■電動格納式ハードトップをコルベットで初採用
8世代、65年にわたって紡がれてきたコルベットの歴史の中でも、2020年に本国デビューを果たした“C8”と呼ばれる最新モデルは、後世に渡って特別な意味を持つ1台となりだろう。それは、コルベットの存在価値を根本から覆すような大きな変化がいくつも起こり、コルベット史上初の技術や設計がいくつも導入されているからだ。
最も大きな変化、それも革命と呼べるレベルのものが、エンジン搭載位置がミッドシップへと変わったこと。コルベットといえば、フロントエンジン/リアドライブという伝統の図式はガラガラと音を立てて崩れ、C8から新しい歴史の扉が開かれたのである。
その狙いはいくつかあるものの、一番大きなものはフットワークの向上。コルベットのようなアメリカンスポーツカーに対して「大パワーにものをいわせた“直線番長”で、コーナリングは苦手」というイメージを抱く人が少なくないかもしれない。しかし実際は、旋回能力の高さもコルベットの魅力のひとつであり、重いV8エンジンを車両の中心に積むことで物理的に運動特性が向上するミッドシップ化は、コルベットの開発陣が長きにわたり熱望していた悲願だったのだ。
さらにトランスミッションの変更も新型のハイライトのひとつだ。先代は7速MTもしくは6速か8速のATを搭載したが、C8はMTやATを廃止し、全車8速のデュアルクラッチ式ATとなった。
さらに、歴代コルベットで初めて右ハンドル車が用意されたのもC8のトピックだ。これは、ミッドシップ化でフロント側にエンジンがなくなり、ステアリング系統の設計の自由度が高くなったこと、さらに、デュアルクラッチ式ATの採用でMT車のクラッチ系統の制約がなくなったことなどの追い風があったからとも考えられるが、いずれにせよ日本に正規輸入されるコルベットはすべて、右ハンドル仕様となった。
そしてもうひとつ、歴代初の装備としてC8に設定されたのが、今回紹介するコンバーチブルの電動格納式ハードトップだ。コルベットは過去にもコンバーチブルを展開していたが、それらはすべてソフトトップ仕様。電動格納式ハードトップを採用した新型で、新しい一歩を踏み出したというわけだ。
とはいえコルベットは、ポルシェでいうところの“タルガトップ”のように、クーペも天井部分を取り外せる設計になっている。つまり全車オープンモデルなのだが、双方の大きな違いは、オープンにする際、クーペが板状のルーフを手で外す必要があるのに対し、コンバーチブルはリアウインドウ部まで含め、すべて電動でルーフが開閉する点にある。クーペのルーフをひとりで脱着するのは困難を極めるが、コンバーチブルならスイッチを押すだけで気軽にオープンドライブを楽しめるのがいい。ちなみに、ルーフの開閉に要する時間はわずか16秒ほどで、48km/h未満であれば走行中も操作可能だ。また電動開閉式ハードトップとなったことから、ソフトトップを採用していた先代と比べ、キャビンの静粛性など快適面が格段に向上している。
■クーペより先にコンバーチブルを設計
それにしても、なんとカッコいいのだろう! 優雅な曲線で構成された美しいフォルムをまとう欧州のスーパーカーに比べると、コルベットのデザインは徹底的に直線とエッジを強調したシャープで戦闘的なスタイル。中でもコンバーチブルのデザインは、ルーフを閉じても開けてもカッコ良さが色あせない出色の出来栄えだ。
電動開閉式ハードトップを採用したモデルが陥りやすいのが、ルーフを収納する構造上、トノカバー部の厚みが増してダサいデザインになってしまうこと。それは昨今、電動開閉式ハードトップを採用するオープンカーが減少している理由のひとつでもあるが、C8コンバーチブルのトノカバー部の薄さには感動すら覚える。よくぞこんな部分にルーフを収められるなと、何度見ても感心するほどだ。
実はその秘密は、開発手法にあった。C8コルベットの開発は、クーペより先にコンバーチブルが設計されたという。2分割にルーフが折り畳まれる格納状態を見ると、指1本入るスペースさえないのでは? と思えるほど、徹底的に詰められたパネルどうしのすき間に感動さえ覚える。しかし、C8はそれを前提に設計されたモデルと聞けば、納得だ。ラゲッジスペースも、一般的なコンバーチブルはオープン時に容量の制約を受けがちだが、C8のコンバーチブルはクーペと同様、ゴルフバッグが2個収まるだけのスペースが確保されている。こうした望外な実用性の高さも、コンバーチブルありきで設計されたことが功を奏している。
ちなみに、軽量素材をミルフィーユのように重ねて作られたルーフの開閉は、油圧ではなく6つのモーターを使って作動。オープン時もクローズ時も昇降するウインドウはガラス製となっている。
オープンにした時のスタイリング上の特徴は、トノカバーのシート後方に“ナセル”が備わること。ジェット機のエンジンにインスピレーションを受けたデザインとなるそれは、スタイリングにアクセントを添えつつ、キャビンに巻き込む風の影響を抑えるという機能的な役割も担う。シートの真後ろなので開放感をスポイルすることはなく、また、オープン時にリアウインドウを閉められるといったメリットも提供してくれる。
■快楽がドライバーに降り注ぐ刺激的な走り味
コンバーチブルだから走りはルーズかも…。そんな先入観は、走り始めた瞬間に後方へと置き去りになった。
鋭く回転が上昇し、高回転域でとてつもないパンチ力を発揮する刺激に満ちあふれたエンジンはもちろん、ハンドルを切ると同時にスッと切りこむ過剰なまでの俊敏性と回頭性を併せ持つハンドリングも、オープンとなったネガなど一切感じられない。
コンバーチブルは、スプリングやダンパー、シャーシのセットアップがクーペとは異なる専用チューニングになっているほか、クーペではオプション扱い(日本仕様は標準装備)となる「Z51パフォーマンスパッケージ」と同じリアスポイラーをコンバーチブルは全車に標準装着し、空力バランスを整えている。
それによる走り味は、そのままサーキットへ持ち込みたくなるような快楽をドライバーへシャワーのように降り注いでくれるものだった。「サーキットを楽しめる卓越した走行能力を持ち、コンバーチブルだからといってパフォーマンスを諦める必要はない」と開発担当マネージャーは説明するが、C8コンバーチブルを実際にドライブしてみて、その言葉にウソはないと実感させられた。
そんなC8コンバーチブルのプライスタグは、クーペの上級グレードである「3LT」に対して150万円のアップとなる。刺激的な走りに加えてオープンの開放感まで味わえる“1粒で2度おいしいスーパーカー”を1600万円で買えるのだから、これは実に魅力的だ。欧州のスーパーカーを基準に考えたら、その倍はしてもおかしくない。
<SPECIFICATIONS>
☆コンバーチブル
ボディサイズ:L4630×W1940×H1225mm
車重:1700kg
駆動方式:MR
エンジン:6156cc V型8気筒 OHV
トランスミッション:8速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:502馬力/6450回転
最大トルク:65.0kgf-m/5150回転
価格:1600万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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