■VWらしい機能主義的デザイン
試乗の日は朝から雨。ものすごく久しぶりの雨、とコペンハーゲンのひとたちは喜んでいました。私は反対に運が悪かったのですが、でも雨の街中で眺めたID.4、適度な重厚感を感じさせてくれました。欧州車は欧州の街並みが似合うなあと、私はあらためて思った次第です。
魅力は、フォルクスワーゲン好きのかたなら”いいねえ”と言うだろう、機能主義的なデザイン。4ドアハッチバックで、かつSUV的な要素があり、最低地上高も少し余裕があります。悪路はともかく未舗装路面でもけっこう走れるとVWは言っています。
ホイールベースも長く、床面はフラット。全高を1612mmと少し上げて、それによって乗員のヘッドスペースをかせいでいます。なので、前席も後席も、かなりリラックスできる空間になっているのです。
“いいもの感”がたっぷりあるのは、ぱんっと張ったようなボディ面の作りの良さのせいでしょう。ボディは各所に抑揚がつけられているし、ボンネットの左右端はぐっと盛り上がって力強さを感じさせます。
新しい印象が強いのはフロントマスク。LEDライトのアクセントは、ゴルフやT-Rocなど最新のVW車に共通するテーマですが、ID.4では加えてフロントグリルがあるべきところに開口部がありません。
■力強い加速とEVとは思えない乗り心地
EVはエンジン車と違って、ラジエターが必要ない、と思っているユーザーが少なくないようです。その“誤解”をそのまま利用して、新世代のVWを代表するEVであることをアピールするため、あえてグリルレスデザインにしたのでしょう。
本当は、EVでも冷却は必要です。とりわけ、インバーターといって、バッテリーからの直流の電力を、モーターを駆動するために交流に変換する重要な装置は、かなり熱を持つので、効率的な冷却が重要なのです。
ID.4もよくみると、フロントフェンダー前やバンバー下に開口部が設けてあります。つまり知っている人が見ると、開口部がけっこう大きいってことはバッテリー容量が大きい、つまりパワフルで航続距離も長いんだろうって見当がつくのです。
実際にID.4は、150kWの最高出力と310Nmの最大トルクという数値を持つだけあって、力強い加速を味わわせてくれます。ちょっとアクセルペダルを踏み込むと、後輪がぐっと車体を押しだします。
ただし、その加速感は、あくまでなめらか。ちょっと前のEVのように、やたら発進時のトルク感が強調されたりはしていません。ナチュラルな感覚が追求されているのでしょう。EVも成熟してきたなあと私には思えました。
乗り心地は快適。EVの弱点のひとつは、乗り心地、ということもよく言われてきました。大型バッテリーが邪魔してサスペンションアームの長さが制限され、それが乗り心地を犠牲にする、なんてこともありました。
ID.4は、コペンハーゲンの市街地を走りまわったかぎり、足(サスペンションシステム)の動きはしなやか。運転している私をはじめ、後席に乗っているひとたちも、不快に揺さぶられる場面は皆無でした。
さいきん乗ったメルセデス・ベンツEQS450+も、リアにエンジン搭載の後輪駆動で、やはり、ものすごくスムーズで、しなやかな乗り味のクルマだったのを思い出しました。
EVは、いまや、着実に進化している。それがID.4の総体的な感想です。
フォルクスワーゲンジャパンによると「日本には2022年内に導入予定です」とのことでした。
【Specifications】
☆Volkswagen ID.4
全長×全幅×全高 4584x1852x1612mm
ホイールベース 2766mm
電気モーター1基 後輪駆動
最高出力 150kW
最大トルク 310Nm
バッテリー容量 77kWh
航続可能距離 537km(WLTP)
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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