■実用性を犠牲にしてまでデザインを重視した点もクーペSUVの個性
世界的に盛り上がりを見せているSUVブーム。依然としてSUVの販売台数は右肩上がりの状況が続いているが、各自動車ブランドはさらに多くのSUVを市場に送り出そうと知恵を絞り続けている。街を走るSUVが増えれば増えるほど、自社の存在を主張するには新たな発想が求められるからだ。
その回答のひとつが、クーペとクロスオーバーさせたクーペスタイルのSUV、通称クーペSUVだろう。
クーペSUVと普通のSUVとの違いは、ボディサイドを見れば一目瞭然。クーペSUVのそれは、リアシート頭上からリアウインドウにかけてのルーフラインがなだらかに傾斜しながら下がっていく。水平なルーフにほぼ垂直のリアウインドウを組み合わせる普通のSUVはリアビューが背の高いステーションワゴンのようだが、クーペSUVはその名の通り、クーペのような雰囲気を放っている。
では、クーペSUVがターゲットとするのはどんな人か? メインとなるのはやはり、個性的なSUVを求めている人。多くの荷物を積めないなど、やはり実用性においては同クラスの普通のSUVに見劣りしてしまうクーペSUVだが、使い勝手よりもエレガントで軽快な雰囲気を重視したい人にとっては、まさに打ってつけの選択肢といえるだろう。
クーペSUVの歴史を振り返ると、そのパイオニアは2008年に初代モデルが誕生したBMW「X6」だ。同社の「X5」をベースに作られたモデルだが、それまでのSUV像を打ち破る、リアウインドウを大きく寝かせたSUVらしくないフォルムは衝撃的だった。
当時、口の悪い人々は「これならSUVじゃなくてもいいのでは?」とか「ラゲッジスペースの狭いSUVに存在意義があるのか?」などといったものだが、今ではそんなことをいう人などほぼいなくなるくらい、クーペSUVは市民権を得るまでに成長した。
そもそも、万人ウケをねらうのではなく、あくまでニッチをターゲットに個性を強めたカテゴリーであり、あえて実用性を犠牲にしたことも“差別化”の一環なのだ。クーペSUVは実用性至上主義ではなく、ある意味、余裕を持った人生を送っていることの証であり、それを理解しているオーナーたちが選ぶ存在なのである。
X6がデビューした後も、BMWは「X3」をベースとし、X6よりひと回りコンパクトな弟分の「X4」をリリース。さらにメルセデス・ベンツも、X6のライバルとなる「GLEクーペ」やX4の競合車種となる「GLCクーペ」を発表した。
そしてアウディも、「Q3スポーツバック」や今回紹介するQ5スポーツバックで応戦。今やクーペSUVは、ドイツのプレミアムブランドにとって“あって当然”というポジションへと成長している。
■デザイン重視による後席や荷室の犠牲は最小限
Q5スポーツバックは、当然ながらQ5をベースとするクーペSUVだ。Q5は欧州の車両クラス分類でいうと“Dセグメント”のSUVに属し、X4やGLCクーペのガチンコライバルとなる。
SUVオーナーの筆者から見ても、リアウインドウを大きく寝かすことでエレガントさを演出したQ5スポーツバックのスタイルは素直に美しいと思う。それだけで選ぶ価値は十分にある。
真横から眺めると、車体の前半分はベースとなったQ5と同じだが、そこから後方は全く異なるデザインになっている。いうなれば、ステーションワゴンと5ドアハッチバックのような関係性で、アウディでいえば、普通のQ5がステーションワゴンの「A4アバント」、Q5スポーツバックがリアウインドウを寝かせたクーペである「A5スポーツバック」のようなスタイルとなる。
気になるのはリアシートの居住性だが、スペースの犠牲は最小限。ヒザ回りスペースはQ5と変わらないし、懸念される頭上スペースもほとんど気にならない。確かにヘッドクリアランスを数値で見ると、Q5に対して16mmほど小さくなっているが、それでも一般的なセダンと同等の空間を確保しているから、長身の人を除けば「頭が当たって困る」なんてことにはならないだろう。
ラゲッジスペースも同様だ。VDA計測による容量でいえば、リアシート使用時の荷室容量はQ5の550Lに対し、Q5スポーツバックは510Lと40Lも小さくなっている。しかし減っているのは、荷室を覆うトノカバーより上の空間で、多くの人にとってはほぼ影響がない部分。
困るとすれば、キャンプやスノーボードといったレジャードライブへ出掛ける際に荷物を高く積み上げるようなシーンだけであり、そんな使い方を頻繁にするのなら、素直に普通のQ5を選んだ方が良さそうだ。しかし、それ以外の人なら、Q5スポーツバックで困るようなことはまずないだろう。そもそも実用性は、セダンより格段に高いのだ。
■改良されたディーゼルターボはレスポンスが心地いい
日本仕様のQ5スポーツバックに搭載されるエンジンは、スポーツモデルの「SQ5スポーツバック」を除けば、全グレードともディーゼル仕様。排気量2リッターの4気筒ターボで、最高出力は204馬力、最大トルクは40.8kgf-mとハイスペックだ。
これは従来からQ5に搭載されていたユニットだが、今回、久しぶりにドライブして驚いた。以前のそれより音が静かになり、フィーリングもなめらかになったように感じられたからだ。
気のせいかと思ったら、このエンジンはQ5のマイナーチェンジに合わせて改良が施されており、さらに小型のモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドへと進化していた。今回の好印象はそれらが効いているのだろう。最新のディーゼルエンジンらしいスムーズさと、2000回転くらいから4000回転くらいまでのレスポンスの良さが心地良く、楽しくドライブすることができた。
そんなQ5スポーツバックは、Q5の同等グレードと比べて価格が50万円ほど高い。ちょっと高過ぎる気がしないでもないが、クーペというのはそもそも、デザインや仕立てに対する付加価値を評価して乗るクルマ。もしQ5スポーツバックが気に入ったのであれば、カッコ良さと希少性のためにエクストラフィーを払うのが“粋”というものだ。
<SPECIFICATIONS>
☆スポーツバック1st edition
ボディサイズ:L4685×W1900×H1665mm
車重:1910kg
駆動方式:4WD
エンジン:1968cc 直列4気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:204馬力/3800〜4200回転
最大トルク:40.8kgf-m/1750〜3250回転
価格:837万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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