■4ドアでもやっぱりフェラーリ
スタイリングは、プロポーションこそ従来のフェラーリモデルとは違いますが、力強いフェンダーの”稜線”といい、緊張感のあるボディの面づくりといい、やっぱりフェラーリ。
「プロサングエは、デザインチームがエンジニアリングチームと緊密な関係を保ちつつ開発したモデルです」。発表会の席上で、チーフデザインオフィサーのフラビオ・マンツォーニ氏は説明してくれました。
「一例が、空力ボディ。ヘッドランプの上のエアインテークから空気を採り入れて、前席ドアの前のアウトレットから抜きます。それによって高速でのダウンフォースを生み、同時にエンジンルームの熱気を外に出すのです」
もうひとつ、プロサングエで注目してもらいたいのは−−マンツォーニ氏は続けました。
「フローティングボディと私たちが呼ぶ、新しいデザイン言語の採用です。前後のホイールアーチを見ていただければわかるかもしれませんが、そこにギャップのような深い凹面を設けて、ボディが上下に分割されている印象を出しています。上は彫刻的な美を表現し、タイヤや空力的付加物のある下はパフォーマンスの表現と、分けています」
興味深いのは、フェラーリにとって4ドアのプロジェクトはプロサングエが初めてではないということです。創設者エンツォ・フェラーリが存命中(1988年没)に、ピリンファリーナとともにプロトタイプを作りあげたこともあるそうです。
「オーナーから、家族で乗れるフェラーリを作ってほしい、という声が寄せられていたので、それに応えられるか、プロジェクトを立ち上げたんです」
それは1980年の「フェラーリ・ピニン」なる試作のことでしょう。現存する写真をみると、長く低い4ドア車。Aピラーは隠しピラーとしてウィンドウの内側に入っていて、ドアはプレスドア。車体側面に強いエッジが前から後ろまで水平に入っていますが、全体の印象はクリーンで、出していたら売れたのでは、と思わせられます。
「エンツォ・フェラーリは、市場の声は意識していたものの、このプロジェクトにゴーサインを出しませんでした。性能が、自分の要求水準に達していないと判断したからです」
記者会見での第三の重要人物、チーフプロダクトディベロップメントオフィサーのジャンマリア・フルゼンツィ氏はそう明かしてくれました。
フルゼンツィ氏が言いたいのは、その”フェラーリ基準”がいまも厳然と存在しているということです。別の言い方をすると、プロサングエは自分たちが”これならフェラーリの名をつけても満足できる出来だね”と納得の出来だったそうです。
「4ドアのフェラーリという要求は、ずっと途切れることがありませんでした。いまプロサングエを発表したのは、アクティブサスペンション開発の成功によるところが大きいのです。エレクトロマグネティック(電磁)式で、高い操縦性を実現しつつ、乗り心地も満足いくものです」。フルゼンツィ氏は教えてくれました。
アクティブサスペンションに、全輪駆動方式と、後輪操舵システムの組み合わせ。後輪操舵システムの考えかたもフェラーリ独自で、左右後輪が同時におなじ方向を向くのでなく、外側のタイヤは直進方向を維持することで、よりキビキビとした操縦性がもたらされるんです、とフルゼンツィ氏。
それにしても、と私。いまどき、6.5リッターもの自然吸気V型12気筒(最高出力533kW、最大トルク716Nm)を発表するなんて、どういうことなんでしょうか。このあと、電動化が視野に入っているんでしょうか。その疑問をフルゼンツィ氏にぶつけてみました。
「自然吸気型の大排気量エンジンには、ごく低回転域からの大トルクと、レッドゾーンまで途切れることのない加速感というすばらしい特長があります。それを味わっていただきたいと考えました。いまの世のなか、はっきりいって、電気なのかハイブリッドなのか内燃機関なのか、将来への正解がはっきり見えません。現段階ではフレキシブルに、さまざまな可能性を残しておきたいというのもあります」
フェラーリに期待されるあらゆるものを、まったく新しいボディに詰め込んだ。それゆえ「サラブレッド」の名がふさわしい、と結論づけた、とのことです。
デザインを担当したのは、GTのチーム。フェラーリの量産車部門にはもうひとつ、ピュアスポーツカーの部門もあります。GTは、今回のプロサングエをはじめ、ローマとかポルトフィーノとかの名をもつモデル。ピュアスポーツカーは数字が使われます。
注目していただきたいのは後席ドア。後ろヒンジです。フェラーリではこれを「ウェルカムドア」と表現。前ヒンジの通常のドアより後席にアクセスしやすいかもしれません。
「このドアを採用したのにはフェラーリならではの理由があります」。フルゼンツィ氏は語ります。
「4ドア4シーターですが、いたずらにホイールベースを延ばしては、性能に支障が出てしまいます。現在の長さ(3018ミリ)がぎりぎり。そこで充分な剛性を確保しつつ、乗降性を確保する手段として、ウェルカムドアが最適と判断しました」
いわゆる観音開きのドアだと、なんだかボディ剛性が落ちちゃうんじゃないかと私たちは心配しがちですが、かつての2ドアの4人乗りモデル、GTC4ルッソに対してボディのねじれ剛性は30パーセント向上しているそうです。
リアシートはフロントと同じフルバケットタイプ。からだにしっくりなじみます。前後に200mmスライド可能なので、レッグスペースも充分。形状は、しっかり乗員をホールドして、スポーツカーに乗っている感覚が重要です、とマンツォーニ氏。「5シーター(ベンチシート)はありえません」とのきっぱり。
「このクルマばかり売れるという事態を回避するため」とガリエラ氏は、プロサングエは20%程度に留める方針を明らかにしました。でも全体の台数は明かされません。「言えるのは、需要よりつねに1台少なく、という創業者の方針をいまも守っていることです」と、ガリエラ氏は笑いながら言います。
価格は39万ユーロと記者会見の席上で聞きました。でも先に書いたとおり、あまりに注文が多くて、「受注停止を考えています」とのこと。
【Specifications】
☆Ferrari Purosangue
全長×全幅×全高:4973x2028x1589mm
エンジン:6496ccV型12気筒 全輪駆動
最高出力:533kW@7750rpm
最大トルク:716Nm@6250rpm
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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