしなやかな、最近のドイツ車に通じる乗り味だ。乗り心地だけでなく高速域でのスタビリティまで考えると、こうしたセッティングが最適解なのだろう。

とはいえ後日、ルーテシアに乗って分かったのは、新型メガーヌのサスペンションはルーテシアのそれより柔らかく、フランス車らしさがより色濃く残っているということ。メガーヌより基本設計が新しいルーテシアの乗り味から考えると、今後ルノー車は、ますますそちらの方向へ向かうことだろう。つまり“フツー”のフランス車の魅力を味わいたいなら今のうちだ。

いい意味でフツーのクルマだが、実はダシの味が濃くて上質。最新のメガーヌには、そんな素朴な魅力がギュッと凝縮されている。

■レジャードライブにも活躍するステーションワゴン

ところでメガーヌには、ハッチバックのほかに「スペースツアラー」を名乗るステーションワゴンも用意されている。

こちらはハッチバックに対して全長が240mmも伸び、その分、ラゲッジスペースが大きくなっているのだが、同時にホイールベースも40mm伸び、リアシートのスペースも拡大されている。つまり、よりファミリー向けのパッケージングに仕上がっているのが、スペースツアラーなのである。

もちろん通常時のラゲッジスペースも広いが、さらにリアシートの背もたれを倒すと、段差のない、大人がラクに横になれるほどの荷室フロアを得られるのも魅力。これならきっと、キャンプを始めとするアウトドアレジャーでも活躍することだろう。

スペースツアラーはボディが拡大されたことで、車両重量がハッチバックより70kg増えているが、ゆとりある1.3リッターターボエンジンのおかげで動力性能に不足はない。

気になる乗り味は、延長されたホイールベースや重量増の影響からか、ハッチバックに比べて一段と穏やかな印象。とはいえ軽快さは失っておらず、絶妙なバランスを保っている。

良好な乗り味や優れた実用性、そして、洗練されたフォルムがスペースツアラーの魅力だろう。個人的には、目立たないよう黒く仕立てられたリアピラーが特徴的なスタイルを演出する、斜め後ろからの眺めが気に入っている。

素メガーヌの走りは、フツーだけど頼りがいがあり決してあなどれない。新型メガーヌはまさに、日々食卓にのぼる存在ながら、ありきたりなものとはちょっと違う美味しい食パンみたいなクルマである。こんな1台をパートナーに選んだら、毎日がきっと幸せになるだろう。

<SPECIFICATIONS>
☆インテンス
ボディサイズ:L4395×W1815×H1485mm
車両重量:1320kg
駆動方式:FWD
エンジン:1333cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:159馬力/5500回転
最大トルク:27.5kgf-m/1800回転
価格:310万円

<SPECIFICATIONS>
☆スポーツツアラー インテンス
ボディサイズ:L4635×W1815×H1495mm
車両重量:1390kg
駆動方式:FWD
エンジン:1333cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:159馬力/5500回転
最大トルク:27.5kgf-m/1800回転
価格:330万円

>>ルノー「メガーヌ」

文/工藤貴宏

工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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