■最大出力1000馬力を超えるモンスターEV
ハマーEVは、GMが「アルティウム」と名づけたモジュラー式のバッテリープラットフォーム使用。この最新の車台のメリットは、モデルに合わせてフレキシブルに大きさや、搭載するバッテリーの数を変えられること。ハマーEVでは2段重ねの24モジュールという最大容量を使います。
モーターを前後に搭載。635馬力(473kW)の「EV2」と「EV2X」 なるグレードでは、リアにモーターは1基。量産モデル中もっともパワフルな830馬力(618kW)の「EV3X」と限定発売された1000馬力の「エディション1」では、リアのモーターが2基となり、左右輪がべつべつに駆動されます。
最大トルクがちょっと信じられなくて、EV2とEV2Xでは7400パウンドフット(1万0033Nm)、エディション1とEV3Xは1万1500パウンドフット(1万5591Nm)。
おそらく380パウンドフット(515Nm)あたりの個々のモーターのトルクに最終減速機(フロントで13.4、リアで10.1)を掛けて合算した、多少おおざっぱな合計ではないかと。米国の自動車メディア「Motor Trend」の意見をそのまま紹介します。
そうなると、3モーターのエディション1とEV3Xという3つのモーターのトルク合計値は1045Nm。いっぽう、2モーターのモデルは836Nmぐらい。
なにはともあれ、体感的には速いです。車重は4.5トンあるというのに、静止から時速100キロまで加速するのに、スーパースポーツカーなみの3秒。ポルシェ911ターボよりコンマ2秒遅いだけ。
私はハマーEVに乗る前に、6.2リッターV8搭載のGMシルバラードZR2という420馬力のパワフルなピックアップを同じコースで試乗。これもかなりなものでしたが、ハマーEVエディション1に乗り換えて、とたんに絶句です。
走りのスムーズさたるや、別世界のもの。電子制御ダンパーと、後輪操舵システムによる操舵支援などそなえ、シルバラードがリアを滑らせた場所で、同じようにパワーをかけても、かなりのレベルまで安定して走り抜けてしまいます。
フリーウェイではいったいどんだけのスピードが出るのか。興味しんしんで開発者に質問すると、「オールテレインタイヤの性能が上限となって時速106マイル(170キロ)がせいぜいでしょうねえ」とのこと。それでもそんな速度で後ろからハマーEVが迫ってきたら、かなり焦りますよ。
アクセルペダルの踏み方に神経をつかう、上りと下りが連続して現れる屈曲路でも、軽くアクセルペダルを踏むだけで充分なトルクが出るため、なんと扱いやすいことか。
後輪操舵システムは、最近の大型高級車に欠かせない装備になってきた感があります。低速だと前輪と逆位相に後輪に角度をつけるため、仮想ホイールベースが短くなり隘路での取り回しがやりやすくなるメリットのせいです。ハマーEVでも同様です。
波状路といって、デコボコが続く路面を走ったとき、電子制御ダンパーのおかげで、乗員はほとんど揺さぶられませんでした。これにも感心させられました。回生ブレーキを使ってのワンペダルドライビングも可能で、「EVこそSUVの未来」というGMCの技術者の言葉に説得力を感じたほどです。
ハマーEVのSUT(トラック仕様)は、全長5506ミリのボディを、3444ミリという長いホイールベースのシャシーに載せています。ボディ全幅は2202ミリ。左右輪の感覚であるトラック(トレッド)は1861ミリと驚異的。日本の路上だと、コインパーキングなら2台ぶんが必要かもしれません。
満充電での航続距離は350マイル(563キロ)強と発表されています。価格は 「EV2」の8万4500ドル(1ドル130円として約1100万円)から。
あまりに印象的なドライブだったので、これ買えるのかな?と私が質問したところ、「北米でもとうぶんは待っていただかないと」とGMCの担当者に言われました。では日本では? 販売の予定は当分ないようです。
そこは残念ですが、ラインナップのEV化を進めるゼネラルモーターズとGMCの本気ぶりを感じさせる出来映えでした。
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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