■ぶっちぎりで優勝したのはNSR250R
2022年5月14日に行われた「D.O.B.A.R. ZERO-4」クラス決勝で、ポールポジションから追いすがる4スト勢をぶっちぎって優勝を飾ったのはゼッケン71のNSR250R。ライダーの八木則久さんは、GP125やST600などで選手権を闘い、改めてレースを楽しみたいと考えたときに選んだのがNSRでした。「2ストロークが好きですし、バイクに興味を持ち始めたときに最速と言われたのがNSRだったので、これでレースをしてみたいと思いました」と話します。
レギュレーションの関係で、選んだのは1989年式のNSR。それもレースベース車として開発された“RK”のフレームを使い、エンジンにはレーサーRS250のシリンダーを使うなど“本気”のカスタムがほどこされています。2ストで性能のキモとなるチャンバーもRS250用。スイングアームは1990年以降のNSR(MC21)用の湾曲したガルアームを使ってチャンバーの容積を稼いでいます。
「ライバルの4ストマシンはボアアップしていてストレートが速いので、軽さを活かしてインフィールドで勝負しています。ただ、89年式までのフレームは剛性は高いけど、あまり曲がらないのでMC21以降のフレームを使えるといいんですけどね」という八木さんのコメントからは、この時代のレーサーレプリカが毎年のように大きく進化していたのが感じられます。
甲高い2ストサウンドを響かせながら、トップを独走する姿は“最速はNSR”と思ってた世代にはたまらないものでした。
■中身はほとんどZXRのZX-4をさらにパワーアップ
2位に入ったのはゼッケン7のZX-4。グリッドは16番手ながら、スタートからジャンプアップし、最終的には2番手まで順位を上げる見事な追い上げレースでした。スタートから大きく順位を上げたポイントのひとつはエンジンで、このマシンは471ccまでボアアップしたZXR400のエンジンを積んでいます。というより、ZXRのフレームだけをZX-4に交換していると言ったほうがいいかもしれません。
ライダーの浅野毅さんは、前回までこのZERO4クラスで3連覇している人。過去にもレース経験を積んで来ましたが、7年前、40歳を機にTOTへの参戦を始めたとのことです。「このレースに出たくて、ZX-4のフレームを探してきて、持っていたZXR400のエンジンや足回りを移植しました」(浅野さん)
外装もほぼZXR用で、特徴的なラムエア用のダクトも「ガンダムっぽいから」という理由でそのまま流用されています。
■1987年式NSRのスタイルを気に入って
登場当時のスタイルを忠実に再現していて、レース中も注目を集めていたのがゼッケン32のNSR250R。オーナーであるモトハウスネモトの根本正幸さんは、発売当時に乗っていた1987年式NSR(MC16)が好きで、このスタイルのままレースに出続け、今回でTOTは12回目になるとのこと。「ライダーも“このバイクだから”と乗ってくれています。88とか89ではなく、このスタイルで速いのがいいと思っている」とのことで、よく流用される90年式以降のガルアームも使っていません。
「スイングアームは88用です。ガルアームはチャンバーの取り回しの自由度が高まりますが、重い。何より87年式にはストレートなスイングアームが似合う」と言葉に力を込めます。ただ、エンジンは90年以降のMC21用で、点火系や排気バルブをコントロールするユニットはPGM3を採用。リアホイールも18インチから17インチに変更し、タイヤの選択肢を広げています。
「この年式はエンジンの搭載位置が後ろ寄りでフロント荷重が稼ぎにくいのですが、発売当時のインパクトが強かったので、このスタイルにこだわりたい」とのこと。モデルチェンジのたびにエンジンの搭載位置まで変更していたというところに、この頃の技術競争がいかに激しかったかが伺えます。
■「家に(自走で)帰るまでがTOT」というTZR
ブルーの発色が美しい86年式のTZR250(1KT)でレースを楽しんでいるのが、ゼッケン60の加藤康治さん。このマシン、普段はサーキット走行だけでなく街乗りやツーリングなどにも使用しているとのことです。
「もう20年以上乗ってます。元々このレースは公道を走っているようなカスタムマシンも多かったのですが、最近はレベルが上がってレース専用車みたいなマシンばかりになっている。でも、トップグループを走れなくても、こういう楽しみ方があるということを示したくて、今日もトラブルがなければ保安部品を付けて自走で帰るつもりです」と語ってくれました。
ツーリングなどに使用していることもあって、カスタムは城北ムラカミ製のチャンバーを付けたくらいで、あとはブレーキの強化とハンドル位置を変更した程度。それでも激戦区であるZERO4クラスでセカンドグループを走っていました。
そして、レース終了後は、宣言通りにライトやウィンカーなどの保安部品を装着し、自走で帰路についていました。「家に帰るまでがTOTです」と語る笑顔から、このレースを心底楽しんでいることが伝わってきました。
>> テイスト・オブ・ツクバ
<取材・文/増谷茂樹 写真/松川忍>
増谷茂樹|編集プロダクションやモノ系雑誌の編集部などを経て、フリーランスのライターに。クルマ、バイク、自転車など、タイヤの付いている乗り物が好物。専門的な情報をできるだけ分かりやすく書くことを信条に、さまざまな雑誌やWebメディアに寄稿している。
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