■そう特別なことではないEV化
▲ブレイザーE5にはV型にユニットが組まれて搭載。Photo by John F. Martin for General Motors
私がすごいなと感心したのは、電気モーターなんだけれど、まるでエンジンみたいに扱っているところ。なにしろ、ブレイザーのボンネットの下には、2基のモーターがV型に組んであるんです。
目に飛び込んでくるのは、電流を制御するインバーターと、それに組み合わせて冷却まで制御するハイパワーディストリビューターモジュール。オレンジ色のぶっといケーブルが、いかにもパワフル、という印象を与えます。
使っているモーターは、シボレーのピュアEV「ボルト Bolt」のもの。149kW(200hp)の最高出力と360Nmの最大トルク。これに60kWhのバッテリーを組み合わせるのがオリジナルです。
ブレイザーでは、2基連結のため、450hpとされています。シボレーパフォーマンスによると、さらに、バッテリーを2層にして容量を上げることで最大700hpのパワーが絞り出せるとか。
「世界が進化するにつれて、ゼネラルモーターズも新しい未来をつくりだしていきます」。GMにあって、これまで自社の製品のチューンナップを手がけてきた「シボレーパフォーマンス」はそう説明。
ブレイザーE5は、電子的に合成されたかつてV8的なぶっといドローン音を響かせながら、静止から時速60マイル(96km/h)を5秒で加速といいます。たいしたものです。
ブレーザーE5にしても、Eルカミーノにしても、Eストリートロッド化が容易な点があります。荷室が大きいので、大容量のバッテリーが搭載できる点です。
シボレーパフォーマンスでは、EV化はなにもそう特別なことではない、と考えているようです。これまで米国人は、たとえばこの会社が組み上げたヘビーデューティ(高性能)仕様のV8エンジン単体を通販で購入し、自力で自分のクルマに搭載するのが“当たり前”。これと同じように扱えることを目指すんだそうです。
組み上げられて通販で送られるエンジンのことを、米国人は“クレートエンジン”などと呼びます。木箱(クレート)に入って送られてくるからでしょう。EVユニットについて、シボレーパフォーマンスでは「eクレート」と名づけています。
私がミシガン州ウォーレンのGMテクニカルセンターで話を聞いた担当者は、「ギアボックスは従来のガソリンエンジン用のものが使えます」と言っていました。このEVユニットには、従来のガソリンエンジンと同様のパワーアウトプットシャフトがあるのでしょう。ようするに、簡単にコンバート(ガソリンからEVへの転換)ができるというのが、メリットなのです。
ただし、販売にはまだ至っていないようで、見せてもらったのは、「ここまで出来るというショーケース」(担当者)とのこと。今は、2016年発売のボルトのユニットを使っていますが、「将来的にはさまざまな可能性があります」と言います。
つまり、キャデラック・リリックやGMCハマーEVに使われている「アルティウム」という新世代のパワーユニットで、EVストリートロッドを作ることだってありえるわけです。
なぜそこまでしてEV化を? と確認すると、「0(ゼロ)クラッシュ、0エミッション、0コンジェスチョン(衝突事故ゼロ、排ガスゼロ、渋滞ゼロのスリーゼロ)がGMが追求する電動化の姿で、(今回のように)電動コンポーネンツを提供するのも排ガスゼロへの取り組みです」という答えが返ってきました。
「イノベーションの可能性はリミットがありません」。シボレーパフォーマンスはそう謳っています。
こんな大きなバッテリーを60年代のクルマに搭載して、衝突の際の安全性は大丈夫なんでしょうか。それについて、GMのテクニカルセンターで、開発担当者に尋ねると、「古いクルマは頑丈に出来ているので大丈夫ですヨ」と答えてくれました。
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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