■EVでも受け継がれるロールスロイス“らしさ”
ロールスロイスらしさって何? 人によってさまざまでしょうが、私にとっては外から聞くエンジン音です。子どものときに、街で見かけた1950年代のロールスロイスのエンジン音があまりに静かで、しかもシュンシュンっといった感じに独特で、驚いたことあります。
なので、今回のスペクターは電気モーターだから無音のロールスロイスになるわけですが、私にとっては、当然の帰結のように思えるほどです。
ロールスロイスは、ちなみに、静けさを、とりわけ幽玄なものと結びつけて車名にしてきた歴史があります。ゴーストとかファントムとかレイス(生き霊=コワッ)とか……。トヨタが「亡霊」とか「幽霊」とか「生き霊」とかを車名にしても、あなた、平気ですかって世界です。
スペクターも、当然というか、亡霊の意味です。英語圏だと、微妙に表すものがちがうんでしょうね。日本だって源氏物語の昔からもののけ好きなわけですけど、語彙不足を感じさせられます。
■ボートをテーマにした丸みのあるデザイン
スペクターのスタイリングは、いまのレイスをすこし大きくしたようなイメージです。
ロールスロイスのデザインディレクター、アンダース・ウォーミング氏は、私のその見解を肯んじず、「ゴースト・クーペ(2008−2016)の後継車的なイメージ」と教えてくれました。
教えてくれました、っていうのも、へんないい方ですね。
サイズはレイス(全長5280mm)より173mm長くなっています。ホイールベースだって100mm長いのです。
大きな後ろヒンジドアを持っていて、後席にも大人が余裕もって座っていられます。レイスでも充分後席は広いので、スペクターはその上をいくわけです。
デザイン上の特徴は、キャビンにあります。後方にいくにしたがって、上から見ると、ぎゅっとしぼられたような造型です。
そして丸みを帯びたリア。テーマはボートだといいます。
側面から見ても同様です。「下側のラインはワフトライン(ふわりと浮かぶ ライン)と呼ばれ、ヨットのデザインから着想を受けたものです」とウォーミング氏は解説してくれました。
浮かぶ、というのは、マジックカーペットライドを標榜するロールスロイスの製品イメージと合うんでしょうね。
ボディ側面にアクセントをつけるキャラクターラインにも凝っていて、ぱきっとエッジがたっているところと、あえて丸くしているところがあります。「それによって前から後ろにかけての流れを生んでいるんです」とウォーミング氏。
はっきりいって、スペクターが眼の前に登場したときは、モダナイズされたレイスかな、という印象もなきにしもあらずでした。でもディテールは当然、かなりアップデートされているわけです。ロールスロイスは時間をかけながら、ゆっくり“らしさ”の内容を変えていくんでしょう。
電気自動車になっても、従来のロールスロイスの特徴を失わない、というスペクター。はたしてどんな乗り味なんでしょう。まだ実車に試乗したジャーナリストはいないはずです。「いまだいたい95パーセント完成している」(テクニカルディレクターのアヨウビ氏)そうなので、楽しみに待とうではありませんか。
納車は、2023年の第4四半期を予定。価格は「カリナン(4258万円)とファントム(6050万円)の間」(広報担当者)とのことです。
【Specifications】
☆Rolls-Royce Spectre
全長×全幅×全高:5453x2080x1559mm
ホイールベース:3210mm
電気モーター:前後1基ずつ 全輪駆動
最高出力:430kW(予定)
最大トルク:900Nm(予定)
航続可能距離:520km(WLTP)
<文/小川フミオ>
オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中
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