チェッカーフラッグが振られるまでがレース。ここはル・マン、その24時間の間にはどんなことでも起こりうる。わかってはいても、これほどの結末を見せられては言葉を失ってしまいます。長いル・マンの夜を走り抜いて朝をむかえ、その間にトヨタ6号車がGT車両にぶつけられたりコースアウトしたりするシーンはありましたが、トヨタ5号車は順調に周回を重ねているように見えました。しかしポルシェもその30秒ほど後ろを追い掛けており、長距離耐久レースらしからぬ緊張を維持したまま、レースは進んでいたのです。
ゴール1時間前になると、グランドスタンドもいっぱいに埋まり、みなゴールに備え始めます。23時間以上戦ってもトヨタの5号車とポルシェの2号車は同一周回で走り続けていました。アクシデントに見舞われたトヨタ6号車も3ラップ後ろの3位を走っており、トヨタ-ポルシェ-トヨタの1-2-3位のまま歴史的なゴールをむかえるものと、誰もが信じていました。
残り時間が10分を切り、心の中では600秒をカウントダウンが始まります。ホームストレートをトップのトヨタ5号車が通過し、実質あと2周。祈るような気持ち、そして歴史的な初優勝を期待しながら観客たちは待ちます。残り5分、4分、そして3分37秒となったとき、トヨタの6号車がホームストレートに戻ってきました。あと1周。すぐ後ろをトップの5号車が走ってくるはず。しかしその姿はなかなか表れませんでした。
ようやく5号車の姿が最終シケインを抜けて見えました。しかしその走りに力強さはなく、よろめくようにしてピット前でクルマが止まります。誰もが目の前で起こっていることを理解できません。6号車を待っている? パフォーマンス? しかしその停車時間が長くなるにつれて、事態の異常さに気付き始めます。どよめく観客席と送られる声援。そして、なんとかもう一度走り出そうとするTS050 HYBRIDの脇を、無情にもポルシェ2号車が追い越していったのです。
ようやく走り出し、ゆっくりと最後の1周に向かう5号車の後ろ姿が、ル・マン24時間耐久レースを物語っているようでした。どんな映画よりも劇的な、ありえないシナリオ。ポルシェ・チームのピットは歓喜で溢れているようですが、どこか戸惑いも見てとれます。優勝後、ビクトリー・ロードに帰ってきたポルシェ2号車のドライバーたちの表情からも、喜びと動揺が見えます。その中の一人、ニール・ジャニ選手はレース後のコメントでこう語りました。「トヨタのドライバー達の気持ちを考えると悲しくなります。レーシングドライバーであれば誰でも、それがどのようなものか痛いほどわかると思います。ル・マン24時間での優勝をまだ言葉で表現することはできません」
こうして2016年のル・マンは幕を閉じました。まさに「歴史的敗戦」でした。しかしその"歴史"は勝利への歴史であるはずで、この敗戦は初優勝を果たしたときに再び語られるべきものなのでしょう。その戦いはすでに始まっていて、さらに速く、強いマシンを作るため、ドライバーたちもチームも動き始めているはずです。その日を365日後にむかえるために。
写真で振り返るル・マンの夜と朝、ゴールと、戦いのあと
Toyota Gazoo Racing >> http://toyotagazooracing.com/
(文・写真/GoodsPress編集部 取材協力/トヨタ自動車)
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