【トヨタ 86 試乗】大改良でキャラが明確に!“86KOUKI”3つのキモ

◎Point1:走りが変わった

皆さんは「テールハッピー」ってコトバ、聞いたことありますか? これは、コーナリング中にリアが滑り出しやすいクルマを指すコトバ。

従来の86、決してテールハッピーだとは思いませんでしたが、ドリフト走行に対する敷居が、かなり低いクルマでした。ドリフトとは、リアタイヤを積極的に横滑りさせることで、クルマの向きを変える走り方のこと。

これまでの86は、ドライバーが乗って楽しいよう、ドリフト走行への間口をグッと広げていました。

トヨタ 86 前期型

意図的なアクションによって後輪のスライドを誘い出し、それをコントロールする楽しみ。多くのドライバーがそれを味わえるセッティングでした。アクセルでドリフトをコントロールするという後輪駆動ならではアクション、好きな諸兄も多いのでは? 私は好きです。

このドリフト走行と対極にあるのが、グリップ走行。路面にシッカリとタイヤを食いつかせながら、狙った走行ラインでコーナーを駆け抜けます。レーシングドライバーは基本、グリップ走行で走ります。ただしグリップ走行中も、厳密には若干、ドリフトしています。これをタイヤの“スリップアングル”ともいいます。

こうした表現が一般的でないことを承知でいえば、フロントタイヤのドリフトが大きいとアンダーステアになります。アクセルを踏めば踏むほど、クルマがコーナーのアウト側へ膨らみます。一方、リアタイヤのドリフトが大きいとオーバーステア。リアがコーナーの外側へ向かって横滑りします。

オーバーステアは、タイトなコーナーなどでクルマの向きを変えるのに有効な場合もありますが、簡単にオーバーステア状態になるクルマだと、車体の姿勢(もしくは進行方向)を保つために、アクセルを踏むことを控えなくてはなりません。それでも踏み続けると、リアタイヤが必要以上に滑り出し、スピンする可能性が高まります。このスピンを回避するために、ステアリングを曲がりたい方向とは逆に切ることもあります。プレステの『グランツーリスモ』などでお馴染みのアクション“逆ハン”ですね。

例えば、市販車をベースとした車両で争われる国内モータースポーツの最高峰=SUPER GTのマシンは、公式練習において、前後タイヤのグリップバランスの調整に多くの時間を費やします。前後のグリップバランスが整うと、コース上でアクセルを全開にできる時間が長くなり、アクセルを踏んでもムダにドリフトすることなく、前へ進むトラクションが増す(=タイムアップする)からです。

そうしたモータースポーツの現場と同様、市販スポーツカーも前後タイヤのグリップバランスを整えることは、スポーツカーとしての資質を高めるのに有効な手段。86の開発陣もそこに着目したようです。

さて、新しい86“KOUKI”は、今回のビッグマイナーチェンジで主に下記の3点を変更し、走りをブラッシュアップしてきました。

1)吸排気系の改良により低速域からエンジンのトルクアップ(MT車)
2)リアピラーのスポット打点増し打ちによるボディ剛性の強化
3)サスペンションなど足回りの改良

短い時間ですが、86“KOUKI”で富士スピードウェイのショートコースを走りました。そこでの第一印象は、グリップ走行から、前後のタイヤがバランスよくジリジリと滑るドリフト走行まで、楽しめる領域がさらに広がったな、というもの。

トヨタ 86 KOUKI

息の長い旋回Gを感じながらコーナーを抜け、次のコーナーの旋回Gへとスムーズにクルマの挙動をコントロールできた瞬間など、ウソ偽りなく「超気持ちいい!」。

スポーツカーとしてのポテンシャルがグッと引き上げれたことを実感しました。

でも、ということは、ドリフト走行への敷居は高くなってしまったのか?

ご安心ください。クルマのキャラクターとは少し離れた話になりますが、新たに導入された車両制御モード“TRACKモード”が秀逸なんです。

シフトレバー脇のスイッチを3秒間長押しすると、メーター内に同モードが作動したことを示すインジケーターが点灯します。

ドリフト走行に挑もうとすると、なんらかのアクションが必要です。例えば、コーナー進入時に少しブレーキを踏みながら入るような状況では、クルマの前輪に荷重が移動します。ここでアクセルを踏むと、軽くなったリアタイヤの空転を誘発します。タイミングはもちろん、アクセルワークがとても大切なのですが、ひょんなことからスピンしてしまいます。

“TRACKモード”は、車体がスピンしないように(ドライバーのアクセルワークとエンジンの間に割って入り)トラクションをコントロールしつつ、単にスピン回避に徹するだけでなく、ドライバーがコントロールする領域を残しておいてくれるのです。

結果、ドライブが超楽しいんです。“TRACKモード”に甘えてしまう自分が怖い…。

トヨタ 86 KOUKI

ちなみに、従来の86を同コースで比較試乗しましたが、新しい86と同じ感覚でコーナーに入ったところ、見事に“タコ踊り(=ドリフトへの対応が遅れ、ステアリングを2度、3度と切り返すこと)”しちゃいました(汗)。

 ■走行安定性のアップに空力を活用

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