■開発者が心に抱く“オレのZ”
「フェアレディZは、これまで6代を数えます。そのなかで特に人気が高かったのは、初代であるS30(1969年)と、4代目のZ32(89年)。そこで今回はあえて、そのイメージを強く活かしています」
日産自動車グローバルデザイン本部に籍を置き、新型Zのデザインをとりまとめた入江慎一郎氏は、このように語ってくれました。
「S30を意識してフロントグリルの開口部を小さくしたいとか、デザイナーの希望はいろいろありました。それが、エンジンやブレーキのための冷却気を効率的に採り入れたいというエンジニアの意向と対立したりして、社内では協議の繰り返しでした(ちょっと笑)」
これを私的に解釈すると、従来のZのファンのために、と新型開発目標を立てたとき、日産自動車の開発者はみな“オレのZ”を持っていたということでしょう。
実際「ギアボックスやデフは、サーキットでもしっかり走れるもの」と、ドライブトレインの開発担当者は言います。
今回の9段トルコン式オートマチック変速機は、ダイムラー社から特許を買い、新型Zのスペックスに合うよう「8割がた」設計し直したといいます。彼にとってのZは、徹底的に走りが楽しめるクルマなのでしょう。ここにも“オレのZ”があると、私は感慨をおぼえました。
新型Zのモデルバリエーションは大きくいうと2つ。
変速機が、6段マニュアルと、上記のとおり9段オートマチックから選べます。エンジンは、298kW(405ps)の最高出力と475Nmの最大トルクを持つ3リッターV型6気筒がすべてのモデルで共用。グレードによってブレーキとタイヤサイズと快適装備が異なります。
従来のモデルは、ボンネットが妙に盛り上がっていました。新型は2550mmのホイールベースは同一ながら、全長4380mmに抑えられたボディサイズをうまく使い、すっと伸びたボンネットと水平基調の強い意匠で、エレガンスとスポーティさを両立させているなぁというのが私の感想。
走りは、まさにファントゥドライブがあります。メルセデス・ベンツはこの9段ATに電気モーターを組み合わせたマイルドハイブリッド「ISG」(インテグレーテッド・スターター・ジェネレター)としてCLSやEクラスに搭載しています。
1.5トンの新型Zは、ISGなしでも、発進から力強さを感じさせてくれ、加速をしていくと息ぎれまったくなし。しかも従来は最大トルクの発生回転数が5200rpmだったのに対して今回は5600rpmに引き上げています。
「それで、最後の最後まで力強さが連続する感じになっていると思います」
変速機の開発担当者の言葉どおり、7000rpmのレッドゾーン(それ以上エンジンを回すと壊れてしまうかもしれないという上限回転数)に達するまで、クルマは加速を止めません。なかなかシビれる感覚です。
日産によると「マニュアル変速機を好むファンも4割います」とのこと。今回のギアボックスも改良が加えられ、ゲート感が明確になるとともに、シフトフィールも改善されたそうです。滑らないよう人工スエード巻きで、扱いやすくなっています。
もちろん、マニュアルでギアを選び、エンジン回転数を操りながら走るのは、スポーツカーの醍醐味。私は6MTの「スタンダードモデル」に乗りましたが、速度計の上に設けられているレースカーのようなシフトアップインジケーターが赤(エンジン回転が上限に達していることを示す)になるまで回すと、最高の気分です。
一方、トルクがものすごく太いうえに、上の回転域までスムーズに回るエンジンなので、3速で固定していても、まるでオートマチックのように乗れてしまいました。
「GT-Rがモビルスーツだとしたら、Zはダンスパートナーだと思ってください」。
会場で会った、日産自動車商品企画部でブランドアンバサダーを務める田村宏志氏はそう言いました。田村氏は長いあいだ、GT-RとZのチーフプロダクトスペシャリストを務め、22年1月に定年を迎えたあと、現在のポジションで両モデルを見守っています。
ダンスパートナーというのは、目を三角にして、たとえばサーキットでのタイムアタックに挑戦するのでなく、すいすいと気持ちよく走るクルマってことだろうなと私は思った次第です。
たしかに、9段オートマチック変速機モデルは、よく出来ています。私が乗ったのは上級グレードの「バージョンST」。ギアボックスはエンジンのトルクバンドをうまく引き出してくれるので、アクセルペダルの微妙なオンオフにも即座に反応。ステアリングホイール操作に対して、ドライバーの意思どおりにクルマが動いてくれるのが、かなりいい気持です。
トヨタのGRスープラが、かなりスポーティに振った仕様であるのに対して、トルクたっぷりのエンジン搭載のフェアレディZはもうすこし快適志向。「直接のライバルはいません」(田村氏)というのもよくわかる気がしました。
■魅力的なラインナップ
フェアレディZは、まず「Proto Spec」なる限定仕様が、240台発売されます。「イカズチイエロー」の車体に「スーパーブラック」のルーフという2トーンの車体色。、イエローに塗られた対向ピストンのブレーキキャリパー、19インチの鍛造ホイール(ゴールド)、シートなどにイエローステッチなど特徴があります。MTとATともに、価格は696万6300円です。
Proto Specのあと、「ベーシックモデル」(6MTと9ATとも524万1500円)をはじめ、「バージョンS」(MTのみで606万3200円)、「バージョンT」(ATのみで568万7000円)、「バージョンST」(MT、ATともに626万2500円)と続く予定です。
あいにく、部品の供給不足のため、日産自動車では7月19日に、今回の新型フェアレディZの受注を停止と発表。「再開は未定」(広報部)だそう。7月中はオーダー可能ともいわれているので、欲しい人は急いだ方がよさそうです。
<SPECIFICATIONS>
☆Nissan Fairlady Z
ボディサイズ:L4380xW1845xH1315mm
エンジン:2997ccV型6気筒ターボ
駆動方式:後輪駆動
エンジン最高出力:298kW/6400rpm
エンジン最大トルク:475Nm/1600〜5600rpm
価格:524万1500円〜
<文/小川フミオ 写真/日産自動車>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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